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妄想編
48話【off duty】佐々木 楓:「フラれました」(藍原編)①
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ふう。結局セクハラの立原さんは翌日に退院していき、喘息の明奈ちゃんも今日退院した。この週末は、久しぶりにゆっくり過ごせそうね。
金曜日の夜、シャワーも浴びてサワーを飲みながら一息つく。テレビをつけようとして、ふと手を止める。
今、隣で物音がした気がする。新條くん、部屋にいるみたい。
ちょっと悩んだあげく、好奇心に負けて壁に耳をくっつけてみた。……話し声みたいなのが聞こえる。金曜の夜だし……彼女、とかかな?
ピンポーン。
いきなりうちのインターホンが鳴ってびっくりする。こ、こんな夜中に誰よ? こっちはもうすっぴんで、サワー飲み始めて出来上がってるのよ……と思いつつ外を覗いて、ぎょっとする。
「か、楓ちゃん!?」
ドアの向こうで、楓ちゃんが泣きながら立っていた! 慌ててドアを開けると、楓ちゃんが大声をあげながら飛び込んできた。
「先生ー!! フラれちゃったよー、慰めてぇ!」
「ええっ!?」
化粧が落ちてぼろぼろの顔で、楓ちゃんがすがりつく。
「岡林先生に、完全にフラれたー!」
おいおいと泣いている。うまく行かなかったのね……可哀想に。
「とりあえず落ち着いて。ほら、ジュースでも飲んで」
ふらふらと上がり込んだ楓ちゃんは、テーブルの上に並んだサワーやチューハイを見つけて、それを手に取った。
「ジュースなんていらないですよ! お酒じゃないとやってらんないです!」
楓ちゃんはチューハイを一気飲みすると、バンとテーブルを叩いた。
「そりゃね、なんだか脈ないなぁとは思ってましたよ。こないだの居酒屋のあとも、部屋の前まで送ってくれたのに中に入ってくれないし。今は恋愛する気にはならないっていわれたし。でも、でも、やっぱりかっこいいし、諦めきれなくて、好きですっていっちゃったんです。そしたら……」
「……そしたら……?」
「ごめんなさい、って! 佐々木さんは魅力的だとは思うけど、頼れるナースとしてしか見れないって! うう~、体張ればイケると思ったのにぃ~」
「まあまあ、落ち着いて。体で落とそうとしてたの、楓ちゃん?」
好きだといいつつ体で責める楓ちゃんも大したもんだと思うけど。……あ、でも、あたしだって楓ちゃんを岡林くんとくっつけるために、似たようなことしたわね……。
「だってぇ、岡林先生って遊び人だって聞いてたからぁ、簡単にヤれる女だと思われればとりあえずイケるかなって」
「ちょっとちょっと、あなた、遊び人って知ってて狙ってたの? 自分が遊び相手のひとりでもよかったわけ?」
あたしはてっきり、楓ちゃんは本気で岡林くんを好きなもんだと……。
「だって、あんなに競争率高いイケメンドクターですよ? 最初は遊び相手のひとりでもいいから、そこからあたしだけを見てくれるようになれば、って思って」
なるほど、そういうことか。うう、楓ちゃん、なんていじらしいの!
「でも! 遊び人の岡林先生の、遊び相手にすらなれなかったなんて! ショックですぅ、あたし、そんなにブスですかね?」
「全然そんなことないわ! むしろとっても可愛いわよ! あたしが男だったら、楓ちゃんに迫られたら絶対落ちるわ」
「うう~、じゃあなんで岡林先生はあたしを抱いてくれなかったんですかぁ~」
うーん、そういわれても……ていうか……。
「あたしは別に、岡林くんが遊び人だとは思ってないけど……。楓ちゃんと真面目に向き合ったからこそ、断ったんじゃないの?」
楓ちゃんがふと泣き止んであたしを見つめる。
「先生、噂知らないんですか? いろんな病棟に手出してるって」
「し、知ってるけど……」
楓ちゃん、そこまで知ってて、よく岡林くんを好きになったわね……。
「噂でしょ? あたしは実際見たわけじゃないし、別に気にしないけど……」
「先生、岡林先生に手出されませんでした?」
「ええっ!? そ、そんなことは……」
うっかりしどろもどろになる。お、落ち着け香織、落ち着くのよ! えっと、彼に病棟でキスされたのは、あれは確か妄想で、耳を舐められたのは……現実だったような。それから、テレホンセックスしたのは、……あれは、結局どっちだったのかしら?? ああ、どうしよう、テンパって記憶が混乱してるわ!
「……藍原先生、岡林先生と、えっちしたんですね!?」
みるみる楓ちゃんの顔が狂暴になる。ま、まずい展開だわ!
「し、してないわ楓ちゃん! あたしは断じて、岡林くんとセックスなんて、してないわよ! 別に岡林くんのこと好きじゃないし、あたしはずっと楓ちゃんを応援してたし!」
「うそだー! 先生、岡林先生と、あたしのこと見て笑ってたんでしょー!」
「か、楓ちゃん、落ち着いて! お隣さんに聞こえちゃうわ、もっと静かにしてくれない?」
ダメだ、楓ちゃん、完全に目が座ってる。たちの悪い酔っ払い化してるわ……。
「お隣さんがなんですかー! こっちはハートブレイクなうら若き乙女なんですぅ! 聞こえてますかー、このやろー!」
うわあ、楓ちゃん、お隣さんに向かって壁をガンガン叩き始めた! こ、これはまずいって!
「やめて楓ちゃん、お隣さんに迷惑かけちゃうから! お隣さん、うちの患者さんなのよ、まずいわよ、こんな悪酔いするナースがいるってバレたら、クレーム来ちゃう」
楓ちゃんの動きがぴたりと止まった。
「え? 患者さんなんですか?」
「そうなのよ。あたしの外来にも来たことのある若い学生さん。ね、まずいでしょ、頼むからやめてちょうだい」
楓ちゃんがにやりと笑った。
「ふっふー。若い学生さんですかぁ。慰めてもらおっかなー。おーい、学生さーん!」
「わわわ、やめてよぅ!」
ああもう、どうすればいいの!? と思ってたら……。
ピンポーン。
うわあっ、来た!! 絶対お隣さんだわ、苦情をいいに来たのよ、間違いないわっ!
金曜日の夜、シャワーも浴びてサワーを飲みながら一息つく。テレビをつけようとして、ふと手を止める。
今、隣で物音がした気がする。新條くん、部屋にいるみたい。
ちょっと悩んだあげく、好奇心に負けて壁に耳をくっつけてみた。……話し声みたいなのが聞こえる。金曜の夜だし……彼女、とかかな?
ピンポーン。
いきなりうちのインターホンが鳴ってびっくりする。こ、こんな夜中に誰よ? こっちはもうすっぴんで、サワー飲み始めて出来上がってるのよ……と思いつつ外を覗いて、ぎょっとする。
「か、楓ちゃん!?」
ドアの向こうで、楓ちゃんが泣きながら立っていた! 慌ててドアを開けると、楓ちゃんが大声をあげながら飛び込んできた。
「先生ー!! フラれちゃったよー、慰めてぇ!」
「ええっ!?」
化粧が落ちてぼろぼろの顔で、楓ちゃんがすがりつく。
「岡林先生に、完全にフラれたー!」
おいおいと泣いている。うまく行かなかったのね……可哀想に。
「とりあえず落ち着いて。ほら、ジュースでも飲んで」
ふらふらと上がり込んだ楓ちゃんは、テーブルの上に並んだサワーやチューハイを見つけて、それを手に取った。
「ジュースなんていらないですよ! お酒じゃないとやってらんないです!」
楓ちゃんはチューハイを一気飲みすると、バンとテーブルを叩いた。
「そりゃね、なんだか脈ないなぁとは思ってましたよ。こないだの居酒屋のあとも、部屋の前まで送ってくれたのに中に入ってくれないし。今は恋愛する気にはならないっていわれたし。でも、でも、やっぱりかっこいいし、諦めきれなくて、好きですっていっちゃったんです。そしたら……」
「……そしたら……?」
「ごめんなさい、って! 佐々木さんは魅力的だとは思うけど、頼れるナースとしてしか見れないって! うう~、体張ればイケると思ったのにぃ~」
「まあまあ、落ち着いて。体で落とそうとしてたの、楓ちゃん?」
好きだといいつつ体で責める楓ちゃんも大したもんだと思うけど。……あ、でも、あたしだって楓ちゃんを岡林くんとくっつけるために、似たようなことしたわね……。
「だってぇ、岡林先生って遊び人だって聞いてたからぁ、簡単にヤれる女だと思われればとりあえずイケるかなって」
「ちょっとちょっと、あなた、遊び人って知ってて狙ってたの? 自分が遊び相手のひとりでもよかったわけ?」
あたしはてっきり、楓ちゃんは本気で岡林くんを好きなもんだと……。
「だって、あんなに競争率高いイケメンドクターですよ? 最初は遊び相手のひとりでもいいから、そこからあたしだけを見てくれるようになれば、って思って」
なるほど、そういうことか。うう、楓ちゃん、なんていじらしいの!
「でも! 遊び人の岡林先生の、遊び相手にすらなれなかったなんて! ショックですぅ、あたし、そんなにブスですかね?」
「全然そんなことないわ! むしろとっても可愛いわよ! あたしが男だったら、楓ちゃんに迫られたら絶対落ちるわ」
「うう~、じゃあなんで岡林先生はあたしを抱いてくれなかったんですかぁ~」
うーん、そういわれても……ていうか……。
「あたしは別に、岡林くんが遊び人だとは思ってないけど……。楓ちゃんと真面目に向き合ったからこそ、断ったんじゃないの?」
楓ちゃんがふと泣き止んであたしを見つめる。
「先生、噂知らないんですか? いろんな病棟に手出してるって」
「し、知ってるけど……」
楓ちゃん、そこまで知ってて、よく岡林くんを好きになったわね……。
「噂でしょ? あたしは実際見たわけじゃないし、別に気にしないけど……」
「先生、岡林先生に手出されませんでした?」
「ええっ!? そ、そんなことは……」
うっかりしどろもどろになる。お、落ち着け香織、落ち着くのよ! えっと、彼に病棟でキスされたのは、あれは確か妄想で、耳を舐められたのは……現実だったような。それから、テレホンセックスしたのは、……あれは、結局どっちだったのかしら?? ああ、どうしよう、テンパって記憶が混乱してるわ!
「……藍原先生、岡林先生と、えっちしたんですね!?」
みるみる楓ちゃんの顔が狂暴になる。ま、まずい展開だわ!
「し、してないわ楓ちゃん! あたしは断じて、岡林くんとセックスなんて、してないわよ! 別に岡林くんのこと好きじゃないし、あたしはずっと楓ちゃんを応援してたし!」
「うそだー! 先生、岡林先生と、あたしのこと見て笑ってたんでしょー!」
「か、楓ちゃん、落ち着いて! お隣さんに聞こえちゃうわ、もっと静かにしてくれない?」
ダメだ、楓ちゃん、完全に目が座ってる。たちの悪い酔っ払い化してるわ……。
「お隣さんがなんですかー! こっちはハートブレイクなうら若き乙女なんですぅ! 聞こえてますかー、このやろー!」
うわあ、楓ちゃん、お隣さんに向かって壁をガンガン叩き始めた! こ、これはまずいって!
「やめて楓ちゃん、お隣さんに迷惑かけちゃうから! お隣さん、うちの患者さんなのよ、まずいわよ、こんな悪酔いするナースがいるってバレたら、クレーム来ちゃう」
楓ちゃんの動きがぴたりと止まった。
「え? 患者さんなんですか?」
「そうなのよ。あたしの外来にも来たことのある若い学生さん。ね、まずいでしょ、頼むからやめてちょうだい」
楓ちゃんがにやりと笑った。
「ふっふー。若い学生さんですかぁ。慰めてもらおっかなー。おーい、学生さーん!」
「わわわ、やめてよぅ!」
ああもう、どうすればいいの!? と思ってたら……。
ピンポーン。
うわあっ、来た!! 絶対お隣さんだわ、苦情をいいに来たのよ、間違いないわっ!
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