美食倶楽部クーラウ ～秘密は甘い罠～

エピローグ

04

「あの綾時の精神安定剤にもなっている」
「はい？」

精神安定剤とは……どういう意味？

「おむすび。あれを食べ出してから温和になったのよ」
「あの態度でですか？」

思わず言い返すと樫野チーフと白戸さんが苦笑いを浮かべた。

「そう、あの、なの」

どれだけ荒れていたんだと思っていると――。

「西園寺グループの件もだけど、富美乃様の件もあったから……知ってるよね？　綾時が富美乃様を好きだったてこと」

「へっ？」と目を丸くする。

「そっそれ……」
「僕と純也しか気付いてない」

樫野チーフはそう言うと、「そろそろ作った方がいいよ」と私を促し、「作りながら聞いて」と言った。

「綾時の奴、誰にも気付かれていないと思っていたみたいだけど、長年の親友を舐めんじゃないわよ！　本当、お馬鹿」

とうの昔に知っていた、と言う。

「彼女を忘れさせるために、どれだけたくさんの女性を紹介したことか！」

そのどれもが全て失敗に終わったようだ。

「目先を変えて男性も良いかしら、って」
「紹介したんですか？」

驚き訊ねると、ゲイバーに連れて行ったらしい。それも欺して。

「後で殴られたわよ。この美しい顔をグーパンチで！」

当時を思い出してか、苦々しい顔で樫野チーフは自らの手で頬を撫でた。

「そんな綾時がとうとう富美乃様以外に興味を示した女性、それが寧々ちゃん、貴女」

キラリンと樫野チーフの瞳が煌めき、ニーッと悪い笑みを浮かべ言う。