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カズの決意
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### カズの決意
ある日のことだった。
カズは突然、マサシに言った。
「オレ、料理の勉強も始めようと思う」
突然の発言に、マサシは思わず手にしていた本を膝の上に落とした。
「どうしたの、突然?」
その問いに、カズは窓の外を見ながら、少し照れくさそうに笑った。
「だってさ、二人とも手料理はあまり出来ないし、購入してきたものばかり食べるのも何か問題があるような気がしてさ。だから、料理の勉強もしようと思った」
マサシは眉をひそめた。
「確かに、インスタントばっかり食べてたら体に悪いだろうけど⋯⋯でも、料理ってそんなに簡単に覚えられるものなの?」
「簡単かどうかは知らないよ。でも、やってみなくちゃわからないだろ? 君が毎日食べるものを作るくらい、オレにも責任があると思うんだ」
その言葉に、マサシは胸の奥がじんと温かくなるのを感じた。
カズはいつも、こうだった。
大きな声を出さず、派手な行動も取らず、ただ静かに、でも確かな意志で、マサシのそばに寄り添ってくれる。
「それにさ」
と、カズは立ち上がり、キッチンへと歩きながら続けた。
「君がどんなに辛い過去を背負ってても、それを全部オレが癒せるわけじゃない。でもね、毎日、ちゃんと温かいご飯を食べて、『今日も生きててよかった』って思えるような日々を、一緒に作りたいんだよ」
マサシは言葉を失った。
その一言が、まるで長い冬の終わりを告げる陽だまりのように、心の奥まで染み渡っていく。
「だから、まずは簡単なところから。オレも少しは料理ができるけど、玉ねぎの炒め方から、だしの取り方まで、全部学ぶよ。YouTubeも観るし、cookpadも観る。本も買う。下手くそなうちは君に試食してもらわなきゃな」
そう言って、カズは冷蔵庫を開け、少し傷みかけた野菜を取り出した。
「これ、まだ使えるかな? 玉ねぎと人参、ちょっとしんなりしてるけど⋯⋯」
「それ、明日捨てる予定だったんだけど」
「じゃあ、今日の夕飯のチャンスだ! チャレンジしてみようぜ!」
マサシはまだ言葉が見つからなかった。
カズの言葉は、まるで静かな雨のように、心の奥深くまでじわりと浸透していく。
彼がキッチンに立って、傷みかけた玉ねぎと人参を手にしている姿は、どこか滑稽でもあり、それでいて切なくて、そして――とても愛おしかった。
「カズ⋯⋯」
「ん? どうした?」
「そんな、大それたこと、しなくたって⋯⋯⋯」
マサシはそう言った。
声は小さく、震えていた。
自分でも気づかないうちに、目元が熱くなっていた。
カズは振り返り、優しく笑った。
「大それたことなんて、全然ないよ。ただ、君と一緒に、普通の日々をちゃんと生きてみたいって思っただけ。それに、料理ってさ、誰かのために作るってことが、一番の味なんだって、どこかで読んだんだ。だから⋯⋯オレ、君のために、ちゃんとご飯を作れるようになりたいんだ」
その言葉に、マサシの胸がぎゅっと締めつけられた。
彼は長い間、誰かに必要とされることが怖かった。
過去の記憶が、いつもその手を引っ張り、『君なんか、誰にも愛されない』と囁いてきた。
孤独は、彼の日常の一部になっていた。
冷蔵庫には賞味期限を過ぎたインスタント食品が並び、食卓にはほとんど人が座らず、夜は一人でテレビの明かりを頼りに、眠りにつくだけの日々。
でも、カズが現れてから、少しずつ、その壁が崩れ始めていた。
カズは、何も強引に押しつけてこない。
でも、確実に、静かに、マサシの隣にいる。
雨の日も風の日も嵐の日も、何も言わず、ただそばにいてくれる。
そして今、そのカズが、料理を――というか、「君の毎日を、ちゃんと守りたい」という意思を、包丁とフライパンで示そうとしている。
「⋯⋯わかった」
マサシは、小さく頷いた。
「じゃあ、俺も手伝う。YouTube、一緒に観よう。玉ねぎの炒め方、ちゃんと教えてよ」
カズの目が、ぱっと輝いた。
「マジで? いいのか?」
「うん。でも、もし火事になったら、責任取ってね」
「了解! 火事になったら、オレが消火器持って逃げる!」
二人は笑った。
その笑い声が、キッチンにこだまして、いつもの冷たい空気を少しずつ溶かしていく。
カズは早速、スマホを取り出して「初心者向け 簡単 料理」と検索し始めた。
マサシは隣に座って、画面を覗き込む。
「えーと⋯⋯『玉ねぎの甘みを引き出す炒め方』? これ、良さそう」
「甘み? 玉ねぎって、辛いイメージしかないんだけど」
「そう? ちゃんと火を通せば、とろっと甘くなるんだよ。スープとかカレーに入れると、深みが出るらしい」
「へぇ⋯⋯」
カズは真剣な顔で動画を再生し、マサシも思わず見入った。
玉ねぎを薄切りにし、弱火でじっくりと炒める。
油の量、火加減、鍋を時々揺らすタイミング――意外と細かい。
「⋯⋯結構、奥深いなこれ」
「だろ? 料理って、科学みたいだよな。温度、時間、バランス。全部計算なんだ」
「君、急に真面目な顔して怖い」
「いや、本気だよ。今日の目標は、玉ねぎと人参の炒め物。これに、冷凍庫の鶏肉を加えて、簡単チャーハンにしようと思ってる」
「⋯⋯チャーハン? いきなりハードル高くない?」
「やらないことには、わからないだろ?」
また、あの言葉。
「やってみなくちゃわからない」
マサシは、ふと、カズの背中を見つめた。
彼はいつも、こうやって、小さな一歩を、確実に踏み出していく。
大きな夢を語るわけでもなく、誰かに称賛を求めることもなく。
ただ、目の前のことを、誠実に、丁寧に。
――こんな人が、自分のそばにいてくれるなんて。
胸が熱くなる。
涙が出そうになる。
でも、今は、笑っていたい。
「わかった。じゃあ、俺はお米を研ぐよ。炊飯器、確認してくる」
「頼んだ! 彼氏のサポート、心強い!」
「⋯⋯彼氏って、今初めて言ったな」
「え? 言ってない? てっきり言ってたと思ってた」
「言ってないよ。結構、嬉しいんだけど」
カズは少し赤くなり、慌ててフライパンを手に取った。
「そ、そっか。まあ、当たり前だろ。オレたち、ちゃんと付き合ってるんだし」
「うん。当たり前だけど⋯⋯言われると、ちゃんと実感するね」
二人の間の空気が、さらに柔らかくなる。
米を研いでスイッチを入れた後、マサシはカズの隣に立ち、包丁の使い方を教わった。
「人参、こうやって、均等な薄切りにするんだ。指はこうやって、こう⋯⋯あ、危ない!」
カズが慌てて包丁を引っ込める。
「ご、ごめん!」
「大丈夫、切ってないから。でも、包丁は怖いよな。昔、親父が料理してた時、包丁を投げて喧嘩してて⋯⋯」
言ってしまって、マサシはハッとした。
カズは表情を変えることなく、静かに言った。
「⋯⋯そっか。怖い記憶があるんだね」
「うん。だから、包丁って、なんか⋯⋯」
「無理に持たなくていいよ。オレが切るから。君は、火加減を見ててくれれば十分だ」
「でも⋯⋯」
「マサシ」
カズが、ふわりと微笑んだ。
「オレたち、ペアでやるんだよ。君ができないことを、オレがやる。オレがわからないことを、君が教えてくれる。それが、一緒に生きるってことだろ?」
その言葉に、マサシは深く頷いた。
――そうか。
一人ですべてを背負う必要なんて、どこにもない。
カズは、彼の弱さも、過去も、全部含めて「そのまま」受け入れてくれる。
そして、それを「普通の日々」に変えていく力を持っている。
夕方、ついに完成した。
「はい、出来上がり! 簡単チャーハン、完成です!」
カズが皿に盛りつける。
色はちょっと不揃いだし、ご飯は少し焦げている。
玉ねぎは半透明にはなっているが、人参はまだちょっと硬い。
でも――。
「⋯⋯いい匂いがする」
マサシが言うと、カズは満面の笑みを浮かべた。
「よし! 成功だ!」
二人でテーブルに着き、スプーンをとる。
「じゃあ、いただきます」
「⋯⋯いただきます」
一口目。
ご飯はパラパラではなく、少しベタついている。
塩加減はやや濃い。
でも――。
「⋯⋯何これ、うまい」
マサシが言った。
カズが目を見開く。
「ま、マジで? 本当?」
「うん。下手だけど⋯⋯温かい。ちゃんと、心がこもってる」
カズは、その言葉に、少し目を伏せた。
「⋯⋯オレ、君のためなら、何だって頑張れるよ。毎日、こんな風に笑ってほしい。辛い過去は、オレが全部消せるわけじゃないけど、その隣にいて、『今日も生きててよかった』って思えるような、小さな幸せを、ちゃんと積み重ねていきたい」
マサシは、その場で立ち上がると、カズの背中をぎゅっと抱きしめた。
「⋯⋯ありがとう。カズがいてくれて、本当に、よかった」
カズも、ゆっくりと手を回して、抱き返す。
「オレもだよ。君がいてくれて、よかった」
夕暮れの光が、キッチンの窓から差し込み、二人の影を長く伸ばす。
火事にはならなかった。
味は完璧じゃなかった。
でも――。
今日の夕飯は、間違いなく、〚心のこもったご飯〛だった。
そしてそれは、二人の「普通の日々」の、ほんの小さな始まりにすぎなかった。
でも、きっと――。
これから毎日、こうやって、少しずつ、温かい食卓が増えていく。
カズの包丁の音が、マサシの笑い声が、キッチンに響く。
――それが、二人の、新しい物語の始まりだった。
ある日のことだった。
カズは突然、マサシに言った。
「オレ、料理の勉強も始めようと思う」
突然の発言に、マサシは思わず手にしていた本を膝の上に落とした。
「どうしたの、突然?」
その問いに、カズは窓の外を見ながら、少し照れくさそうに笑った。
「だってさ、二人とも手料理はあまり出来ないし、購入してきたものばかり食べるのも何か問題があるような気がしてさ。だから、料理の勉強もしようと思った」
マサシは眉をひそめた。
「確かに、インスタントばっかり食べてたら体に悪いだろうけど⋯⋯でも、料理ってそんなに簡単に覚えられるものなの?」
「簡単かどうかは知らないよ。でも、やってみなくちゃわからないだろ? 君が毎日食べるものを作るくらい、オレにも責任があると思うんだ」
その言葉に、マサシは胸の奥がじんと温かくなるのを感じた。
カズはいつも、こうだった。
大きな声を出さず、派手な行動も取らず、ただ静かに、でも確かな意志で、マサシのそばに寄り添ってくれる。
「それにさ」
と、カズは立ち上がり、キッチンへと歩きながら続けた。
「君がどんなに辛い過去を背負ってても、それを全部オレが癒せるわけじゃない。でもね、毎日、ちゃんと温かいご飯を食べて、『今日も生きててよかった』って思えるような日々を、一緒に作りたいんだよ」
マサシは言葉を失った。
その一言が、まるで長い冬の終わりを告げる陽だまりのように、心の奥まで染み渡っていく。
「だから、まずは簡単なところから。オレも少しは料理ができるけど、玉ねぎの炒め方から、だしの取り方まで、全部学ぶよ。YouTubeも観るし、cookpadも観る。本も買う。下手くそなうちは君に試食してもらわなきゃな」
そう言って、カズは冷蔵庫を開け、少し傷みかけた野菜を取り出した。
「これ、まだ使えるかな? 玉ねぎと人参、ちょっとしんなりしてるけど⋯⋯」
「それ、明日捨てる予定だったんだけど」
「じゃあ、今日の夕飯のチャンスだ! チャレンジしてみようぜ!」
マサシはまだ言葉が見つからなかった。
カズの言葉は、まるで静かな雨のように、心の奥深くまでじわりと浸透していく。
彼がキッチンに立って、傷みかけた玉ねぎと人参を手にしている姿は、どこか滑稽でもあり、それでいて切なくて、そして――とても愛おしかった。
「カズ⋯⋯」
「ん? どうした?」
「そんな、大それたこと、しなくたって⋯⋯⋯」
マサシはそう言った。
声は小さく、震えていた。
自分でも気づかないうちに、目元が熱くなっていた。
カズは振り返り、優しく笑った。
「大それたことなんて、全然ないよ。ただ、君と一緒に、普通の日々をちゃんと生きてみたいって思っただけ。それに、料理ってさ、誰かのために作るってことが、一番の味なんだって、どこかで読んだんだ。だから⋯⋯オレ、君のために、ちゃんとご飯を作れるようになりたいんだ」
その言葉に、マサシの胸がぎゅっと締めつけられた。
彼は長い間、誰かに必要とされることが怖かった。
過去の記憶が、いつもその手を引っ張り、『君なんか、誰にも愛されない』と囁いてきた。
孤独は、彼の日常の一部になっていた。
冷蔵庫には賞味期限を過ぎたインスタント食品が並び、食卓にはほとんど人が座らず、夜は一人でテレビの明かりを頼りに、眠りにつくだけの日々。
でも、カズが現れてから、少しずつ、その壁が崩れ始めていた。
カズは、何も強引に押しつけてこない。
でも、確実に、静かに、マサシの隣にいる。
雨の日も風の日も嵐の日も、何も言わず、ただそばにいてくれる。
そして今、そのカズが、料理を――というか、「君の毎日を、ちゃんと守りたい」という意思を、包丁とフライパンで示そうとしている。
「⋯⋯わかった」
マサシは、小さく頷いた。
「じゃあ、俺も手伝う。YouTube、一緒に観よう。玉ねぎの炒め方、ちゃんと教えてよ」
カズの目が、ぱっと輝いた。
「マジで? いいのか?」
「うん。でも、もし火事になったら、責任取ってね」
「了解! 火事になったら、オレが消火器持って逃げる!」
二人は笑った。
その笑い声が、キッチンにこだまして、いつもの冷たい空気を少しずつ溶かしていく。
カズは早速、スマホを取り出して「初心者向け 簡単 料理」と検索し始めた。
マサシは隣に座って、画面を覗き込む。
「えーと⋯⋯『玉ねぎの甘みを引き出す炒め方』? これ、良さそう」
「甘み? 玉ねぎって、辛いイメージしかないんだけど」
「そう? ちゃんと火を通せば、とろっと甘くなるんだよ。スープとかカレーに入れると、深みが出るらしい」
「へぇ⋯⋯」
カズは真剣な顔で動画を再生し、マサシも思わず見入った。
玉ねぎを薄切りにし、弱火でじっくりと炒める。
油の量、火加減、鍋を時々揺らすタイミング――意外と細かい。
「⋯⋯結構、奥深いなこれ」
「だろ? 料理って、科学みたいだよな。温度、時間、バランス。全部計算なんだ」
「君、急に真面目な顔して怖い」
「いや、本気だよ。今日の目標は、玉ねぎと人参の炒め物。これに、冷凍庫の鶏肉を加えて、簡単チャーハンにしようと思ってる」
「⋯⋯チャーハン? いきなりハードル高くない?」
「やらないことには、わからないだろ?」
また、あの言葉。
「やってみなくちゃわからない」
マサシは、ふと、カズの背中を見つめた。
彼はいつも、こうやって、小さな一歩を、確実に踏み出していく。
大きな夢を語るわけでもなく、誰かに称賛を求めることもなく。
ただ、目の前のことを、誠実に、丁寧に。
――こんな人が、自分のそばにいてくれるなんて。
胸が熱くなる。
涙が出そうになる。
でも、今は、笑っていたい。
「わかった。じゃあ、俺はお米を研ぐよ。炊飯器、確認してくる」
「頼んだ! 彼氏のサポート、心強い!」
「⋯⋯彼氏って、今初めて言ったな」
「え? 言ってない? てっきり言ってたと思ってた」
「言ってないよ。結構、嬉しいんだけど」
カズは少し赤くなり、慌ててフライパンを手に取った。
「そ、そっか。まあ、当たり前だろ。オレたち、ちゃんと付き合ってるんだし」
「うん。当たり前だけど⋯⋯言われると、ちゃんと実感するね」
二人の間の空気が、さらに柔らかくなる。
米を研いでスイッチを入れた後、マサシはカズの隣に立ち、包丁の使い方を教わった。
「人参、こうやって、均等な薄切りにするんだ。指はこうやって、こう⋯⋯あ、危ない!」
カズが慌てて包丁を引っ込める。
「ご、ごめん!」
「大丈夫、切ってないから。でも、包丁は怖いよな。昔、親父が料理してた時、包丁を投げて喧嘩してて⋯⋯」
言ってしまって、マサシはハッとした。
カズは表情を変えることなく、静かに言った。
「⋯⋯そっか。怖い記憶があるんだね」
「うん。だから、包丁って、なんか⋯⋯」
「無理に持たなくていいよ。オレが切るから。君は、火加減を見ててくれれば十分だ」
「でも⋯⋯」
「マサシ」
カズが、ふわりと微笑んだ。
「オレたち、ペアでやるんだよ。君ができないことを、オレがやる。オレがわからないことを、君が教えてくれる。それが、一緒に生きるってことだろ?」
その言葉に、マサシは深く頷いた。
――そうか。
一人ですべてを背負う必要なんて、どこにもない。
カズは、彼の弱さも、過去も、全部含めて「そのまま」受け入れてくれる。
そして、それを「普通の日々」に変えていく力を持っている。
夕方、ついに完成した。
「はい、出来上がり! 簡単チャーハン、完成です!」
カズが皿に盛りつける。
色はちょっと不揃いだし、ご飯は少し焦げている。
玉ねぎは半透明にはなっているが、人参はまだちょっと硬い。
でも――。
「⋯⋯いい匂いがする」
マサシが言うと、カズは満面の笑みを浮かべた。
「よし! 成功だ!」
二人でテーブルに着き、スプーンをとる。
「じゃあ、いただきます」
「⋯⋯いただきます」
一口目。
ご飯はパラパラではなく、少しベタついている。
塩加減はやや濃い。
でも――。
「⋯⋯何これ、うまい」
マサシが言った。
カズが目を見開く。
「ま、マジで? 本当?」
「うん。下手だけど⋯⋯温かい。ちゃんと、心がこもってる」
カズは、その言葉に、少し目を伏せた。
「⋯⋯オレ、君のためなら、何だって頑張れるよ。毎日、こんな風に笑ってほしい。辛い過去は、オレが全部消せるわけじゃないけど、その隣にいて、『今日も生きててよかった』って思えるような、小さな幸せを、ちゃんと積み重ねていきたい」
マサシは、その場で立ち上がると、カズの背中をぎゅっと抱きしめた。
「⋯⋯ありがとう。カズがいてくれて、本当に、よかった」
カズも、ゆっくりと手を回して、抱き返す。
「オレもだよ。君がいてくれて、よかった」
夕暮れの光が、キッチンの窓から差し込み、二人の影を長く伸ばす。
火事にはならなかった。
味は完璧じゃなかった。
でも――。
今日の夕飯は、間違いなく、〚心のこもったご飯〛だった。
そしてそれは、二人の「普通の日々」の、ほんの小さな始まりにすぎなかった。
でも、きっと――。
これから毎日、こうやって、少しずつ、温かい食卓が増えていく。
カズの包丁の音が、マサシの笑い声が、キッチンに響く。
――それが、二人の、新しい物語の始まりだった。
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