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第4章 美しい女性
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演技だと分かっているが……異性と手を繋ぐなんて幼稚園以来だ。腕を組むより妙にドキドキする。しかし、経験値の違いか、彼は平然としていた。
「西園寺様、いらっしゃいませ」
黒い蝶ネクタイを着けた黒服の男性が、至極丁寧に頭を下げ出迎えた。
「目黒マネージャー、京極氏は?」
「お待ちです」
案内されたのは“宝玉の間”という個室だった。入り口に墨字で『貴賓室』と書かれたプレートがぶら下がっている。VIPを接遇する部屋だ。VIP? 私が?
「西園寺様がいらっしゃいました」
呆気に取られている私を置き去りに、目黒マネージャーが声を掛けると「どうぞ」と男性の声が答えた。その声に応えるように、彼は「失礼します」と格子戸を開き「どうぞごゆっくり」と私たちを中に促した。
部屋の中にまず見えたのは、背丈ほどの黒光りする衝立だった。細かな細工に凝った模様。所々に埋め込まれたカラフルな石は宝石だろうか? 見るからにだが、それが相当高価な品だと私でも分かった。
西園寺オーナーはそれには目もくれず足を進めた。そして、次に目にしたのは、部屋の中央に置かれた円卓だった。そこに富美乃様と夏乃お嬢様、そして、男性が座っていた。
彼が貴之様だろう。富美乃様より十歳も上だと聞いていたが……全然見えない。
西園寺オーナーより少しだけ横に貫禄はあるが、それが良き旦那様、良き父親という印象を与えた。
「遅くなりました」と言いながら、西園寺オーナーがようやく手を離したが、私は見逃さなかった。夏乃お嬢様の鬼のように怒った顔を。
「ああ、綾時君、久し振りだね。堅苦しい挨拶は抜きにして。座って」
京極氏が柔らかな声で席を指すと、「綾時お兄ちゃまは私の横!」と夏乃お嬢様が叫んだ。そして、私を一瞥してフンとそっぽを向いた。
「西園寺様、いらっしゃいませ」
黒い蝶ネクタイを着けた黒服の男性が、至極丁寧に頭を下げ出迎えた。
「目黒マネージャー、京極氏は?」
「お待ちです」
案内されたのは“宝玉の間”という個室だった。入り口に墨字で『貴賓室』と書かれたプレートがぶら下がっている。VIPを接遇する部屋だ。VIP? 私が?
「西園寺様がいらっしゃいました」
呆気に取られている私を置き去りに、目黒マネージャーが声を掛けると「どうぞ」と男性の声が答えた。その声に応えるように、彼は「失礼します」と格子戸を開き「どうぞごゆっくり」と私たちを中に促した。
部屋の中にまず見えたのは、背丈ほどの黒光りする衝立だった。細かな細工に凝った模様。所々に埋め込まれたカラフルな石は宝石だろうか? 見るからにだが、それが相当高価な品だと私でも分かった。
西園寺オーナーはそれには目もくれず足を進めた。そして、次に目にしたのは、部屋の中央に置かれた円卓だった。そこに富美乃様と夏乃お嬢様、そして、男性が座っていた。
彼が貴之様だろう。富美乃様より十歳も上だと聞いていたが……全然見えない。
西園寺オーナーより少しだけ横に貫禄はあるが、それが良き旦那様、良き父親という印象を与えた。
「遅くなりました」と言いながら、西園寺オーナーがようやく手を離したが、私は見逃さなかった。夏乃お嬢様の鬼のように怒った顔を。
「ああ、綾時君、久し振りだね。堅苦しい挨拶は抜きにして。座って」
京極氏が柔らかな声で席を指すと、「綾時お兄ちゃまは私の横!」と夏乃お嬢様が叫んだ。そして、私を一瞥してフンとそっぽを向いた。
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