18 / 48
18.
早朝
しおりを挟む
### 早朝
キッチンからの香ばしい匂いが、カズの部屋のドアの隙間から忍び込んできた。
目を覚ました瞬間、マサシの意識はまず、自分の肌に残る温もりに向けられた。
布団の感触も、体の奥に残る微かな疼きも、すべてが昨日の夜の記憶を呼び覚ます。
彼はゆっくりと上体を起こし、シーツを胸元まで引き寄せた。
裸の身体に、昨日までとは違う感覚がある。
それは羞恥と、そしてどこか満ち足りた安心感が混ざり合った、複雑な感情だった。
「俺、昨日の夜にカズに抱かれたんだ⋯⋯」
声に出してみた途端、心臓が跳ねた。
まるでその言葉が現実を再確認させるように、胸の奥がじんと熱くなる。
彼は思わず顔を覆い、布団の中に顔を埋めた。
「抱かれて逝ってしまうなんて、何か恥ずかしい⋯⋯俺!」
でも、その恥ずかしさの裏には、確かに喜びがある。
カズの手の温もり、声、鼓動。
すべてが自分のものになったという実感。
それは、今までの友情や信頼の延長線上にあるようで、でも、どこか別次元のものだった。
まるで、二人の関係がついに「言葉では言い尽くせない場所」に到達したかのよう。
ふと、股間に手をやる。
まだ少し膨れているような気がして、思わず指先でそっと触れてみた。
途端に、昨夜の感覚が蘇ってくる。
カズの声、彼の呼吸、耳元で囁かれた「大丈夫、ここにいるよ」という言葉。
その記憶に、また頬が熱くなる。
「⋯⋯バカだな、俺」
そう呟きながらも、口の端が自然と上がっていた。
その時、リビングからカズの声が響いた。
「マサシ、朝ご飯できたよ~!」
その声に、マサシはびくっとして跳ね起きた。
「ひっ、あ、ああ⋯⋯!」
慌ててシーツを抱きしめる。
まるで声だけで身体が反応してしまうような、そんな感覚。
カズの声が、もう自分の神経の一部になったかのようだ。
「⋯⋯お、おう! 今、起きたところだよ!」
声は少し震えていた。
自分で聞いて、ますます赤面してしまう。
「いい匂いするね! 何作ったの?」
「目玉焼きとベーコン、あとトースト。あと、昨日の残りのスープも温めたよ。マサシ、好きだったっけ?」
「うん、好き⋯⋯! すぐ行くから!」
マサシは慌てて布団から抜け出し、散らばっている服を拾い集めた。
でも、昨日の服を着るのは、なんだか妙に恥ずかしい。
まるで、その布地に昨夜の記憶が染みついているかのように感じる。
「⋯⋯シャワー、浴びてからの方がいいかな⋯⋯」
そう思って、バスルームへ向かう。
ドアを閉め、シャワーの音を立てて、ようやく少し落ち着いた呼吸を取り戻す。
熱い湯が肩に降り注ぐ。
その感覚に、また昨夜のことを思い出してしまう。
カズの手が背中を撫でたこと。
彼の唇が、自分の首筋に吸いついたこと。
そして、繋がった瞬間、自分の声がカズの名を呼んでいたこと。
「⋯⋯本当に、カズのものになったって感じだ」
そう思うと、胸がじんと締めつけられるような、でも、とても温かい感情が広がった。
タオルで身体を拭き、カズの部屋に置いてあるパジャマ風の部屋着を借りて身に着ける。
少し大きめのシャツの袖をまくりながら、キッチンへと向かった。
カズはリビングのテーブルの上に朝食を並べ、コーヒーを淹れていた。
いつもの、落ち着いた仕草。
でも、マサシにはそれが、昨日とは違う意味を持って見えた。
その手の動き一つ一つに、昨夜の記憶が重なって、見惚れてしまう。
「おはよう。遅かったけど、気にしないで」
カズが振り返り、にっこりと笑った。
その笑顔に、マサシの心臓がまた跳ねた。
「お、おはよう⋯⋯。ごめん、ちょっと寝坊して」
「ん? いや、全然遅くないよ。むしろ、よく眠れたってことだろ?」
カズの言葉に、マサシは思わず顔を赤らめた。
もちろん、よく眠れたのは、心も体も満たされたからだ。
でも、それを言えるわけがない。
「⋯⋯そ、そんなことないよ。普通に寝ただけだよ」
「へえ、そう? でも、寝顔、すごく穏やかだったよ。いつもより、ずっと」
カズはそう言って、マサシの頭を軽く撫でた。
その仕草に、マサシは思わず目を伏せた。
でも、心の奥では、じんわりと幸せが広がっていく。
二人はリビングテーブルを挟んで向かい合って座った。
目の前に並ぶ朝食は、どこにでもあるようなシンプルなもの。
でも、マサシには、それがまるで祝宴のように感じられた。
「⋯⋯カズ」
「ん? どうした?」
「昨日のこと、ありがとう」
カズは少し驚いたように目を見開き、それから、ゆっくりと微笑んだ。
「⋯⋯俺こそ、ありがとう。マサシがいてくれて、本当に良かった」
言葉は少なかった。
でも、その一言に、二人の関係のすべてが込められていた。
朝食を食べながら、二人は昨日の映画の話や、近々出かける予定の話をする。
ごく普通の会話。
でも、その中にも、昨夜の記憶が自然と混ざり合っている。
視線が合うたびに、ふっと笑みがこぼれる。
手が偶然触れ合うだけで、心臓が高鳴る。
食後、カズが洗い物を始めようとした時、マサシはそっと背後に立った。
「⋯⋯手伝うよ」
「え? いいよ、オレがやるから」
「でも、カズが作ってくれたんだし⋯⋯それに」
マサシは少し間を置いて、小さな声で続けた。
「⋯⋯二人で、過ごす時間、もっと増やしたいから」
カズはその言葉に、手を止めた。
そして、ゆっくりと振り返った。
「マサシ⋯⋯」
「ん?」
「⋯⋯オレ、本当に、君のことが好きだよ」
その言葉に、マサシは目を見開いた。
もちろん、昨夜の行為や、今までの関係から、その気持ちは伝わっていた。
でも、こうして言葉にされた瞬間、すべてが現実になるような気がした。
「⋯⋯俺も、カズのこと、好きだよ。初めて声をかけられた時から、ずっと、好きだった」
カズはその言葉を聞くと、目を細め、マサシの頬にそっと手を触れた。
そして、ゆっくりと、唇を重ねた。
それは昨夜のような熱とは違う。
優しくて、確かめるような、でも、深く心に届くキスだった。
「⋯⋯これからも、こうやって、近くにいような」
「うん⋯⋯近くに、ずっと」
言葉は、もう必要なかった。
朝の光がキッチンを明るく照らし、二人の影を壁に重ねていた。
世界は静かで、でも、彼らの心の中では、新しい物語が、確かに動き出していた。
これからも、たくさんの「初めて」があるだろう。
でも、それも全部――二人で、歩いていけばいい。
マサシは、カズの手をぎゅっと握り返した。
そして、心の中で、そっと誓った。
「⋯⋯俺たちの、新しい日常生活が、今、始まったんだ」
キッチンからの香ばしい匂いが、カズの部屋のドアの隙間から忍び込んできた。
目を覚ました瞬間、マサシの意識はまず、自分の肌に残る温もりに向けられた。
布団の感触も、体の奥に残る微かな疼きも、すべてが昨日の夜の記憶を呼び覚ます。
彼はゆっくりと上体を起こし、シーツを胸元まで引き寄せた。
裸の身体に、昨日までとは違う感覚がある。
それは羞恥と、そしてどこか満ち足りた安心感が混ざり合った、複雑な感情だった。
「俺、昨日の夜にカズに抱かれたんだ⋯⋯」
声に出してみた途端、心臓が跳ねた。
まるでその言葉が現実を再確認させるように、胸の奥がじんと熱くなる。
彼は思わず顔を覆い、布団の中に顔を埋めた。
「抱かれて逝ってしまうなんて、何か恥ずかしい⋯⋯俺!」
でも、その恥ずかしさの裏には、確かに喜びがある。
カズの手の温もり、声、鼓動。
すべてが自分のものになったという実感。
それは、今までの友情や信頼の延長線上にあるようで、でも、どこか別次元のものだった。
まるで、二人の関係がついに「言葉では言い尽くせない場所」に到達したかのよう。
ふと、股間に手をやる。
まだ少し膨れているような気がして、思わず指先でそっと触れてみた。
途端に、昨夜の感覚が蘇ってくる。
カズの声、彼の呼吸、耳元で囁かれた「大丈夫、ここにいるよ」という言葉。
その記憶に、また頬が熱くなる。
「⋯⋯バカだな、俺」
そう呟きながらも、口の端が自然と上がっていた。
その時、リビングからカズの声が響いた。
「マサシ、朝ご飯できたよ~!」
その声に、マサシはびくっとして跳ね起きた。
「ひっ、あ、ああ⋯⋯!」
慌ててシーツを抱きしめる。
まるで声だけで身体が反応してしまうような、そんな感覚。
カズの声が、もう自分の神経の一部になったかのようだ。
「⋯⋯お、おう! 今、起きたところだよ!」
声は少し震えていた。
自分で聞いて、ますます赤面してしまう。
「いい匂いするね! 何作ったの?」
「目玉焼きとベーコン、あとトースト。あと、昨日の残りのスープも温めたよ。マサシ、好きだったっけ?」
「うん、好き⋯⋯! すぐ行くから!」
マサシは慌てて布団から抜け出し、散らばっている服を拾い集めた。
でも、昨日の服を着るのは、なんだか妙に恥ずかしい。
まるで、その布地に昨夜の記憶が染みついているかのように感じる。
「⋯⋯シャワー、浴びてからの方がいいかな⋯⋯」
そう思って、バスルームへ向かう。
ドアを閉め、シャワーの音を立てて、ようやく少し落ち着いた呼吸を取り戻す。
熱い湯が肩に降り注ぐ。
その感覚に、また昨夜のことを思い出してしまう。
カズの手が背中を撫でたこと。
彼の唇が、自分の首筋に吸いついたこと。
そして、繋がった瞬間、自分の声がカズの名を呼んでいたこと。
「⋯⋯本当に、カズのものになったって感じだ」
そう思うと、胸がじんと締めつけられるような、でも、とても温かい感情が広がった。
タオルで身体を拭き、カズの部屋に置いてあるパジャマ風の部屋着を借りて身に着ける。
少し大きめのシャツの袖をまくりながら、キッチンへと向かった。
カズはリビングのテーブルの上に朝食を並べ、コーヒーを淹れていた。
いつもの、落ち着いた仕草。
でも、マサシにはそれが、昨日とは違う意味を持って見えた。
その手の動き一つ一つに、昨夜の記憶が重なって、見惚れてしまう。
「おはよう。遅かったけど、気にしないで」
カズが振り返り、にっこりと笑った。
その笑顔に、マサシの心臓がまた跳ねた。
「お、おはよう⋯⋯。ごめん、ちょっと寝坊して」
「ん? いや、全然遅くないよ。むしろ、よく眠れたってことだろ?」
カズの言葉に、マサシは思わず顔を赤らめた。
もちろん、よく眠れたのは、心も体も満たされたからだ。
でも、それを言えるわけがない。
「⋯⋯そ、そんなことないよ。普通に寝ただけだよ」
「へえ、そう? でも、寝顔、すごく穏やかだったよ。いつもより、ずっと」
カズはそう言って、マサシの頭を軽く撫でた。
その仕草に、マサシは思わず目を伏せた。
でも、心の奥では、じんわりと幸せが広がっていく。
二人はリビングテーブルを挟んで向かい合って座った。
目の前に並ぶ朝食は、どこにでもあるようなシンプルなもの。
でも、マサシには、それがまるで祝宴のように感じられた。
「⋯⋯カズ」
「ん? どうした?」
「昨日のこと、ありがとう」
カズは少し驚いたように目を見開き、それから、ゆっくりと微笑んだ。
「⋯⋯俺こそ、ありがとう。マサシがいてくれて、本当に良かった」
言葉は少なかった。
でも、その一言に、二人の関係のすべてが込められていた。
朝食を食べながら、二人は昨日の映画の話や、近々出かける予定の話をする。
ごく普通の会話。
でも、その中にも、昨夜の記憶が自然と混ざり合っている。
視線が合うたびに、ふっと笑みがこぼれる。
手が偶然触れ合うだけで、心臓が高鳴る。
食後、カズが洗い物を始めようとした時、マサシはそっと背後に立った。
「⋯⋯手伝うよ」
「え? いいよ、オレがやるから」
「でも、カズが作ってくれたんだし⋯⋯それに」
マサシは少し間を置いて、小さな声で続けた。
「⋯⋯二人で、過ごす時間、もっと増やしたいから」
カズはその言葉に、手を止めた。
そして、ゆっくりと振り返った。
「マサシ⋯⋯」
「ん?」
「⋯⋯オレ、本当に、君のことが好きだよ」
その言葉に、マサシは目を見開いた。
もちろん、昨夜の行為や、今までの関係から、その気持ちは伝わっていた。
でも、こうして言葉にされた瞬間、すべてが現実になるような気がした。
「⋯⋯俺も、カズのこと、好きだよ。初めて声をかけられた時から、ずっと、好きだった」
カズはその言葉を聞くと、目を細め、マサシの頬にそっと手を触れた。
そして、ゆっくりと、唇を重ねた。
それは昨夜のような熱とは違う。
優しくて、確かめるような、でも、深く心に届くキスだった。
「⋯⋯これからも、こうやって、近くにいような」
「うん⋯⋯近くに、ずっと」
言葉は、もう必要なかった。
朝の光がキッチンを明るく照らし、二人の影を壁に重ねていた。
世界は静かで、でも、彼らの心の中では、新しい物語が、確かに動き出していた。
これからも、たくさんの「初めて」があるだろう。
でも、それも全部――二人で、歩いていけばいい。
マサシは、カズの手をぎゅっと握り返した。
そして、心の中で、そっと誓った。
「⋯⋯俺たちの、新しい日常生活が、今、始まったんだ」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる