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しおりを挟む「こ、これは一体……」
呆然と呟くは、老齢の男が一人。それ以外は全員蔦で吊るし上げだ。
いや違う。愚かな王太子が、未だ床にうずくまっている。それ以外はみなぶら下がっている。
増援が来ないことから……遠くからも悲鳴が聞こえることから、城中の人間が蔦に掴まってるのかもしれない。
そんな中、一人だけ無傷で佇む人間。
それはこの国の王だった。
王妃を亡くして久しく、たった一人しかいない息子を溺愛し。
ロアラを聖女とし、国中を謀った大罪人。
それがそこに居た。
「やあ、国王様。初めまして、だね。私は精霊王スピニス。……王ならその名くらいは知ってるかな?」
「あ、あ……」
王は蒼白な顔でブルブルと震えるだけ。
それに苛立ちを隠さず、もう一度スピニスは問いかけた。
「知ってるよね?」
その怒りを肌で感じたのか、ハッとした顔で、王は慌てて大きく頷いた。
「も、勿論でございます!王家に代々伝わる書物に……王族だけが閲覧できる歴史書にその名は刻まれておりますとも!そしてその容姿……美しき銀髪と黄金の瞳……先祖が書いた通りのお姿!貴方様は確かに精霊王スピニス様!」
そうだったのか……王家にはちゃんと精霊王のことは伝わっていたのだ。では即位すればテルディスもその書物を読んだのだろうか。読んでいればスピニスに歯向かうなんてこと、しなかったかもしれない。
「そ、良かった。……じゃあさ、聖女の事も知ってるよ、ね?」
「──!!そ、それは……!」
「知ってるよね?」
「……は、はい」
ギロリと睨みつけられて、すっかり小さくなりながら。
消え入りそうな声で王は頷いた。
知っている。
つまり、精霊王が聖女を選ぶ事を。
少なくとも、王は知っていたのだ。
なのに、なのに……!
「ならばどうして……どうしてロアラを聖女だと!?」
怒りのせいで我慢できなかった。
私は声を荒げて王を詰問する。
それにビクリと体を震わせて、王は小声で説明した。
いわく、まさか今更本物の聖女が現れると思わなかった、と。
「ど、どうせ聖女なんて伝説で真に存在したかも怪しいもので……ならばでっちあげても問題なかろうと……」
「だからどうしてロアラを!?」
「そ、それは……!」
そこで王は言いよどむ。けれど逃げるのを許さない私の瞳に睨まれて、顔を背けながらボソボソと語った。
「その……テルディスが、ロアラが良いと言って……。ですが、婚約者に非が無いのに婚約解消は体裁が悪いと思いまして……しかも婚約者の妹に鞍替えとなりますと……。ならばロアラを聖女に、リーナ……様を魔女にすれば良いのではないかと」
「貴方がそう提案したのですか?」
「い、いえ……事の計画はテルディスとロアラの考えで……私はそれで良いと言ったまでで……」
「こ、の……!!」
馬鹿親にも程がある!
王は王である事を放棄し。
愚息の言いなりになる事に徹したのだ。
悔しくて。
こんな馬鹿な連中のせいで死にかけた事が悲しくて……。
私は涙をこぼした。
「リーナ……」
そんな私を見かねて、スピニスが私の手を握る。
その温かさが私の心を癒してくれる。それを感じながら。
私はグイと涙を拭いた。
そんな私を見て。
スピニスは視線を王に戻す。
「さて、どうしようかな……」
「!!ど、どうかお許しを!」
スピニスが顎に手を当てて思案した時だった。
慌てて王が顔を上げて叫んだ。
「わが国はスピニス様とリーナ様を歓迎致します!テルディスとロアラには厳しい罰を与えますので、どうかこのまま我が国に滞在を……!出来る限りもてなしさせていただきますので!どうか、どうか国をお救い頂きたく──!!」
「国を?私を、の間違いだろう?」
都合の良過ぎる王の言い分に。
冷ややかにスピニスが答えた。ピタリと王の動きが止まる。その顔は青を通り過ぎて蝋のように白い。
「どうも長いこと、好き勝手させ過ぎたようだ。修正が必要なようだな……まあ民衆は王家に踊らされていたから、ちょっと天災でこらしめる程度にするとして……お前らは、そうだな」
やや考えて。
そしてニコリと無邪気な笑みを浮かべる。
「永遠に死ぬことの出来ぬまま、拷問を与え続けてやろう。ありとあらゆる苦痛を、ね。聖女であるリーナを虐げたのだから、それくらいの罰は必要だろう。……うん、我ながら良い考えだ」
ニコニコと。
さも名案だと言わんばかりに。
スピニスはそう言って、王とテルディス、そしてロアラを見やるのだった。
「あ、あとリーナの両親も呼ばなくっちゃね!」
それはまるで今からパーティを開くかのように。
とても明るい声でスピニスは言うのだった。
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