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ああ、無情

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 「ガーディニー侯爵が娘、サファイアです。どのようなご用件でしょうか」
 「ここでは。場所を変えさせていただきたいわ。よろしくて?」
 頷こうとして、詐欺が近付いて来た。
 「ガーディニー嬢、今日は母上とお茶の約束があるのだろう?一緒に連れて来るよう言われている。行くぞ」
 警戒しているのか、詐欺がボスを。婚約者ではないのか?
 「約束の時間までまだあります。殿下をお待たせするのは申し訳ないので、わたくしは家の馬車で向かいますわ。どうぞお先にご機嫌よう。ボス、参りましょうか」
 「「ボス?!」」
 名前忘れた。ボスでいい。
 「どちらへ向かえばよろしいでしょうか」
 で、結果。
 教室に戻ると、詐欺がいた。私の左腕に絡みついて離れない頬を染めたボスに、ギョッとしている。
 「え、だ、大丈夫、か?」
 「期待外れもいいところでしたが、人生はままならないものです。想定内、といたしますわ」
 絶対言葉責めされた挙げ句ボッコボコにしてもらえると期待したのに。ボスも見た目詐欺師だ。酷い。そして何故かボスに激しく懐かれた。いつも通りにしていたら、“やはり噂通りのお方、わたくしのご主人様でしたのね”、とたっぷり熱を含んだ目で見つめられた。私と同じ属性だ。ならばおまえも私の望みがわかるだろう、といつもより自分の欲望を解放したのに、お返しを一向にしてくれない。一人で楽しんでばかりで腹が立ったので、早々に戻ろうとしたら、腕から離れなくなった。何をしても喜ばせるだけなので、もう放置することにして今に至る。
 「ボス、離れてくださいまし。このままでは王妃様の下へ参ることが出来ません」
 「で、ですが」
 耳元で放送禁止用語をのたまってやった。ボスは床に倒れて昇天している。
 「な、何をしたんだ?」
 「お話をしただけですわ。さ、王妃様の下へ参りましょう。待たなくていいと言ったのに本当に言葉が通じなくて嫌になるな」
 「心の声が漏れているぞ、ガーディニー嬢」


∴**。・**∵**。・**‥*∴


 私には、鬼畜令嬢という不名誉な噂がある。
 だが。
 「ガーディニー侯爵嬢様、本当にありがとうございますっ」
 何故か、恋のキューピッドとしての噂もある。
 あまり素行のよろしくない子息と縁組みされた娘さんたちから、その噂は広まったようだ。何でも、私のお陰で婚約者たちが改心して、真人間になっていると言うのだ。
 意味がわからない。
 ヒロインを探して校内をうろついていると、娘さんたちに手を上げている紳士じぇんとるめぇん出会でくわすことがある。ただそのやり方があまりにお粗末すぎて、指導をしてあげただけなのに。もちろん本人に。実践で。さらに追加で、こうするともっと良い、ということも教えてあげていたのだが、途中で根を上げる軟弱者ばかりだった。けれど、私の欲を満たす者に成長させれば、私が幸せになれる。成長した暁には、私が娘さんからその婚約者をもらおうと考えていた。
 「このくらい出来ないようでは、わたくしの伴侶にはなれなくてよ?ねえ、娘さん?彼が最低でもこのくらい出来るようになったら、彼を、わたくしにくださるわよね?」
 ちゃんと、娘さんにだって断りを入れてもいた。奪うのは良くないからね。だから娘さんが頷いてくれれば。
 「嫌だああああ!捨てないで、捨てないで、お願い!!俺、もうしない!おまえを大事にする!一生大事にするからあああ!!今までのことも償うつもりで、残りの人生、おまえに、いや、あなたに捧げますからあ!捨てないでください!!俺を鬼畜令嬢に差し出さないでえええええ!!」
 恥も外聞もかなぐり捨てた婚約者に、娘さんたちは様子見をする、と言う。
 「そう。では、気が変わったらいつでも仰ってくださいましね?わたくし、こういう方が、何人いてくださっても構いませんから」
 多種多様な責め苦が味わえるのだ。何人いても足りない。
 娘さんたちの婚約者たちは、娘さんたちを幸せにするためだけに存在する存在となってしまった。
 素質ある者たちが失われていく。



*つづく*
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