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アーリオーリ王国編

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 新章開始です。よろしくお願いいたします。


*~*~*~*~*


 ある日、エリアストはディアンに呼ばれ、その執務室へ向かう。
 「お呼びと伺いました、陛下」
 部屋にはディアン以外誰もいない。それだけで、何か面倒ごとが起こりそうだとエリアストは目を細めた。
 「ああ、忙しいのにすまんな、ディレイガルドの」
 「本当に。手短に願いたいものですね」
 ディアンは頬を引きつらせる。
 王女サーフィアの事件から四年、ディアンが若くして王位を継承した。それから時々こうして言葉を交えるが、本当に恐ろしい存在だ。
 デビュタントの時は、どこか少年の面影も残しており、危うい儚さも混じった容姿であった。しかし、四十近くになった今は、大人の色香を纏い、最愛と共に歩んでいるためか、僅かな余裕を感じられるようになり、一層美しさを増している。
 これからエリアストに提案することに、きっとエリアストは難色を示すだろう。わかってはいる。もしダメなら何か代替案が欲しい。そんな思いでエリアストを呼んだ。
 「その、何から話したら良いものか」
 「結論を言え。手短にと言っただろう」
 いきなり極寒。ディアンは泣きそうだった。
 「その、ディレイガルド家と、カルセド、第三王子いや、今は第二王弟か、の末の子との婚姻を」
 そこまで言って、ディアンは全身を震わせた。エリアストの表情が抜け落ちている。元々乏しい表情ではあったが、ここまで無ではなかった。アリスと出会う前のエリアストを知っている者であれば、その頃に戻ったと戦慄しただろう。
 「私の貴重な時間を割かせておいて、何の冗談を言っている」
 難色を示すどころではなかった。口を開いてもらえただけマシだろう。ディアンはガタガタと震えながら、頑張って説明をする。
 「い、いや、待て、こちらにも事情が。聞いてくださいお願いします」
 海に面した国土を持つアーリオーリ国。そこへ海洋学を学びに留学していたカルセドの末の息子、セドニア。
 アーリオーリ国に海産物の輸入の六割を頼っている。海に面していない我が国レイガードは、海産物は輸入に頼らざるを得ない。その状況を少しでも打破すべく、セドニアは海洋学を学ぼうと考えた。そして留学した先で、二つ下の第二王女に見初められたという。
 「だからなんだ。婿にでも何でも行けばいいだろう」
 「いや、それが、その王女が、ですね」
 かなりやべーらしい。
 まず見た目がエリアストの四倍はある。身長ではない。横幅の話だ。それだけであればまだいい。性格が破綻している。すべて自己都合で話が進む上に、何が地雷なのか不明。突然怒り出す。
 「どこかで聞いた話だ」
 冷たい目がディアンを見る。
 「その節は申し訳ありませんでした」
 そっと目を逸らすディアン。王家崩壊寸前の事件を引き起こした異母妹が頭を過ぎる。
 「それで、ですね、何とかその王女から逃れようと、婚約者がいると、その」
 「嘘ではなくしたらいいだろう。その辺の娘でも拾って来い」
 取り付く島がない。だが王様がんばる。
 「王女が、その婚約者に会わせろと、来月早々こちらに来るようで」
 来月と言ったら一週間しかない。
 「同じことを言わせるな。その辺の娘を拾え」
 絶対零度の眼差しがディアンを貫く。涙目になりながら、やっぱり王様がんばる。
 「フリでいいんです、フリでいいんです。助けてください、助けてくださいいいぃぃ」
 曲がりなりにも一国の王女。対抗できる者などそうそういない。
 エリアストは溜め息をいた。
 「おまえの首を落とせばいいのか」
 そうすれば今後の展開を見なくて済む。
 「そういう助かり方を望んでいるんじゃないですよおおおぉぉぉ」
 足下に縋り付いて泣くディアンに、エリアストは呆れた眼差しを向ける。
 「偽りなどすぐに露呈する」
 「わかっています!そこも含めて何か!何か知恵を授けてくださいいいいいぃぃ」
 恥も外聞もないディアンの捨て身の攻撃に、エリアストは溜め息しか出ない。エリアストはディアンの頭を踏みつけた。
 「助けろ助けろと貴様の頭は飾りか」
 エリアストは屈んでディアンの髪を掴むと、その頭を持ち上げる。
 「着地点は何だ。どうなることが望ましい。結果がすべてか。過程は問わないのか」
 エリアストの双眸に、ディアンは息を呑む。こんなに間近で見たことはない。こんな時だというのに、その美しいかんばせに見とれてしまう。
 「た、たすけて、くれるのか?」
 エリアストは口の端を上げるだけの笑いを浮かべた。
 「条件がある」


*つづく*
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