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しおりを挟む女の友情なんて呆気ないもので。
前世から続いたはずのそれは、あっさりと終わりを告げた。
理沙ことフィリアが聖女になったことによって。
王太子ラルフとも仲良く過ごしたはずなのだが、この関係も全て崩れ去った。そして定番の、二人は婚約。
そして私は、定番の悪役令嬢扱いだ。
何と言うか……あまりにテンプレな展開に呆れるしかない。
私もだが、理沙だって前世で散々悪役令嬢の話を読んだはずなのに。どうしてこんな展開へと導くのだろう。さっぱり分からない。
聖女という輝かしい立場を得た事で、何かの歯車が狂ってしまったのだろうか。
私は目の前の光景に呆然と立ち尽くしながら。
現実逃避のように、そんな事を考えていた。
今、目の前で起こった事。
それはつまり、私の昼食が床にぶちまけられてるって事だ。
そもそも今日はシェフの体調が悪い事から始まった。屋敷の料理人は複数いるのだけど、風邪が流行ってしまって全員がダウン。
無理を言うつもりもないので、じゃあ今日は学食だなあとやって来たまではいいのだが。
注文したものを受け取って、どこか開いてる席はとキョロキョロしたところで。
なんか複数の令嬢に囲まれた。
近いな、と思ったが直後。
もうそれ体当たりよね!?てくらいの勢いで体を押されて。
持っていた食事はトレーごと床に落としたというわけです。
体当たりしてきた令嬢は、目にもとまらぬ速さでどこかへ行った。
そして目の前には。
なぜいるのか、フィリアとラルフと、取り巻き数名。
「アイシャ、大丈夫か!?」
その取り巻きの中から、慌てて出てきたのはベリアトだ。
最近聖女に媚びる輩が増えてきた中、そしてその聖女を虐める悪女として敬遠されてる私に対して、まともに接してくれる少ない学友だったりする。
駆け寄って、心配そうに肩に触れてくれるのだけれど。
そこに声がかかる。
「よせベリアト、お前が手出しする必要はない」
「ですが、ラルフ様……!」
「そうですわ、ベリアト様。アイシャが勝手に落としたのですから。彼女が自分で片付けるのが当然でしょう?というか……食事を粗末にすなんてなんて酷いことを。拾って食べたら?」
フィリアの言葉に、そうだそうだと同意の声がいくつも上がる。
ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!
言ってやりたいけれど、言ったところで私が責められるだけだと分かって。必死で言葉を飲み込んだ。
私はギュッと拳を握りしめ。
そしてトレーやお皿を拾い始めた。雑巾、借りて来なくちゃ。
と、その時。
ぐ~……
空気を読まない私のお腹が、鳴いた。恥ずかしいやら情けないやら。
悲しくなってきて顔を上げれずにいたら、横にしゃがみ込む気配。
「大丈夫だから、アイシャ。今人を呼んだから、すぐに掃除してくれる。手が汚れるぞ」
優しい言葉に涙が出そうになる。
「ベリアト、そんな悪女に優しくする必要はないぞ。汚れるのがお似合いだ」
「そうだそうだ、聖女様を虐げるような女に構う必要はない。ほら、行くぞ!」
「あ、おい!」
ベリアト様が抵抗しようとするも、複数のご学友に引きずるように引っ張られ。心配そうな顔をこちらに向けながら去って行くのだった。
私は心の中で感謝の意を込めて。
相変わらず誰も手伝ってくれる者も居ない中で、一人片付ける。
すると、フン、と鼻で笑う声がしたので顔を上げた。
まだ居たのか、フィリアがニヤニヤ笑いながらこちらを見下していた。ラルフはベリアト達と先に行ったのか。
「いい様ね、アイシャ」
「……こんなことして楽しいの、フィリア?」
ラルフ達は居なくとも、場所は食堂。見ている者が多い中、フィリアは私と目線を合わせるようにしゃがみ込んで、ひそひそと話す。
「楽しいに決まってるでしょう?どう、仲良くしてた男子に邪険にされる気分は?ラルフなんて見てごらんなさいな、もう私にメロメロよ?聖女だってだけで……チョロい男」
「……」
「でもまだよ。アイシャにはもっと立派に悪役令嬢やってもらわなきゃ」
ハッキリと宣言された事で血が引くのを感じた。
ああ、フィリアはやっぱり自覚しながら私を貶めていたんだ。
「……どうして?私達、友達だったのに……」
泣くもんか、絶対泣くもんか。
歯をくいしばって、気を抜けば出そうな涙を必死で押しとどめる。
「どうして?面白いから、かな」
「そんな……」
そんな理由で。
それだけで。
なんて酷い……。
「でもまだまだよ。これからもっと面白くなるわ」
「?」
それはどういうことなのか。
真意をはかろうとフィリアの顔を見た瞬間。
「きゃあ!?」
叫びと共に、フィリアが後ろに派手にこけたのだった。
「何を……」
してるのか。
その声は発する間はなかった。
「酷いわアイシャ!私可哀そうだから手伝おうと思ったのに!突き飛ばすなんて、酷い!」
「フィリア!?」
そんなフィリアの叫びを聞きつけて、ラルフが大慌てで走ってきた。
抱きしめるその腕に、フィリアが慌てて縋る。
「ああ、ラルフ様、ラルフ様……!アイシャが私を突き飛ばして……!」
「アイシャ、貴様……!」
私は何もしていない。
その言葉を言ったところで意味があるのだろうか。
呆然としながら、私はただ目の前の光景を見つめることしか出来なかった。
「ラルフ様、ラルフ様……今、私は確かに感じました!アイシャの中の邪悪を!彼女は魔に魅入られております、彼女は魔女と成り果てました!」
「はあ!?」
さすがに驚きの声を出したが。
それはなんの抵抗にもならなかった。
青ざめたラルフが学園の警備隊を呼び。
弁明の余地もなく、私は呆気なく拘束され。
そして地下牢へと閉じ込められることとなった──
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