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第一章 戻る時間
9、
しおりを挟む結局、祖父は一年後に亡くなった。私はまた、私は14歳。これまでと全く同じ。
「また駄目だった……」
今回はうまくいくと思ったのに。これまでと全く違うと思ったのに。
祖父の病はどうにもならず、祖父の庇護はなくなってしまった。父が爵位を継いで、ついに公爵となったのだ。
いっそ、家を出ようか。そう考えるも、思い切れない。知識はあれど14の身で何ができると言うのか。ようやく一人で生きていけそうな年齢になる頃には私は処刑される。
ギュッと握った手からは魔力を感じる。だが私は結局、今の今まで魔法を発動させることはできなかった。
魔力は確かに感じるのだ。自分の中にあると理解できる。
たくさん歌った。箱を破壊した時の歌を何十回、何百回と。それこそ喉が枯れるほどに。けれど一度としてあの光は現れず、魔法は発動しなかった。
「どうして……」
私の問いに答える者はいない。
祖父の葬儀を終え、自室で呆然と手を見つめていたら、バンッと扉が激しく開かれた。
「おいリリア、出ろ!」
「え。お兄様?」
兄のアルサンが入って来たのだ。その背後には父とミリス。
「ど、どうしたのですか?」
「お前は今日から納屋で生活だ」
「え!?」
驚く私の腕を、父が強く引いた。
「痛いです、お父様!」
「うるさい黙れ! 魔力を使いこなすことも出来ない落ちこぼれが! 俺が当主となった以上、お前のような醜く役立たずな娘を養う義理はない! 追い出さないだけマシと思え!」
必死の抵抗むなしく、私は庭の隅に建つ納屋へと押し込まれた。
「出してください、お父様!」
「うるさい! 鍵は外側からかけ、窓はけして開かないよう固定されている。格子もある。許可なくここから出るなよ!?」
「そんな……」
監禁。その言葉こそが相応しい状況。
納屋の中には最低限の物しかない。汚い寝台と、薄汚れた服が数着。
ランプすら無い。
「出してくださいお父様! ここから出して!」
「出たければ魔法を発動させればいい。お前には魔力があるのだろう? 父上は教育が甘かったのだ、これくらい厳しくすればお前も死に物狂いになるだろう。これはお前のためなんだよ、リリア」
私のため? そんなこと、欠片も考えてないくせに!
「頑張ってくださいね~、お姉様♪」
励ましてるとは到底思えない嫌味な笑みを浮かべ、ミリスが手を振る。それを最後に扉は閉ざされ、無慈悲な音を立てて鍵がかけられた。
目の前が真っ暗になるような感覚。そしてそれは直ぐに現実となる。あっという間に夜となったのだ。
真っ暗な納屋の中で、ビクともしない扉を叩き続け、動かぬ窓をガタガタと震わせて。窓を割ったところでその先にはめられた格子が行く手を阻むと理解したところで、私は床に座り込んだ。途端に埃が舞う。窓も開けれず、空気の悪い中で顔をしかめる。
「まるで、箱のようね……」
かつて祖父に閉じ込められていた箱。
そうだ、この状況はあの時によく似ているではないか。
では、もしかして……
「~♪」
小声で歌を口ずさむ。あの時のように。
けれど変化は訪れない。納屋の中は相変わらず真っ暗だ。
「~♪」
また歌う。何度も、何度も。声が枯れても。
何も起きない。歌うのをやめれば静寂が広がるだけ。窓の向こうに見える公爵家。その温かな光がなんと遠いことか。
それから数日が過ぎた。
誰も来ない。忘れられてるのか、わざと放置されてるのか。
食料が運ばれることもなければ、水もない。
もう、歌うこともできない。
ズルリと床に崩れ落ちる。嫌な臭いが部屋に充満する。
失敗した。
また失敗した。
今度こそうまくいくと思ったのに、まさかこんな終わりになるなんて。しかも今度は14歳という早さでの終わりときてる。
はたして次はあるのだろうか。ちゃんと戻れるだろうか。
もし戻ったとして。戻れたとして。
次は、何をすればいいの──?
これ以上、何をすれば。どんな変化があれば。
私は未来を生きられるのだろうか。
絶望を胸に、私は目を閉じた。
慣れ親しんだ死の気配を感じながら、私は目を閉じる。
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