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第2章 愉快な仲間たち

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あれ以来、マミさんと神乃マネージャーの仲は改善されたが、それに気付いているのは私だけのようだった。二人は以前と変わりなく、淡々とした仲を装っていた。

「ねぇ。寧々の賄い、オーナーに食べてもらった?」
「いえ、機会がなく、まだです」
「あのおむすび、本当に美味しかったぁ。でも、最近不作ね」

不作というのは『次回に期待』という評価続きだからだ。お握り定食以降『オーナーに試食』という評価を貰った賄いはない。

私はどれもこれも美味しいと思ったのだが……いったい何を以て『オーナーに試食』に至るのだろう?

今日の賄いは柚木斗真ゆずきとうま君という、若干二十二歳ながら海外の三つ星レストランで修業を積んだ、クーラウ期待の若手ホープが作ったものだ。

「マミさん、それ嫌味ですか?」
「本心よ。どうして?」
「だって、柚木君の料理を食べながら言うからです」

「はぁ?」という顔で、マミさんが“彩り竹籠弁当”と名付けられた料理に目をやった。
視線の先には、丸く編んだ大ぶりの竹籠に旬の食材をこれでもかと使った料理が載っている。

海外の生活が長かったと聞いていたので、柚木君作の賄いを見たとき意外に思った。なぜなら、『ザ・和』だったからだ。いつか写真で見た、晩秋の京都嵯峨野をイメージさせるお弁当だった。

「見て下さい、このコハダの酢じめを。トッピングの山芋とイクラがとっても綺麗ですよね? お握り定食とは比べものになりません」

見た目もさることながら味も抜群だった。トッピングが味に深みを与え、えもいわれぬ美味しさにしていた。
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