続・性春時代

あかいとまと

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Happy Christmas

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### Happy Christmas

 12月25日、朝の光がカーテンの隙間からそっと差し込む。
 カズは、いつもより少し早く目を覚ました。
 寝癖のついた髪を掻き上げながら、彼は布団の中で小さく微笑む。
 今日はクリスマス。
 特別な日じゃないけれど、彼にとっては「特別にしたい日」だった。

「よし、行くぞ!」
  
 カズは布団を蹴り飛ばすと、パジャマのままキッチンへと駆け込む。

「皆んな、今日は仕事は禁止だぞ!」 
 
 彼の声がリビングに響く。
 まだソファで寝転がっていたマサシが、びくりと体を跳ねさせた。

「はぁ? 何言ってんの、カズ。今日も原稿の締め切りあるんだけど⋯⋯」 
 
 とぼけた顔で言うマサシに、カズは冷蔵庫の扉をバタンと閉めながら言う。

「そんなのどうでもいい! 今日はクリスマス。創作は休む日。それがルール」

「創作のルールにクリスマス休暇ってどこに書いてあるの?」
  
 とマサシが文句を言いかけたそのとき、ハヤトが静かに言った。

「イエス・キリストの生誕日だよ」

 マサシはキョトンとした顔でハヤトを見つめる。

「⋯⋯え? それ、マジで?」

「うん。25日が生誕日。前日はイブ。24日が誕生日だと思ってる人もいるみたいだけど、教会的には25日が正式な日なんだ」

「へぇ⋯⋯」
  
 マサシは頭を掻きながら、

「でも、俺らキリスト教じゃないし、関係ないじゃん」

 と呟く。

「関係ないけど、祝ってもいいだろ?」 
 
 とカズが笑いながら言う。
  
「という訳で、今日は祝日とします!」

 ハヤトが眉をひそめた。

「この中にキリスト教の奴でもいるのか?」

 マサシとハルが同時にブンブンと首を横に振る。

「いないね」

「俺は神社に初詣行くタイプだし」

「そんじゃ、俺たちなりのクリスマスを作ればいいんだよ」
  
 カズは得意げに胸を張った。
  
「ちゃんとチキンも用意するし、ケーキも焼くからな! サラダはマサシに任せる!」

「えっ、なんで俺!?」 
 
 マサシが慌てる。

「野菜切るの、マサシが一番丁寧なんだもん。それに、サラダのドレッシングも絶品じゃん」

「⋯⋯まあ、確かに俺のドレッシングは神レベルだけど⋯⋯」
  
 マサシは照れ隠しに鼻を鳴らす。

「ハヤトと兄貴は部屋の片付けと掃除を頼む!」

 ハヤトとハルが顔を見合わせ、

「⋯⋯了解」

 と、少しだけ渋々ながらも応えた。

 朝からマンションは活気に満ちていく。
 カズはオーブンを予熱しながら、冷蔵庫から丸鶏を取り出す。
 マサシは包丁を研ぎながら、キャベツとトマトを洗う。
 ハルはソファの下に潜り込んで、いつの間にか散らばったスケッチブックを拾い集め、ハヤトは窓拭きの雑巾を手に、静かにガラスを磨いていく。

「それにしても⋯⋯」 
 
 とハルがふと口を開く。
  
「カズ、今年もケーキ焼くの? 去年のチョコケーキ、ちょっと焦げてたよね」

「あれは⋯⋯アートなんだよ! 焦げた部分が味に深みを出すって!」
  
 カズは顔を赤らめながら言い返す。

「今年は大丈夫。レシピをちゃんと調べたし、温度も計る。絶対に成功させる!」

「楽しみだな」
  
 とハヤトが微笑む。
  
「カズのケーキ、失敗しても、みんなで笑いながら食べるから」

 その言葉に、カズの胸がじんわりと温かくなった。

 昼過ぎ、部屋は見違えるほど綺麗になり、キッチンからはチキンの香ばしい匂いが漂い始める。
 マサシのサラダは彩り豊かに盛りつけられ、ハルが描いた手作りのクリスマスカードがテーブルの中央に置かれた。

「兄貴、それ⋯⋯俺たちのために描いたの?」 
 
 カズがカードを手に取る。

「ああ。今年も無事にクリスマスを迎えられたこと、感謝してさ」  

 ハルの声はいつもより少し優しかった。
  
「それに、お前らとこうやって過ごせることが、俺にとっては一番の幸せなんだよ」

 カズは言葉を失い、ただうなずいた。

 午後4時、オーブンのタイマーが鳴った。
 カズは手袋をはめ、慎重にチキンを取り出す。
 表面はきつね色に焼き上がり、ジューシーな脂が滴っている。

「やった! 完璧!」 
 
 カズの声に、みんながキッチンに集まる。

「ケーキも焼けたよ!」
  
 続いてオーブンから取り出したケーキは、ふっくらと膨らみ、表面は均等な焼き色。
 カズは胸を張った。

「これは⋯⋯奇跡だ」
  
 とマサシが真剣な顔で言う。
  
「カズがケーキを焦がさなかった日が、ついに来たのか⋯⋯」

「うるさいな!」
  
 カズは笑いながらマサシの頭を軽く叩く。

 夕方5時、テーブルにはチキン、サラダ、ポテト、グリンピース、そしてカズのケーキが並ぶ。
 ワインの代わりにノンアルコールスパークリングワインをグラスに注ぎ、四人は円を描くように座った。

「じゃあ、乾杯!」
  
 カズが立ち上がる。
  
「今年も、無事にこうやって一緒に過ごせて、本当に嬉しい。来年も、またこうやって笑い合える日々が続きますように。乾杯!」

「乾杯!」
  
 グラスが重なり、温かい空気が流れる。

 食事は和やかに進む。
 マサシのサラダは相変わらず絶品で、ハヤトは「これ、プロのシェフも負けるな」と本気で褒める。
 チキンは外はパリッと、中はジューシー。
 カズのケーキは、甘すぎず、ふわふわで、みんなが「今年一番の出来!」と絶賛した。

 食後、四人はリビングの床に座り、ストーブの前でコーヒーを飲みながら、昔話に花を咲かせる。

「そういえば、カズとマサシが付き合い始めたのって、何年前だっけ?」 
 
 とハヤトが尋ねる。

「一年前だよ。あの、カズの小説の漫画化が決まった時だろ?」  

 マサシが照れながら答える。
  
「高校に入学してすぐに出逢って、その時から好きになってたんだけど、喫茶店で久し振りに会って、その時に『この人、大好きだ』って思ったんだよ」

「えっ、マジで!?」
  
 カズが目を丸くする。
  
「俺は高校で出逢ってから半年くらいにやっと気づいたのに⋯⋯」

「こっちは一目惚れだったんだよ。でも、カズが人気マンガ家の人気作家で、自分なんかが⋯⋯って、ずいぶん悩んだよ」

 ハルが静かに口を挟む。

「でも、マサシがカズを支えてくれて、本当に良かった。あの頃のカズは、売れすぎて逆に辛そうだったからな」

 カズは黙ってうなずいた。  
 あの頃の自分は、賞を取っても、読者に愛されても、心のどこかで孤独を感じていた。
 でも、マサシがそばにいてくれたことで、少しずつ、笑顔を取り戻していった。

「それにしても⋯⋯」  

 とハヤトが空を見上げる。
  
「今年は、みんなそれぞれ忙しかったけど、こうしてこうやって過ごせるって、本当に幸せだよ」

「うん」 
 
 カズは窓の外を見る。
 雪が、静かに舞い降り始めていた。 
 
「毎年、こんな風に、誰もが笑顔でいられる日が続けばいいな」

「来年も、またやろうぜ」 
 
 とマサシが言う。
  
「俺がサラダ担当、変わんないけど」

「ハズレ担当はカズだな」
  
 とハヤトが笑う。

「えー!? 去年だけだよ、あれ!」

 みんなの笑い声が、部屋中に響く。
 ストーブの火がゆらゆらと揺れ、四人の影が壁に重なり合う。

 夜が更け、プレゼントの時間になった。
 カズが用意したのは、手作りのブックカバー。
 それぞれの名前と、好きな小説のタイトルが刺繍されている。
 マサシはカズに、彼の小説の世界観を描いたイラスト集をプレゼントした。
 ハルはハヤトに、彼の小説の登場人物をモチーフにしたオリジナルのスカーフを。
 ハヤトは、カズたち三人に、それぞれの作品を並べて撮った写真を額に入れたものだった。

「『私たちの物語』ってタイトルにした」  

 とハヤトは照れくさそうに言う。  

「これからも、一緒に物語を作っていこう」

 カズはその額を胸に抱き、そっと目を閉じた。

 ――この日々が、物語そのものだ。

 夜の終わり近く、四人はソファに寄り添って、古い映画を流す。
 誰もが静かに、でも心から満たされた表情で、画面を見つめている。

 カズはマサシの肩にもたれかかり、ふとつぶやく。

「なぁ、マサシ」

「ん? どうした?」

「今年のクリスマス⋯⋯最高だった」

 マサシは微笑んで、カズの髪をそっと撫でた。

「俺もだよ。来年も、またこうして、君と一緒に過ごしたい」

 外は雪が静かに積もり、街の灯りがきらきらと輝いている。 
 このマンションの中には、誰もが求める「幸せ」が、確かに存在していた。

 ――特別な日じゃなくても、特別に思える日がある。  
 それこそが、本当のクリスマスなのかもしれない。





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