21 / 23
20、
しおりを挟むラルフがリューランドに斬りかかる。
だがその剣は難なく避けられてしまった。逆に、避けられラルフの体制が崩れた瞬間を、思い切り狙われた。
剣を持つ手を叩き、落ちる剣に慌てるラルフの顎を──事も無げにリューランドは蹴り上げた。
「──!!」
言葉にならない悲鳴は私のものか、フィリアのものか、それとも王太子自身のそれか。
ラルフの体が浮くくらいの衝撃。
そして。
ゴッ!
鈍い音と共に、後頭部に蹴りが入り、浮いた体は一瞬にして地面へと落ちた。顔面から。
「……」
誰も何も言えなかった。
「……」
誰も動く事が出来なかった。ただ一人を除いて。
「他愛ないなあ」
リューランド……魔王と名乗ったその男を除いて。
ヒョイと肩をすくめて、彼は苦笑のような呆れたような笑みを浮かべた。
「これでこの国の次期王が務まるのかね。弱すぎ」
「……!」
横で息を呑む気配がした。ベリアトだ。色々いざこざはあれど、ベリアトとラルフは幼い頃から切磋琢磨し合った仲だ。ラルフが弱くない事を最も知ってる人物。ギリッと歯を食いしばる気配があった。
ラルフへの侮辱ともとらえられる言葉が我慢ならないのだろう。
私もある程度ならラルフの実力は知っていた。少なくとも、この国では剣術でなら一番だったと思う。大魔導士であるロビーが居なければ、実力ナンバー1だったろう。ロビーの魔法の前では、さすがのラルフも敗北を喫していた事は知ってる。でもロビーの強さは規格外だ。そんなラルフをも凌ぐ力……。
赤子同然にラルフをあしらう力を、彼は、リューランドは持ってるということだ。
呆然と見ていたら、ユラリと立ち上がる影が視界の隅に映った。
「フィリア?」
ゆっくりと立ち上がったフィリアは。ラルフを心配するでもなく、ただリューランドに見入っていた。
(げ……あの目は……)
その視線の熱さに、私は嫌な予感しかなかった。
前世でも今世でも。
彼女がその熱い目を見せる時。
それはつまり……
「素敵ですわ!リューランド様!!」
誰かに惚れ込んだ時の顔だった!
ウットリと……頬に手を当てリューランドを見つめる様は、まさに恋する乙女!頬を赤くして、完全に心射抜かれてますね!
「フィリア……って、フィリア!?」
恐る恐る声をかけようとしたら、急に彼女は走り出したのだ!
魔王リューランドに向かって!
「リューランド様あぁぁ~!」
ドン引きですよ。
なんつーピンクな声で魔王を呼ぶのか。
両手広げて抱きつこうとしてるし!
えええええ。
止める事も出来ずその予想外の光景を見入っていたら。
ゴッ!
「ふご!」
またも鈍い音と、さっきは無かった情けない悲鳴。
──見事に。
本当に見事に、フィリアの顔面にパンチが!顔面パンチが!
たまらず彼女は地面にへたり込むのだった。
「ふぃ、フィリア!」
大丈夫!?
流石に心配して声をかけたんだけど。
返事の代わりに変な声が聞こえてきたのは、その直後のこと。
「ふ、ふふふ……うふふふふ……魔王、魔王様……魔王様あぁ~」
不気味な笑い声を出しながら、ズリズリと魔王へと這い寄る。
フィリアの異常な行動を目にするのだった。
ズリズリと這い寄って、そして魔王の足に、フィリアは縋りついた。
「ああ、魔王様……私の最大の推し!」
そう言えば、と今の台詞で思い出した。
前世でフィリアは魔王キャラが好きだったっけなあと。
乙女ゲーだと、大抵隠し攻略キャラである魔王を早く出そうと必死になってたわ。
思い出した。
思い出したけど!
「お~い、ラルフ大丈夫~?」
呑気なロビーの声が、場違いな声が。その場に響くのを耳にしながら。
ラルフ、可哀そうになあ~。とちょっとだけ彼に同情するのだった。
12
あなたにおすすめの小説
転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください
木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。
水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。
と、思っていたらなんか可笑しいぞ?
なんか視線の先には、男性ばかり。
そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。
人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。
料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。
お、美味しいご飯が食べたい…!
え、そんなことより、恋でもして子ども産め?
うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)
凪ルナ
恋愛
転生したら乙女ゲームの世界でした。
って、何、そのあるある。
しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。
美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。
そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。
(いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)
と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。
ーーーーー
とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…
長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。
もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる