【R18】マッチングアプリで弊社社長とマッチングされました!?

玄野クロ(星屑灯)

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遠い国で

2人だけのひととき_1

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 「あ、あの、ハルトさん。今日は、その、すみませんでした……」

 とっくに夜も更けたころ、ゆあはハルトに呼ばれてハルトの泊まる客室へと足を運んでいた。ハルトの計らいで、栞と一緒に行きたかったカフェでお茶を楽しむことができたし、船にも無事戻ることができた。が、そのあとハルトと顔を合わせることはなく、この時間まで至った。部屋に来たのは自分からハルトへ連絡し『来ても良い』と言われたからだった。緊張しながら部屋をノックしたが、出てきたのはすっかりオフモードのハルトで、お風呂上がりなのかシャンプーの匂いを漂わせながらの出迎えだった。

「いや、無事で良かった。大和さんにはしっかり御礼をしないとね。結果的に、ウチの社員を守ってくれたわけだし」
「栞ちゃんには足向けて寝られないよ……」
「それより、良かったの? こんな時間に。……怒られない? 大和さんに」
「……行ってきなよって言ったのは栞ちゃんです……。これ……」

 手に持っていた、小さな紙袋をハルトへ差し出す。

「ん?」
「お昼のお店のタルト。自分達は食べられたけど、ハルトさんはすぐに帰っちゃったから。栞ちゃんが『持って行くなら誰もいない時間が良いよ、社長が起きてればだけど、ゆあが行くなら起きてるでしょ』って」
「あはは。彼女はわかってるみたいだね? 色々」

 苦笑いをするハルトの顔を見て、ゆあは少しホッとした。

「明日だと、味落ちちゃうかな……?」
「気持ちで十分だからね。明日食べても、なにも変わらないよ」

 タルトを受け取り、ハルトはそのまま冷蔵庫へとしまった。そして自身のベッドへ腰をかけると、ゆあを手招きする。

「……ところで」
「うん?」
「少しばかり、警戒心がないんじゃないかな?」
「えっ」
「倉庫に閉じ込められた話、怪しいのは春川だったでしょ? それなのに、簡単について行くとは……ね」
「それは……ごめんなさい……。栞ちゃんにも、同じこと言われて……」

(それに『絶対社長にも怒られると思うよ!?』って言われたけど、大正解……)

 ゆあは自分の行動が浅はかだったことを、改めて痛感した。今回はたまたま栞がゆあの不在に気が付き、過去に会社の人間に閉じ込められた経緯を知っていて、お互いがわかるように現在位置が確認できるキーホルダーを交換していて、栞がゆあとハルトの交際を把握していた結果、誰よりも行動できるだろうハルトへヘルプを出してゆあを迎えに行くことができた。
 ――これがもし、ひとつでも欠けていたら。栞がゆあの不在に気が付かない、もしくは閉じ込められた話を聞いていなかったら。キーホルダーを購入していない、交換していなかったら。ゆあとハルトが交際していると知らなかったら。もしかしたら、あのままゆあは待ちぼうけをして、どこかで迷子になり船まで戻れなかったかもしれない。栞と喧嘩になって仲たがいしていたかもしれない。すべて憶測だが、どれかひとつでも条件を満たしていなかったら、その可能性は非常に高かったと言える。

「僕のところに来た時、すごい剣幕だったからね? 僕がなにかされるのかと思ったくらいには」
「そ、そんなに!?」
「そうだよ? もう少し、自覚したほうが良いと思うけど。……色んなことを、ね?」
「えっ?」
「シルエットの緩いワンピース。足元は……靴下もなくサンダル。お風呂上がり?」
「う、うん」
「まだ少し、髪の毛が濡れてるかな? ……シャンプーは、備え付けのじゃないよね? 持ってきたやつかな?」
「あ、これはヘアオイルで……」
「そっか。……通路を通ってこの部屋まで来るのに、随分無防備な格好だと思うけど?」

 ハルトはゆあの髪の毛に指を通した。まだ少し湿った髪の毛をすくって、ゆあと目を合わせる。

(……絶対……怒ってる、よね……?)

 強く重たい視線から、ゆあは目を逸らすことができなかった。ハルトのまとう空気が、その視線をより強いものにさせている。ハルト自身はわかっていないのかもしれないが、ゆあの立場からしてみればその視線の裏に深い意味を感じてしまい、一切動くことができなくなってしまっていた。

「……怒ってる?」

 心の中で呟いた言葉が口をついて出る。

「……どうして、そう思ったの?」

 YESかNOかで返ってくると思っていた問いの答えが、自分の発言に対する質問でゆあはズキリと胸が痛いんだ。

 ――わかっている。ハルトは怒っている。そして、なぜ怒っているのかの想像は容易についた。それは……

「カフェに行ったこと、怒ってるのかなって。……栞ちゃんと一緒に行動するはずが、春川さん達について行っちゃったし、そのうえスマホも財布も無くなるし……」
「もし、僕が同行していない旅行だったらどうするつもりだったの? もしくは、大和さんがいない。そうしたら、誰もゆあがいないことに気が付かないし、気が付いても探すまで時間がかかったはずだ。その間に他のトラブルにでも巻き込まれたら。ここが日本じゃないことはわかってるよね? スマホも財布もない、知り合いも近くにいなくて土地勘もない。……絶望的だと思わない? 船に戻れなかったらどうするつもりだったの? 誰も迎えに来なかったら? 連絡が取れないままだったら?」

 落ち着いた様子で、だが少し低い声がハルトの心情を表していた。

「……ごめんなさい」
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