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第4章 美しい女性

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「夏乃はまたおかんむりなのかい? すまないね、聖天……いや、綾時君の恋人なら寧々さんでいいか。綾時君が絡むと途端に我が儘娘になってしまって、本当に困ったものだよ」

でも……全然困った風には見えない。夏乃お嬢様が可愛くて仕方がないようだ。

「お気遣いなく。気にしておりませんので」

これは本心だった。
でも、夏乃お嬢様はこの返事が気に食わなかったようだ。

「私が貴女のライバルにもならないって言うの?」

――ここは恋人としてどう答えるべきだろう? 一瞬考えて口を開いた。

「いえ、ただ、現実めいた話をすれば、私の方が相応しいかと」
「どこが?」

きっと夏乃お嬢様には、どこもかしこも自分より劣って見えるのだろう。

「なぜなら、現状況では、西園寺オーナーが貴女に恋心を抱いたら犯罪になってしまうので」

「確かに」と西園寺オーナーが吹き出した。京極夫婦は夏乃お嬢様を気遣いながらも笑いを噛み殺しているようだ。

「そんなことないもん!」

夏乃お嬢様が真っ赤な顔で怒り出す。まるで赤鬼の子どものようだ。何となく子どもっぽくて可愛いなと思ってしまった。

「もう帰る! こんな人と一緒の空気なんて吸いたくない」

立ち上がり地団駄を踏む夏乃お嬢様に、私を除いた三人の大人は困り顔だ。

事態の収束を図らねばヤバい――と思いつつ、私の口から出たのは、「シャラップ!」というキツイ一言だった。

自分でもビックリするような険のある声に、夏乃お嬢様がビクンと背筋を伸ばした。三人の大人たちもビックリ顔だ。
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