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しおりを挟む「二人とも無事で何よりだ。しかし、どうしてこんな魔物が学園内に……?」
それから少しして、息を切らしながら王太子が走って来た。どうやらベリアトはとんでもない速さで駆けて来てくれたらしい。でもってロビーは瞬間移動か飛行魔法か?とりあえず王太子が敵わないほどの実力者二人が来てくれたってわけだ。
そうして到着した王太子は現場の状況を分析し、教師や学園の警備の者たちと話していた。呆然としてるうちに人が集まってて、現場は騒然としている。
少し離れた場所で、私とフィリアは座り込んでいた。
「アイシャ、ごめんね……」
不意に、フィリアが呟くように口を開いた。ショックだったのか、これまでずっと黙ってたのだけど。
現場検証のごとく魔法や道具やらでその場を調べてる大人を見やってから、王太子とベリアト、ロビーがそばに寄って来た時だった。
「フィリア?」
「わ、わたし恐くて。本当に恐くて……」
私の事を突き飛ばしたことを謝ってるのだろうか?それは仕方ないよ。あれは不可抗力ってやつだ。結果として今生きてるんだから。だから気にする事無いよ。
そう言おうと口を開きかけたら、一瞬フィリアの方が早かった。
「まさかアイシャが私を置いて逃げようとするなんて、思わなくって!突き飛ばされた瞬間よろけて……!伸ばした手がアイシャに当たって、まさかあんな事になるなんて!!!!」
……
それはその場に居る者全員の耳に届くような大きな声だった。検証作業をしていた者たちも驚いて顔を上げ。次いで私の顔を見る。その目が険しいというか、責めるような……。
「ええっと、フィリア……?」
「アイシャが『あんたが囮になりなさいよ!』って言って来た時はビックリしたけど……ごめんね、ごめんねアイシャ。私上手に囮になれなかった!」
「え、ええっと……?」
何を言ってるんでしょ?
私がフィリアを囮に?
え、ていうかフィリア、私を前に押しやって、私の背後に隠れてたよね?
あの時は、フィリアが何かに躓いたのか、いきなり私を押したんだよね?
え、どうなってんの、これ?
あまりに理解不能な言葉に頭がついていかなくて。ポカンとしてたら。
わあっ!!と泣き出されてしまった。
泣き出して、フィリアは王太子の胸に顔を埋める。
「ごめんなさい、ごめんなさい!私が悪いの、アイシャをうまく逃がそうと思ったのに!ごめんなさいー!!」
そのままワアワア泣き続けるもんで。
私はそのまま何も言えないのであった。
「アイシャ……本当か?」
信じられないといった目を向ける王太子。
ブンブンと首を横に振ったところで信じて貰えるのかな、これ。
「え~アイシャってそんなことする人なんだ?」
知らなかった~女ってこえ~。
既に白い目を向けてくるロビー。
そして。
「アイシャ……流石に友を囮にするのはどうかと……」
えええええ!
ベリアトまで!
え、何これ、全て私が悪い説!?
私が悪者!?
いや別にフィリアを悪者にするつもりないけどさあ!でも酷くね!?
何かを言いかけたその時。
「いっつ──!!」
不意に膝に痛みが走った。
そこで初めて気付く。倒れた時にすりむいたのだろう。結構な出血をしてることに。
気付いてしまえば、どんどん痛みが浮上する。ジンジンと痛む膝と今生じてる誤解の状況に、知らず涙が浮かんできた。
なんで?なんで私だけこんな目に……?
「ひどいわ、泣きたいのは私の方よ、アイシャ」
なのにフィリアは容赦ない。
容赦なく、酷い言葉をかける。
どうしてフィリア?
どうして、理沙?──私達、親友でしょ?
悲しくなってその目を見つめ返したら。
そっと近づいてきた。
そして膝に手を伸ばすフィリア。
ビクリと体が震えたが、膝に触れる直前で手が止まるので私も動かない。
膝の上で手をかざしたフィリアは。
直後、何かをブツブツと呟き始めた。
それは、私には理解出来ない言葉。
「フィリア……?」
目を閉じて、フィリアは呟き。
言い終えたのか、そっとその目が開かれたその瞬間。
青い瞳だったはずのフィリアのそれが、淡い光をもつ。そしてかざされた手もまた──。
「温かい……」
ほわ……と、膝に温もりを感じ。
そしてその手が離された後、私は信じられないといったように目を見開いた。
「嘘!傷が……治ってる!?」
魔法が存在するこの世界で。
けれど治癒魔法だけは存在しなかった。
しないはずだった。
唯一の例外はあれど、もう数百年とその例外は存在しなかった。
しなかったというのに……。
「フィリア、あなた……」
「なんだか出来そうな気がしたの。良かった」
そう言って、ニコリと微笑んだフィリア。
その目の奥に、何か嫌な光が見えた気がしたのは。
それは気のせいだろうか。
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