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第5章 解雇
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耳に届くのは壁の古い掛け時計が秒針を刻む音だけ。その音がやけに大きく聞こえる。
スマートフォンをローテーブルに置いた西園寺オーナーが再びラップに手を伸ばした。何気ない風を装っているようだが心中穏やかではなさそうだ、と思った時だ。私の耳元で悪魔が囁いた。
そう、あれは天使の囁きなんかじゃなかった。魔が差したとでも言おうか? それに唆され、私の口からとんでもない台詞が飛び出したのだ。
「西園寺オーナーはそれでいいんですか? 富美乃様への想いを封じ込めたまま、一生あの方から逃げ回るおつもりですか?」
「なっ……」
人間とは驚愕の現実に出会うと瀕死の金魚になってしまうようだ。
目の前で口をパクパクする西園寺オーナーも類に漏れずだった。
「先日、沸跳墻を召し上がっているとき、西園寺オーナーの頭上に吹き出しを見ました。あれが貴方の思い入れのある食べ物ですよね?」
確認するように訊ねるが……驚き固まってしまった西園寺オーナーは、まるで雷にでも打たれたようだった。
それも当然かと小さな溜息を零す。だって、墓場まで持って行こうとしていた秘密を他人の口から聞いたのだから……。
哀憐の視線を西園寺オーナーに向けながら、さらに私は話を続けた。
「富美乃様が初めて沸跳墻を作られ、それを食した貴方はあまりの不味さに大笑いされた。その時、貴方はやっと西園寺の養子になれて幸せだと思ったんですよね?」
西園寺オーナーの瞳が僅かに揺らぐ。
そこで私は大きく息を吸い込み吐き出すと、思い切って最後の言葉を吐いた。
「――西園寺オーナーは富美乃様に恋をした……だから過去を忘れられた。ですよね?」
彼の様子をそっと伺うと――その顔は怒りで真っ赤だった。それでも私は話すのを止めなかった。
スマートフォンをローテーブルに置いた西園寺オーナーが再びラップに手を伸ばした。何気ない風を装っているようだが心中穏やかではなさそうだ、と思った時だ。私の耳元で悪魔が囁いた。
そう、あれは天使の囁きなんかじゃなかった。魔が差したとでも言おうか? それに唆され、私の口からとんでもない台詞が飛び出したのだ。
「西園寺オーナーはそれでいいんですか? 富美乃様への想いを封じ込めたまま、一生あの方から逃げ回るおつもりですか?」
「なっ……」
人間とは驚愕の現実に出会うと瀕死の金魚になってしまうようだ。
目の前で口をパクパクする西園寺オーナーも類に漏れずだった。
「先日、沸跳墻を召し上がっているとき、西園寺オーナーの頭上に吹き出しを見ました。あれが貴方の思い入れのある食べ物ですよね?」
確認するように訊ねるが……驚き固まってしまった西園寺オーナーは、まるで雷にでも打たれたようだった。
それも当然かと小さな溜息を零す。だって、墓場まで持って行こうとしていた秘密を他人の口から聞いたのだから……。
哀憐の視線を西園寺オーナーに向けながら、さらに私は話を続けた。
「富美乃様が初めて沸跳墻を作られ、それを食した貴方はあまりの不味さに大笑いされた。その時、貴方はやっと西園寺の養子になれて幸せだと思ったんですよね?」
西園寺オーナーの瞳が僅かに揺らぐ。
そこで私は大きく息を吸い込み吐き出すと、思い切って最後の言葉を吐いた。
「――西園寺オーナーは富美乃様に恋をした……だから過去を忘れられた。ですよね?」
彼の様子をそっと伺うと――その顔は怒りで真っ赤だった。それでも私は話すのを止めなかった。
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