美食倶楽部クーラウ ~秘密は甘い罠~

米原湖子

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第1章 発端

06

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男性は母親亡きあと、世間に報復するように荒れに荒れ、結果、外道に成り下がってしまった。

しかし、人を殺めたり悪い薬に手を出したりしなかったのは幸いだ。
母親との約束だったらしい。それを知り、ちょっとほっとする。

だが、何をどう言い繕ったとしても悪は悪だ。彼が行ってきた悪行は詐欺だった。頭も顔も良かった彼は、結婚詐欺や地面師みたいな土地売買にまつわる詐欺を働いてきたようだ。

なるほど、と頷く。かなり歳を取っているが、確かにかなりの色男だ。
そして、今は――えっ! 無銭飲食の常習犯?

ブランドものと思しきスーツに品の良いネクタイ。丸縁の眼鏡が整った顔を嫌味なくお茶目にしている。どうやらこの身なりの良さで、店側もすっかり騙されてしまうようだ。

おまけに彼の手口は実に巧妙だった。

彼は内ポケットに、いつも高級な皮の財布を持参している。それにはたっぷりお金が入っていて、万が一捕まっても、『まだら呆けの症状がある』と言い訳をして、謝罪と共にお金を払うらしい。

だから、無銭飲食なんかで捕まったことがなかった。なんてずる賢いのだろう。

だが、彼はお金がないから無銭飲食を働いているのではない。彼にとってこれはゲームなのだ。

彼は現在とても裕福だった。詐欺で手に入れたお金だが、母親の教えを守り堅実にしっかり貯めていたようだ。

だが、三つ子の魂百までもではないが、彼の根底にある怒りは未だに収まっていなかった。無銭飲食はその現われなのだ。

しかし、一瞬だけだが、安納芋を見たときに『やめようかな』と彼に迷いが生じた。でも、それは本当に一瞬だけだった。

それで分かった。クーラウでもやるつもりだと。

――どうしよう!

オロオロと視線を泳がせ考える。しかし、考えたところで結果はいつもと同じだった。私も両親の教えを守り、人のためにこの力を使ってしまうのだ。今回は“美食倶楽部クーラウ”のために!



「あの人、無銭飲食しようとしています!」

クラッシックが流れる静かな店内に、私の声が大きく響いた。
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