続・性春時代

あかいとまと

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銭湯

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### 銭湯

 マンションのボイラーが故障してから、もう二日目が終わろうとしていた。
 水は出るが、お湯は出ない。
 秋の冷たい空気の中、シャワーを浴びるなどもっての他。
 風呂に入れず、体はべたつくし、髪は脂ぎってまとまりがなくなる。
 男四人——カズ、ハヤト、ハル、マサシ——は、ある夜、カズの部屋に集まり、今後の対策を話し合っていた。

「銭湯行くしかないよな」

 と、カズが冷えたコーヒーを一口飲みながら言った。
 彼はいつも冷静で、物事を論理的に処理するタイプだ。
 26歳だが、落ち着いた雰囲気で、無駄なことは言わない。

「面倒くさっ!」

 と、ハヤトが即座に反論した。
 彼は普段は落ち着いているが、やや短気なところがあり、面倒なことは極力避けたいタイプ。
 今もソファにだらっと座り、足を組んで天井を睨んでいる。

「別に二、三日風呂に入らなくても死ぬわけじゃないし、気にもならないけど?」

 と、ハルが淡々と口を挟んだ。
 彼はいつものほほんとしていて、感情の変化をあまり表に出さない。
 身長は高く、細身で、どこか影のある雰囲気を持っている。

「お前が気にならなくても、俺は気にするよ!」

 と、ハヤトがハルを睨んだ。

「このままじゃ体臭がキツくなるだろ! それに、仕事行く前にはちゃんと清潔にしておきたいんだよ!」

「じゃあ、銭湯行こうよ」

 と、マサシがにやにやしながら言った。
 彼は四人の中で一番の陽キャで、どこか軽いノリがあり、たまに空気を読まない発言をする。 
 でも、その明るさが場を和ませることも多かった。

「⋯⋯行くなら行くで、仕方ないよな」

 と、ハルが小さく肩をすくめた。

 翌日の夕方、四人は近くの老舗銭湯「湯の花」へと足を運んだ。
 外観は古びているが、清潔で、地元の人たちに愛されている銭湯だ。
 脱衣所で服を脱ぎ、タオルを腰に巻いて、浴室へと向かう。

 湯気の中、四人はそれぞれ体を洗い始めた。
 石鹸を泡立て、背中を流し、髪を洗う。
 日常的な動作だが、四人が同時に同じ空間で裸になるというのは、何となく妙な空気があった。

「久し振りの銭湯だなあ」

 と、カズがため息混じりに言った。

「でも、こうやってみんなで来ると、なんか青春っぽいよな」

 と、マサシが笑った。

「青春って⋯⋯俺らもう青春終わってるだろ」

 と、ハヤトが苦笑い。

「でも、男同士で裸になって、身体の話をし合うって、青春の定番じゃん」

 と、マサシはなおも続ける。

「⋯⋯何の話?」

 と、ハルが冷静に尋ねた。

「いや、例えばさ⋯⋯」

 と、マサシは少し声を落として、

「サイズとか、気になったりしない?」

 一瞬、空気が止まった。

「は? 何言ってんの? またかよ」

 と、ハヤトが眉をひそめた。

「いや、別に変な意味じゃなくてさ。男なら誰しも、ちょっとは気になるでしょ? どれくらいが平均かとか、自分はどんくらいかとか」

 カズは苦笑いしながら、

「まあ、確かに気になることはあるよな。でも、比べるもんでもないよ」

「でも、今ならチャンスじゃん。四人で来てるし、お互いタオル巻いてるだけだし⋯⋯」

 と、マサシは目を輝かせていた。

「やめとけよ」

 と、ハヤトが言ったが、その声には弱々しさがあった。
 実際、彼自身も少し気になってはいるようだった。

「別に構わないけど?」

 と、ハルが淡々と口を開いた。

「気になるなら、見せれば?」

 その一言で、場の空気が一気に変わった。

「⋯⋯マジで? 見せるの?」

 と、マサシが目を丸くした。

「別に隠すつもりはないよ」

 と、ハルは肩をすくめた。

「ただ、見たいなら見ればいい」

「お、お前、結構自信あるんじゃねえか?」

 と、ハヤトが警戒するように言った。

「自信とかじゃなくて、事実だよ」

 と、ハルは冷静に答えた。

「じゃあ⋯⋯見せてみろよ」

 と、ハヤトが挑戦的な目を向けた。

 ハルは少し考えると、腰に巻いたタオルをゆっくりと外した。
 湯気の中、その姿が露わになる。

 一瞬、誰もが息を呑んだ。

「⋯⋯マジかよ」

 と、ハヤトがぽつりと言った。

 ハルのそれは、明らかに平均を大きく上回っていた。
 長さも、太さも、圧倒的な存在感。
 湯気の中で、まるで彫刻のように静かに佇んでいる。

「⋯⋯すげえな」

 と、カズが思わず呟いた。

「お前、そんなに大きかったか?」

「いや、マジで⋯⋯」

 と、マサシも目を剥いていた。

「これ、モデルとかでいけんじゃね?」

「⋯⋯別に自慢じゃないよ」

 と、ハルは再びタオルを巻きながら言った。

「ただの体質だ」

「いや、でも⋯⋯」

 と、ハヤトが悔しそうに言った。

「俺は負けたくないよ!」

 そして、彼も腰のタオルを外した。

「⋯⋯まあ、普通かな」

 と、カズが冷静に評価した。

 ハヤトのは、確かに平均よりは少し大きめ。
 だが、ハルと比べると、明らかに劣る。
 それでも、ハヤト自身は「悪くない」と思っているようで、少し胸を張っていた。

「次はカズだろ?」

 と、マサシが促した。

「別に⋯⋯」

 と、カズは苦笑いしながらも、

「まあ、いいか」

 とタオルを外した。

「おおっ!」

 と、マサシが声を上げた。

「カズ、意外とあるじゃん!」

 カズのは、ハヤトよりは明らかに大きく、長さも太さもハルに次ぐ存在感。
 引き締まった体格と相まって、男らしい印象を与えた。

「いや、これは⋯⋯俺よりでかいじゃん!」

 と、ハヤトが悔しそうに言った。

「まあ、サイズに一喜一憂しても仕方ないよ」

 と、カズは冷静に言いながらも、わずかに頬を緩めていた。

「じゃあ⋯⋯残るはマサシか」

 と、ハルが言った。

「いや、ちょっと待てよ⋯⋯」

 と、マサシが後ずさった。

「別に見せる必要ないし⋯⋯」

「逃げるなよ」

 と、ハヤトが笑いながら言った。

「さっきの勢いどこいった?」

「でもさ⋯⋯」

 と、マサシは顔を赤らめながら、

「俺のは⋯⋯ちょっと⋯⋯」

「ちょっとって、どれくらい?」

 と、カズが尋ねた。

 マサシは渋々、タオルを外した。

「⋯⋯うわ」

 と、ハヤトが思わず声を漏らした。

「⋯⋯まあ、これはこれで」

 と、カズが気を遣うように言った。

 マサシのは、確かに四人中最も小さかった。
 長さも太さも控えめで、正直、存在感は薄い。
 平均的といったところか。
 本人もそれを自覚しているようで、すぐにタオルで隠した。

「⋯⋯ごめん、マサシ」

 と、ハルが初めて笑みを浮かべた。

「お前、問題外だな」

「いや、別に⋯⋯」

 と、マサシは照れ笑いを浮かべた。

「サイズじゃないって言うし⋯⋯」

「まあ、確かにサイズじゃないよ」

 と、カズが言った。

「でも、こうやって比べると、ちょっと面白いな」

「俺は負けた⋯⋯」

 と、ハヤトが天井を見上げて言った。

「でも、ハル、お前だけ別格だわ。神かよ」

「別に特別じゃないよ」

 と、ハルは再び淡々と答えた。

「ただの体の一部だ。気にしても意味ない」

「でもさ、女の人って、やっぱ大きい方が喜ぶんじゃないの?」

 と、マサシが尋ねた。

「それも人によるよ」

 と、カズ。

「大事なのはサイズより、扱い方だろ」

「⋯⋯確かに」

 と、ハヤトも頷いた。

「俺、今まで彼女に『優しい』って言われたことあるし」

「俺は言われたことないな」

 と、ハルがつぶやいた。

「⋯⋯それ、ちょっと悲しいな」

 と、マサシが言った。

「でも、ハルは雰囲気が気さくだからな」

 と、カズが笑った。

「話しかけづらいって、女子から聞いたことあるし」

「⋯⋯なるほど」

 と、ハルは特に動じず、

「それも事実か」

 湯船に浸かりながら、四人はしばらく沈黙した。
 湯気が立ち上り、体がじんわりと温まる。
 日常のわずらわしさから解放されたような、そんな時間だった。

「でもさ」

 と、マサシがぽつりと言った。

「こうやって、裸になって話すのって、結構大事なことだよな」

「ああ」

 と、カズが頷いた。

「普段は服着てて、心も隠してるけど⋯⋯裸になると、何か素直になれる気がする」

「俺もそう思う」

 と、ハヤト。

「普段はケンカばっかしてても、こうやって風呂入ってるとな⋯⋯仲間って感じがする」

「⋯⋯確かに」

 と、ハルも初めて柔らかい声で言った。

「こういう時間、悪くないな」

 マサシがにやっと笑った。

「じゃあ、また来週も来ようぜ。ボイラー、まだ直んないって言ってたし」

「⋯⋯お前、また見たいだけだろ」

 と、ハヤトが笑った。

「まあ、いいじゃん。男同士の絆が深まるんだし」

 と、マサシは肩をすくめた。

 湯船の中で、四人の笑い声が湯気に溶けていった。  

 そして、誰もが心のどこかで思っていた。  

 ——サイズはどうあれ、こういう時間が、一番大事なんだ⋯⋯と。





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