美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第４章 美しい女性

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「綺麗ですね！」

西園寺オーナーの機嫌が悪かったことなど、すっかり忘れてしまっていた。

「クリスマス仕様になっているからな。少し派手派手しいが」

彼も黙って無視するのは大人げないと思ったのか、返事をしてくれた。

「お前は近くに住んでいながら知らなかったのか？」
「このイルミネーションですか？　知りませんでした」

基本、私はインドア派だ。

「寒さに震えながら光りを見に行くなんて行為、無駄だと思っていましたから」
「ロマンチシズムの欠片もない奴だな」
「でも、今回ので欠片の一片を頂いたように思います」
「まぁ、感動したならいい。シェフを志すなら日々感動に出会え」
「出会えば真のコックになれるんですか？」

道理は分かる。人を感動させる料理を生み出すには、自己の感動が不可欠だと西園寺オーナーは言っているのだろう。

「だったら、コックへの道は私にとって遙か遠い彼方の道……かもしれません」
「お前の方がアンドロイド？　サイボーグ？　みたいだな」

確かに西園寺オーナーの言うとおりだ。

「――今回のことで学びました。人間は思いがけない体験に感動を覚えると」

「ふーん」と西園寺オーナーが鼻を鳴らした。

「お前はまだ子どもだな。せいぜい今のうちに目を見開き、世界を見ておけ」
「二十四歳がお子様でしょうか？」
「ああ、夏乃よりずっとな」

何を以てそう思うのだろう？
そんな疑問を抱いているうちに、車が玄関先に到着した。

「そこを動くじゃないぞ」

駐車係にキーを渡すと西園寺オーナーは助手席に回りドアを開けた。
どうやらもう演技は始まっているらしい。