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裏2-1、姉にざまぁ
しおりを挟むトントンと、地面を靴先で突いて感触を確認する。
大きく息を吸った私は、足を振りかぶり。
思い切り。
ドゴンッ!!!!
蹴った──!
バキバキッといい音を立て、扉は半壊する。いくらボロくても流石に簡単には壊れないか……。
小さく舌打ちして、私はそばに落ちてた大きめの石を持ち上げた。
扉の向こうからは「なんだなんだ!?」「きゃあ!なんなのよ一体!」なんて叫び声が聞こえてくるが知った事ではない!
私は両手で持ち上げた石を思い切り、半壊状態の扉に──投げつけた!
ガゴンッ!!!!
ゴンッ!
うん、いい音ですね。
音が二回したけど、なぜ?
完全にバキバキに壊れた扉をまたいで小屋の中に入ると、その原因はすぐに判明した。
ベニート、完全に白目むいてる……。
察するに石が頭にぶつかったんですね。運の悪いことで……いえ、頭に当たったようですから良いことなのかもしれませんね。そのお馬鹿な頭、逆に良くなるんじゃないでしょうか?
「やだベニート!ちょっと、しっかり……!!」
そんなベニートの両頬を往復ビンタするのは、モリアだ。私も殴りたいので代わってもらえませんか。
「お姉様!」
「!!ミレナ、お前……!!」
呼べば私の存在に気付いた姉が、鬼の形相で睨みつけてきた。あらあら、綺麗な顔が台無しですよ、お姉様。
美しい人が睨む顔は、壮絶なものがありますね。
でも。
首から下がよろしくない。
行為真っ最中だった二人。当然ながら、何も身につけてないのだ。姉はシーツをまとってはいるが、ベニートに至っては……まあ貧相ではないね。
情けない婚約者の姿をチロリと一瞥して、私は姉に視線を戻した。ギロリと睨まれる。
だがそんな視線など痛くも痒くもない。
一度後方確認して、誰も屋敷からやって来る気配がない事を確認し、私は姉に視線を戻した。
ニッコリ
微笑めば、不穏なものを感じ取った姉が一歩後ずさる。
それに合わせて私は一歩前に出た。
足元に散らばる扉の残骸。裸足の姉はそれ以上足を動かす事が出来ず、私の動きを見るにとどまる。
構わず私は姉の前に出た。互いの吐息がかかりそうなくらいの距離。ほぼ同じ身長の姉を前に、私は口元だけは弧を描き、笑ってない目を姉に向けた。
「ひっ……」
「お姉様、お楽しみのところ御免なさい」
言って小首を傾げれば、姉はだんまり。何も言わないなら私が言うわ。
「でもここは私の部屋なの。ご存知ないかもしれないけれど」
「あ、あんたの部屋なんかどこにも無いわよ!」
言うに事欠いて何を言い出すのか。眉宇を潜める私に、蒼白になりながらも姉は言葉を続けた。
「全ては公爵家の──お父様の物よ!そしてお父様が愛する私のもの!誰からも疎まれてるお前の物など、この屋敷には一つとして無いわ!」
「──ですが、ここは確かにお父様が私にあてがった部屋ですよ?」
「お前よりも私が優先に決まってるでしょう!?誰からも愛される、王太子妃となる私が!その私がここを使用してるのよ!お前はそこらで適当に過ごしなさいよ!お前ごときが公爵邸の庭に居られるだけでもありがたいと思いなさい!!」
それが妹への言葉?
あまりにあまりな言葉にいい加減私の心も限界というものだ。
考えるより先に手が動いた。
ガッ!!
「あが──!?」
「いい加減になさいませ、お姉様」
その口元を思い切り掴めば、恐怖に歪む姉の目が飛び込んで来た。それを見てニコリと微笑めば、姉の目に涙が滲み始めた。
はて。
いつもの威勢はどうしたのでしょう?
私の顔を踏みにじるような姉が、こんな事で泣いていては笑われますよ。
もう一度ニコリと微笑めば、涙目のまま睨んできた。そうそう、お姉様はそうでなくては。
──そうでなくては面白くないわ。
グッと顎を掴む手に力を加え。
「お姉様、令嬢たるもの、もう少し恥じらいを持つべきですよ」
「……」
「こんなあられもない姿、王太子が見たら何と言うか」
「!?」
「バレたら大変なことになりますよ……っと!」
叫んで思いきり掴んだ手を振り下ろした!
ズダァンッ!!
「ひぎい!?」
見事に姉は顔から床に倒れ込むみ、その上にハラリと舞ったシーツが落ちた。
「いだい!!」
いだい?ああ、痛い、ですか。
そうでしょうねえ、裸で扉の木片が散らばった床に倒れ込んだのですから。そりゃ痛いでしょうねえ。……ベニートの体も、傷まみれになってんじゃない?
でもね。
この程度で私の気持ちが晴れるとお思い?
「あら大変」
「ぐぎっ!?」
「虫ケラが這いつくばってるわ」
「むぎゅううう」
ムギュウウウ。
う~ん、いい声が聞こえますねえ。
顔を踏みつけて差し上げた姉という虫ケラが良い声で鳴くのを堪能してから。
スッと私は足を退けた。
さて、これくらいにしとくかな。
これ以上は流石に可哀想だからね。私ってなんて優しい妹なのかしら。
「ほらお姉様、いい加減立ってくださいませ」
「ひ……うぐ、ひっく……」
あ~あ~、涙と鼻水で顔がグチャグチャ。体も傷まみれ。美人が台無しですねえ。
「さあお姉様、とりあえず屋敷に戻りましょう」
そう言って姉に靴だけ履かせ、体にシーツを巻かせて手を引く。
そのまま小屋を出た時だった。
「──モリア?」
不意に姉を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ればそこには……
「ひ!!あ、アルンド様!?」
姉が引きつった声で叫んだ。
目の前では驚愕に目を見張る金髪の男性が一人。
その名もアルンドガルス様。
──この国の王太子、である。
「な、なぜ貴方様がここに!?」
「なぜって……訪問の連絡はしてあるばずだが?」
「な……!?」
慌てふためく姉を見ながら、私はわざとらしく手を叩き。
「あーそうでしたそうでした。王太子訪問の連絡を受けて、屋敷ではお姉様を皆が探しておりましたよ。忘れてました」
と、棒読みで言う私を。
姉は蒼白な顔で見るのだった。
そんな姉に対して肩を竦めながら。
これからどうなるのか、ワクワクしてしまう自分が居るのだった。
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