美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

第４章 美しい女性

24

「帰るですって？　貴女にとってはここで食事をすることなんて、たわいのないことなんでしょうけど、私は違うの。恋い焦がれていた場所なの。だから、帰らせないわ！」

自分勝手だが、それが正直な気持ちだった。

「な……何を……」

ブルブルと可愛い唇が震えている。おそらく怒りでだろう。だが、私は構わず話を続けた。

「西園寺オーナーと恋人になりたいと思うのも、結婚を夢見るのも、どうぞご勝手に！　でも、それなら大人な西園寺オーナーに見合うだけの女性になりなさい」

ビシッと言い切ると夏乃お嬢様の顔が僅かに変わった。そんなことを言われるとは思ってもいなかったようだ。

「まず、その第一歩が私との食事よ。嫌いな相手とでも平然と席を同じにできないようじゃ、大人の女性とは言えないわ」

こんな偉そうなことを言っているが、私なら、一緒に食事もしたくない人には端っから近付かない。しかし、そんなことを言って帰ってしまわれたら堪らない。だから、この場では正直者の私を封印する。

「――いっ言いたいことを言うわね！」

夏乃お嬢様がストンと腰を下ろした。どうやら勝利したようだ――と思ったのも束の間。

「貴女なんかに女性についてのアレコレを言われたくないわ！　ご存じかしら、プロトコールという言葉？　これでも私、それを身に付けるためのマナー教室にも通っているんだから」