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第4章 美しい女性

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「ところで、最後の項にある『理由の如何問わず、乙がクーラウを退職する場合、甲は責任をもって次職を見つける』ですが、万が一ここを辞めることがあっても、同等の賄いがある職場を紹介して頂けるのですか?」

「ああ、そうだが……お前の職探しの基本は賄いだったな。分かった。それも書き加えておく」

至れり尽くせりだ。まるで狐に抓まれているようだと気味悪くその様子を見ていると、西園寺オーナーはパソコンをササッと操作して、新しい念書を作り上げた。

私はそれにサインをして西園寺オーナーの部屋を後にしたのだが……西園寺オーナーは狐ではなく鬼だった。


***


翌日、仕事を終わらせると私服に着替えて西園寺オーナーの部屋をノックした。
そして、部屋に入った途端、「それで行くのか?」と嫌そうな顔をされてしまった。

「クローゼットの中で一番良い服を着てこいと仰ったので」
「それがリクルートスーツだというのか?」

改まった服はこれと礼服……両親の葬儀に着た黒い服しか持っていなかった。だが、それを着るのはいささか抵抗があった。

「ジーンズはNGでしたよね?」
「当たり前だ。西園寺が経営するホテルは一流の者たちが集まる場所だぞ」
「ですよね? だったら、私を連れて行くのを止めたら……」
「できない相談だ。念書もあるしな」

提案しかけた意見を言葉半ばでバッサリ斬り捨てられる。

「しかし、その姿では連れて行けない。恥を掻くのはお前だが、恋人に服も買ってやらないのかと思われ、私もまた恥を掻く。それは絶対に阻止したい」
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