観客席の、わたし

双子のたまご

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第四章

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「…話は、わかりました。」

「信じてくれる?」

こうやって説明する時間を取ってくれた獅音さんの気持ちをこれ以上疑うことは、できないと思った。
彼を傷つけてしまうかもしれない。

「…はい。
お話する時間を作ってくださって、ありがとうございます。」

まずはお礼を言わなくては。
想いをまっすぐ伝えようとするところ…やはり琥珀と獅音さんは兄妹なんだな。

「…ううん。こちらこそありがとう。
信じてもらえて良かった。」

獅音さんも少しほっとした様子だった。
…でも、

「…やっぱり付き合えません。」

少しの沈黙のあと、そう答えた。

「…どうして?」

「だって、獅音さんが好きになったのはあの頃の私でしょう。」

そう言った私に、獅音さんは困ったように笑う。

「…きっかけはそうだね。」

「…あれから色々変わりましたよ。
もう夢を追ってキラキラはしていないし、
あの頃ほど感情の起伏もない。
だから、もう泣かない。」

「…」

「…あの頃の私はもういませんよ。」

「じゃあ今の奏ちゃんを教えて。
今の奏ちゃんのことを知りたい。」

「何を…」

「付き合ってくれる?」

どうしてここまで食い下がるのか。

「付き合いません。」

もう、はっきりと言うしかないのか。

「私、獅音さんのことが好きなわけじゃないです。」

「…」

獅音さんの顔が見れない。
でも、好きじゃないのにお付き合いなんて…
相手に失礼じゃないの?
しかも相手は友達のお兄さん。
余計に失礼なことはできない。


「…他に好きな人がいるの?」


獅音さんが小さく尋ねる。
視線を上にあげると、獅音さんと目があった。

「え…」

獅音さんは悲しそうな顔をしていた。

「…」

「ち、違います…けど、」

「それなら、どうして?」

「…気持ちが伴わないと、失礼か、と…」

すると、悲しい顔から一転、きょとんとした顔になる。

「そんなこと?」

「そんなことって…」

私のなかでは大事なことなんだけど…

「失礼なわけないじゃん。
付き合ってほしいってお願いしてるんだから、付き合ってくれたらそれで嬉しいよ。
…今は。」




だんだんと、忘れていた自分の欲求を思い出す。
役者を目指した理由の一つ。

必要とされる人間に、なりたい。

…ダメだ、こんな邪な想いで。
気持ちが伴わないことよりも、たちが悪い。
必要とされたいという自分の欲求の為に、彼の想いを受け入れるのか。




ぐらぐらと気持ちが揺れ動き、
葛藤する私にとどめを刺すように、

「…ただ、僕の恋人になってほしい。
僕を君の恋人にしてほしい。
君の気持ちを後回しにしても、君にとってのそのポジションが欲しい。
…そう思ってる僕の方が失礼だと思うけど。」

そう言って自分を卑下する獅音さん。
私の罪悪感を軽くしようとしているのだろう。

「そう思うほど、君が好きだ。」

もうだめだ。絆され始めている。

「僕と、付き合って。」










「…はい、」

獅音さんの目を見ることは、できなかった。
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