164 / 170
第6章 再就職
33
しおりを挟む
富美乃様を愛していた西園寺オーナーは苦しんでいた。だから、これ幸いと西園寺の家から離れたのだ。
大学院を出た西園寺オーナーは世界を回り、我が道を模索した。そして、辿り着いたのが、自らが開店した“美食倶楽部クーラウ”、奇しくも母親と同じ飲食店だった。
しかし、義父も京極氏も富美乃様も、未だにそれを良しとしていない。なぜなら西園寺を継ぐのはオーナーだと思っているからだ。
それぞれの思いが複雑に絡まり合い、今に至っているというわけだ。
「ご馳走様」
西園寺オーナーが手を合わせた。
「吹き出しが視えるお前なら、これで全て分かっただろう?」
「はぁ……まさか西園寺オーナーがあのお店の子だったとは」
かなり衝撃的な事実だった。
「母の味を――お前のことだ。おそらく研究し倒したんだろうな」
「仰る通りです」
「――ありがとう。あの味を残してくれて」
うわっ、まただ! 二度目の『ありがとう』になぜか恐怖を覚え、思わずよけいな言葉を発してしまった。
「それにしても、西園寺オーナーってマザコンだったんですね」
途端に彼の機嫌が悪くなる。
「バカか! 母一人子一人だったから母親思いだっただけだ!」
しかし、その顔は真っ赤だった。
「今の言葉で思い直した。戻ったら皿洗いを卒業させやろうと思っていたが、却下だ!」
「えっ! もしかしたらコックとして再就職させてもらえたんですか?」
「だからそれは却下だ。今までどおり、皿洗いと雑用係に励むんだな」
「それってパワハラじゃないですか!」
「何とでも言え。店に戻れるんだ幸せに思え」
そりゃあ、クーラウの賄いがまた食べられるのは嬉しいが……。
「精々こき使ってやる。楽しみしていろ」
西園寺オーナーのこの顔、何だかすっごい悪い顔だ。絶対に裏がある!
このとき『正直は一生の宝』より『正直者が馬鹿を見る』を、我が心に教訓とした方が身のためだと私は悟った。
大学院を出た西園寺オーナーは世界を回り、我が道を模索した。そして、辿り着いたのが、自らが開店した“美食倶楽部クーラウ”、奇しくも母親と同じ飲食店だった。
しかし、義父も京極氏も富美乃様も、未だにそれを良しとしていない。なぜなら西園寺を継ぐのはオーナーだと思っているからだ。
それぞれの思いが複雑に絡まり合い、今に至っているというわけだ。
「ご馳走様」
西園寺オーナーが手を合わせた。
「吹き出しが視えるお前なら、これで全て分かっただろう?」
「はぁ……まさか西園寺オーナーがあのお店の子だったとは」
かなり衝撃的な事実だった。
「母の味を――お前のことだ。おそらく研究し倒したんだろうな」
「仰る通りです」
「――ありがとう。あの味を残してくれて」
うわっ、まただ! 二度目の『ありがとう』になぜか恐怖を覚え、思わずよけいな言葉を発してしまった。
「それにしても、西園寺オーナーってマザコンだったんですね」
途端に彼の機嫌が悪くなる。
「バカか! 母一人子一人だったから母親思いだっただけだ!」
しかし、その顔は真っ赤だった。
「今の言葉で思い直した。戻ったら皿洗いを卒業させやろうと思っていたが、却下だ!」
「えっ! もしかしたらコックとして再就職させてもらえたんですか?」
「だからそれは却下だ。今までどおり、皿洗いと雑用係に励むんだな」
「それってパワハラじゃないですか!」
「何とでも言え。店に戻れるんだ幸せに思え」
そりゃあ、クーラウの賄いがまた食べられるのは嬉しいが……。
「精々こき使ってやる。楽しみしていろ」
西園寺オーナーのこの顔、何だかすっごい悪い顔だ。絶対に裏がある!
このとき『正直は一生の宝』より『正直者が馬鹿を見る』を、我が心に教訓とした方が身のためだと私は悟った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~
御崎菟翔
キャラ文芸
【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】
★第9回キャラ文芸大賞エントリー中!
「選ぶのはお前だ」
――そう言われても、もう引き返せない。
ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。
そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。
彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。
「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。
なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに!
小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
明治かんなぎ少女の冥契 五百年の時を超えて、あなたに愛を
花籠しずく
キャラ文芸
――ですが、わたくしは生まれました。あなたに会うために。
月のものが来るようになってから、琥珀は不思議な夢を見る。誰かに探されている夢。きっと大切な人だったことは分かるのに、目が覚めると朧気で何も思い出せない。婚約者である志貴の言いなりの人形になる生活をし、生家とは会うと脅され、心が疲弊していたある日、家からひとり抜け出すと、妖魔のようなものに出会う。呪術師である志貴に、一時祓ってもらいはしたが、不思議と心が痛む。夢に美しい男が現れ、声に導かれるようにして、ある山のふもとの、廃れた神社の中に入ると、そこには苦しそうに蹲るあの妖魔がいた。琥珀はそれが夢に現れた、蘿月という男だと直感する。全身が黒い靄で包まれた彼の、靄を払う方法を、どうしてか琥珀は知っていた。口づけをし、息を吹き込むように、生きて、と願った。
帰ってすぐに志貴に殴られ、月のものがはじまっていたことが志貴にばれる。琥珀を穢そうとする志貴の様子に恐ろしさを覚えて、助けてと叫んだその瞬間、闇を裂くようにして、蘿月が現れた。
「琥珀は、俺が五百年待ち望んだ花嫁だ」
これは、時を超えて紡がれる愛の物語。そして虐げられた少女が、愛を知り、愛のために生きる自由を選ぶ物語。
※R-15っぽいゆるい性描写があります。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌
双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。
最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる