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しおりを挟む「助け……て……!」
目の前の光景に私──伯爵家が長女、フィリア──は目を見張る。
バシャバシャと藻掻く手にかすかに見える頭。
溺れてる子供を目の前にして、私は考えるよりも早く動いた。
今日は貴族の子供が集うお茶会の日だった。
毎月一度のその催しがいつも楽しみで。
特に今日は大きなお屋敷の大きなお庭を持つ、公爵家主催という事もあってウキウキだった。ドレスもいつもより気合いを入れていた。
ただちょっと寝不足だったせいか、疲れてしまって。
少しみんなから離れて休息を、と思ったのは気まぐれ。
大きく美しい庭を散策させてもらおうと歩いていた時に、その光景が目に入ったのだ。
公爵邸には大きな池があった。それはコンコンと湧き出す水のおかげで澄みきった美しいものだったのだけど。
驚いたのは、その池で溺れてる人がいたことだ!
「ええええ!ちょ、ちょっと待って、今助けるから!」
そう言って一気にドレスを脱ぎ去る!
十歳ともなれば下着姿は恥ずかしいけれど、そうも言ってられない!
脱いだドレスをどうにかこうにか結んで上手く袋状にしたところで。私はそれを持って池に飛び込んだのだった。
そして得意だと自負する私は、一気に泳いでその子の元へと近づく!
その瞬間だった。
水面から見え隠れしていたその子の目が、急にフッと力なく閉じられたのは。
「駄目!」
叫んで、その子の腕を掴んだのはその瞬間。
掴んで腕を引き、口を近づけてその子に口づけ……空気を送る。その瞬間、その子の目が開いた。良かった、まだ意識飛ばしてない!
それからはもう無我夢中だった。力尽きかけ寸前のその子に必死で「頑張って!あと少しだから!」そう声をかけながら。
二人して空気袋にしたドレスにしがみつきながら、どうにかこうにか岸辺へと着いた。
地面に横たわり、ハアハアと呼吸を荒くしながら──生きてる事に感謝しました!
ありがとう神様!
ありがとう私のドレス!
──なんでドレスがうまく空気袋の能力を発揮できたのか分かんないけど!多分子供用の、食べかす溢しても洗いやすい撥水加工の生地だったんだろう!
ありがとう、私が汚すこと前提で防水布使うよう指示したお母さま!
って、何言ってんだろ、私!
ハアハアと息を荒くして、私は死にかけた事への恐怖から現実逃避するべく、色々思考を巡らせていた。
だが、ふと我に返る。
助かったからと寝そべってる場合ではないのだ!
「あ、そうだ、あの子は!」
ガバリと起き上がって、何とか岸に上がらせた子を見た。
「わ……綺麗な子……」
それは金髪の美少女だった。
肩より長い金髪、色白な肌に整った顔立ち。
どうやら力尽きて気絶してるようだ。さっき溺れてる時にチラリと見えた目は、空を映したような青だったなあ。
生きてる事を示すように、その胸はかすかに上下していることにホッとして。
「良かった」
知らず、安堵の言葉が出たのだった。
ギュッとその手を握りしめて。
「今度からは気を付けてね」
と言って、お母さまや妹にするように、私はその頬にそっとキスを落とすのだった。
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