9 / 76
アーリオーリ王国編
1
しおりを挟む
新章開始です。よろしくお願いいたします。
*~*~*~*~*
ある日、エリアストはディアンに呼ばれ、その執務室へ向かう。
「お呼びと伺いました、陛下」
部屋にはディアン以外誰もいない。それだけで、何か面倒ごとが起こりそうだとエリアストは目を細めた。
「ああ、忙しいのにすまんな、ディレイガルドの」
「本当に。手短に願いたいものですね」
ディアンは頬を引きつらせる。
王女サーフィアの事件から四年、ディアンが若くして王位を継承した。それから時々こうして言葉を交えるが、本当に恐ろしい存在だ。
デビュタントの時は、どこか少年の面影も残しており、危うい儚さも混じった容姿であった。しかし、四十近くになった今は、大人の色香を纏い、最愛と共に歩んでいるためか、僅かな余裕を感じられるようになり、一層美しさを増している。
これからエリアストに提案することに、きっとエリアストは難色を示すだろう。わかってはいる。もしダメなら何か代替案が欲しい。そんな思いでエリアストを呼んだ。
「その、何から話したら良いものか」
「結論を言え。手短にと言っただろう」
いきなり極寒。ディアンは泣きそうだった。
「その、ディレイガルド家と、カルセド、第三王子いや、今は第二王弟か、の末の子との婚姻を」
そこまで言って、ディアンは全身を震わせた。エリアストの表情が抜け落ちている。元々乏しい表情ではあったが、ここまで無ではなかった。アリスと出会う前のエリアストを知っている者であれば、その頃に戻ったと戦慄しただろう。
「私の貴重な時間を割かせておいて、何の冗談を言っている」
難色を示すどころではなかった。口を開いてもらえただけマシだろう。ディアンはガタガタと震えながら、頑張って説明をする。
「い、いや、待て、こちらにも事情が。聞いてくださいお願いします」
海に面した国土を持つアーリオーリ国。そこへ海洋学を学びに留学していたカルセドの末の息子、セドニア。
アーリオーリ国に海産物の輸入の六割を頼っている。海に面していない我が国レイガードは、海産物は輸入に頼らざるを得ない。その状況を少しでも打破すべく、セドニアは海洋学を学ぼうと考えた。そして留学した先で、二つ下の第二王女に見初められたという。
「だからなんだ。婿にでも何でも行けばいいだろう」
「いや、それが、その王女が、ですね」
かなりやべーらしい。
まず見た目がエリアストの四倍はある。身長ではない。横幅の話だ。それだけであればまだいい。性格が破綻している。すべて自己都合で話が進む上に、何が地雷なのか不明。突然怒り出す。
「どこかで聞いた話だ」
冷たい目がディアンを見る。
「その節は申し訳ありませんでした」
そっと目を逸らすディアン。王家崩壊寸前の事件を引き起こした異母妹が頭を過ぎる。
「それで、ですね、何とかその王女から逃れようと、婚約者がいると、その」
「嘘ではなくしたらいいだろう。その辺の娘でも拾って来い」
取り付く島がない。だが王様がんばる。
「王女が、その婚約者に会わせろと、来月早々こちらに来るようで」
来月と言ったら一週間しかない。
「同じことを言わせるな。その辺の娘を拾え」
絶対零度の眼差しがディアンを貫く。涙目になりながら、やっぱり王様がんばる。
「フリでいいんです、フリでいいんです。助けてください、助けてくださいいいぃぃ」
曲がりなりにも一国の王女。対抗できる者などそうそういない。
エリアストは溜め息を吐いた。
「おまえの首を落とせばいいのか」
そうすれば今後の展開を見なくて済む。
「そういう助かり方を望んでいるんじゃないですよおおおぉぉぉ」
足下に縋り付いて泣くディアンに、エリアストは呆れた眼差しを向ける。
「偽りなどすぐに露呈する」
「わかっています!そこも含めて何か!何か知恵を授けてくださいいいいいぃぃ」
恥も外聞もないディアンの捨て身の攻撃に、エリアストは溜め息しか出ない。エリアストはディアンの頭を踏みつけた。
「助けろ助けろと貴様の頭は飾りか」
エリアストは屈んでディアンの髪を掴むと、その頭を持ち上げる。
「着地点は何だ。どうなることが望ましい。結果がすべてか。過程は問わないのか」
エリアストの双眸に、ディアンは息を呑む。こんなに間近で見たことはない。こんな時だというのに、その美しい顔に見とれてしまう。
「た、たすけて、くれるのか?」
エリアストは口の端を上げるだけの笑いを浮かべた。
「条件がある」
*つづく*
*~*~*~*~*
ある日、エリアストはディアンに呼ばれ、その執務室へ向かう。
「お呼びと伺いました、陛下」
部屋にはディアン以外誰もいない。それだけで、何か面倒ごとが起こりそうだとエリアストは目を細めた。
「ああ、忙しいのにすまんな、ディレイガルドの」
「本当に。手短に願いたいものですね」
ディアンは頬を引きつらせる。
王女サーフィアの事件から四年、ディアンが若くして王位を継承した。それから時々こうして言葉を交えるが、本当に恐ろしい存在だ。
デビュタントの時は、どこか少年の面影も残しており、危うい儚さも混じった容姿であった。しかし、四十近くになった今は、大人の色香を纏い、最愛と共に歩んでいるためか、僅かな余裕を感じられるようになり、一層美しさを増している。
これからエリアストに提案することに、きっとエリアストは難色を示すだろう。わかってはいる。もしダメなら何か代替案が欲しい。そんな思いでエリアストを呼んだ。
「その、何から話したら良いものか」
「結論を言え。手短にと言っただろう」
いきなり極寒。ディアンは泣きそうだった。
「その、ディレイガルド家と、カルセド、第三王子いや、今は第二王弟か、の末の子との婚姻を」
そこまで言って、ディアンは全身を震わせた。エリアストの表情が抜け落ちている。元々乏しい表情ではあったが、ここまで無ではなかった。アリスと出会う前のエリアストを知っている者であれば、その頃に戻ったと戦慄しただろう。
「私の貴重な時間を割かせておいて、何の冗談を言っている」
難色を示すどころではなかった。口を開いてもらえただけマシだろう。ディアンはガタガタと震えながら、頑張って説明をする。
「い、いや、待て、こちらにも事情が。聞いてくださいお願いします」
海に面した国土を持つアーリオーリ国。そこへ海洋学を学びに留学していたカルセドの末の息子、セドニア。
アーリオーリ国に海産物の輸入の六割を頼っている。海に面していない我が国レイガードは、海産物は輸入に頼らざるを得ない。その状況を少しでも打破すべく、セドニアは海洋学を学ぼうと考えた。そして留学した先で、二つ下の第二王女に見初められたという。
「だからなんだ。婿にでも何でも行けばいいだろう」
「いや、それが、その王女が、ですね」
かなりやべーらしい。
まず見た目がエリアストの四倍はある。身長ではない。横幅の話だ。それだけであればまだいい。性格が破綻している。すべて自己都合で話が進む上に、何が地雷なのか不明。突然怒り出す。
「どこかで聞いた話だ」
冷たい目がディアンを見る。
「その節は申し訳ありませんでした」
そっと目を逸らすディアン。王家崩壊寸前の事件を引き起こした異母妹が頭を過ぎる。
「それで、ですね、何とかその王女から逃れようと、婚約者がいると、その」
「嘘ではなくしたらいいだろう。その辺の娘でも拾って来い」
取り付く島がない。だが王様がんばる。
「王女が、その婚約者に会わせろと、来月早々こちらに来るようで」
来月と言ったら一週間しかない。
「同じことを言わせるな。その辺の娘を拾え」
絶対零度の眼差しがディアンを貫く。涙目になりながら、やっぱり王様がんばる。
「フリでいいんです、フリでいいんです。助けてください、助けてくださいいいぃぃ」
曲がりなりにも一国の王女。対抗できる者などそうそういない。
エリアストは溜め息を吐いた。
「おまえの首を落とせばいいのか」
そうすれば今後の展開を見なくて済む。
「そういう助かり方を望んでいるんじゃないですよおおおぉぉぉ」
足下に縋り付いて泣くディアンに、エリアストは呆れた眼差しを向ける。
「偽りなどすぐに露呈する」
「わかっています!そこも含めて何か!何か知恵を授けてくださいいいいいぃぃ」
恥も外聞もないディアンの捨て身の攻撃に、エリアストは溜め息しか出ない。エリアストはディアンの頭を踏みつけた。
「助けろ助けろと貴様の頭は飾りか」
エリアストは屈んでディアンの髪を掴むと、その頭を持ち上げる。
「着地点は何だ。どうなることが望ましい。結果がすべてか。過程は問わないのか」
エリアストの双眸に、ディアンは息を呑む。こんなに間近で見たことはない。こんな時だというのに、その美しい顔に見とれてしまう。
「た、たすけて、くれるのか?」
エリアストは口の端を上げるだけの笑いを浮かべた。
「条件がある」
*つづく*
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
300
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる