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第6章 再就職

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なら、樫野チーフか白戸さんに聞いた方が良いのかもしれないが、聞いたが最後、交換条件として店に連れ戻されかもしれない。いや、絶対連れ戻される。

その証拠に、二日前からまた電話がジャンジャンかかってくるようになった。樫野チーフはしょうがないとして、白戸さんまで……。

だから、秤にかけたんだ。そして、マミさんの方が何となく勝てそうな気がしたのだが……留守電を聞く限り、噴火寸前の休火山を相手にしているようなものだと思い直した。

辞めた理由なんて言えないのに……でも、卵は手に入れたい。堂々巡りの迷路の中、電話が鳴った。マミさんだ!

負け試合と分かっているが、こちらから連絡したのだ、鳴り続ける電話を無視することはできない。

「――はい」
〈こら、バカ寧々!〉

鼓膜が破れそうな第一声に、すぐさまスピーカーに切り替える。

〈あんた仕事にも来ないで何をやってるの!〉
「実は退職しました」
〈休み呆け? すっと呆けたこと言ってないで明日はちゃんと来なさい!〉

全然信じてくれない。

〈あんたねぇ〉

スマートフォンの向こうから盛大な溜息が聞こえた。

〈喧嘩したぐらいで子ども染みた態度、止めなさい。社会人失格よ!〉
「喧嘩?」
〈聞いたわよ。オーナーと痴話喧嘩したんでしょう? 噂になってるわよ〉

どんな噂だ? 全く意味不明だ。

〈何よ、私にまで隠す気? パーティーの後、喧嘩したんでしょう?〉

確かに言い合ったが……それを誰かに聞かれていたのだろうか? でも、的外れということは詳しくは聞かれていなかったようだ。
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