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第1章 発端
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経験上、なぜ、と問われて素直に話しても、到底信じてもらえず、嘘つき呼ばわりされるのがオチだ。
「私、記憶力がいいので」
だから無難な言葉を返した。
履歴書の学歴でも分かるとおり、私はとても頭がいい。だから、この答えで大抵の人は納得した。
「それはこれを見れば一目瞭然だ」と西園寺オーナーがローテーブルに置かれた履歴書を、トントンと指で小突いた。
「その若さで多岐に亘る特許を取っているし、様々な資格も持っている。だが、今回の件には関係ない。あの男は指名手配されていたわけではないからな。事情を知らない限り彼が詐欺師だと分かるはずがない」
だが、西園寺綾時は恐ろしい男だった。誤魔化されなかった。
「えっと、いつかどこかで、あの男性が無銭飲食をしていたのを……」
「見たことがあるというのか?」
珍しく動揺してしまい、しどろもどろに答える。だが、疑わしそうな眼が私を地味に追い詰める。
「そう、そうです!」
ふーん、と西園寺オーナーは全然信じていなさそうだが、「まぁ、いい。今に化けの皮を剥がしてやる」と突然話を終わらせた。
「仕事は明日からだ。詳しいことは厨房の責任者に聞け。間もなく来る」
言葉が終了すると共にトントンとノックの音がした。だからだなと悟るが……彼の言葉が重く心に残り――真実を話すべきだろうか、いやでも……と思考が迷宮に巡っている間にドアが開き一人の男性が入ってきた。
現われたのは、フロアスタッフとはちょっと違う出で立ちの人だった。同色のカラーだが、上着丈が短いのとベレー帽とロングソムリエエプロンを身に付けていた。
これで、この店のイメージカラーが黒と赤なんだと分かった。やっぱりお洒落な店だ。
「私、記憶力がいいので」
だから無難な言葉を返した。
履歴書の学歴でも分かるとおり、私はとても頭がいい。だから、この答えで大抵の人は納得した。
「それはこれを見れば一目瞭然だ」と西園寺オーナーがローテーブルに置かれた履歴書を、トントンと指で小突いた。
「その若さで多岐に亘る特許を取っているし、様々な資格も持っている。だが、今回の件には関係ない。あの男は指名手配されていたわけではないからな。事情を知らない限り彼が詐欺師だと分かるはずがない」
だが、西園寺綾時は恐ろしい男だった。誤魔化されなかった。
「えっと、いつかどこかで、あの男性が無銭飲食をしていたのを……」
「見たことがあるというのか?」
珍しく動揺してしまい、しどろもどろに答える。だが、疑わしそうな眼が私を地味に追い詰める。
「そう、そうです!」
ふーん、と西園寺オーナーは全然信じていなさそうだが、「まぁ、いい。今に化けの皮を剥がしてやる」と突然話を終わらせた。
「仕事は明日からだ。詳しいことは厨房の責任者に聞け。間もなく来る」
言葉が終了すると共にトントンとノックの音がした。だからだなと悟るが……彼の言葉が重く心に残り――真実を話すべきだろうか、いやでも……と思考が迷宮に巡っている間にドアが開き一人の男性が入ってきた。
現われたのは、フロアスタッフとはちょっと違う出で立ちの人だった。同色のカラーだが、上着丈が短いのとベレー帽とロングソムリエエプロンを身に付けていた。
これで、この店のイメージカラーが黒と赤なんだと分かった。やっぱりお洒落な店だ。
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