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覆面冒険者してたら秒で怪しまれたんだが3

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 ――と、思っていたのも数分前。

「この野郎……っ、無駄に動きやがって!!」

 あ、なんか俺の勘違いだったかもしれないな。
 男の攻撃を紙一重で回避しながら、俺は内心独りごちた。
 確かに気配を消すのは得意なんだろうが、それも完璧じゃない。微かなくらいは漂わせているわけで、そのクセを見極めれば両目でも潰れてなきゃかわすことはわけないんだよな。

「くそっ」

 さてどうしたものか。
 俺は徐々に息をあげる男を見つめた。

「ええっと」

 俺としてはコイツらが暴れなきゃ、別にやることもない。むしろギャラリーが増えて目立ってきたことで少々まずい気もするし。
 なにより。

「いい加減にしなよ、

 明らかにキレてるスチルの声。ていうか、俺ってこんなに強かったっけ。やっぱり解呪のせいなのか。
 そんな事をつらつら考えていると。

「食らえッ!!!」
「!?」

 妙に甲高い声と共に、俺の右腕に鋭い熱を感じて飛び退く。
 視界にうつる炎。俺の腕が、燃えていた。

「おいやめろ!」

 スキンヘッド男が叫ぶと同時に。

「【消火デレ・アドレヴィード】」

 という呪文が響きわたる。

「タイマンでなければフェアじゃないよね」

 振り向くと、アルワンがニッコリと微笑んでいる。
 どうやら彼が助けてくれたらしい。そして。

「余計なことするな」

 男の怒りをはらんだ言葉。てっきりアルワンのことだと思い反論しようと口を開きかけると。

「す、すまねえ……でも……」

 情けなく震える声の主は、こいつの仲間のものらしい。魔法使いの杖を握りしめ、おずおずと言いかけるが。

「オレをナメてんのか、あ?」
「そそそっ、そんな……!」

 男はつかつかとそいつの元に歩み寄る。

「ぅ゙ぐっ!?」

 なんと無言でその痩せた腹を殴りつけやがった。

「おい。なにやって――」
「今度は許さねえ。ぶっ殺すぞ」

 あまりのことに声をかけようと思ったが、それ以上なにも言えなかった。
 
「俺の仲間が悪かったな。回復魔法でもかけさせるか」

 嘲笑するでもなく、妙に真面目に言った男。これでますます合点がいった。
 こいつ、見かけ以上にプライドと気位の高いヤツだ。

「要らないな」

 だとすれば上等、俺も正々堂々と戦おう。
 俺は改めて構えをとった。背後でスチルのあからさまな舌打ちが聞こえたが、この時ばかりは完全シカトだ。
 ガキには分からねえ、意地と意地のぶつかり合いってのがあるんだ。それはあとでたっぷりと話して聞かせてやるとして、だ。

「なるほど。お前、見かけによらずいってるな」
「そりゃどうも」

 男はニヤリと笑い構えた。
 言いたかないが、俺と少し似たタイプかもしれない。つまり暑苦しくて、ウザい。そしてこうやって仲間のアシストを無下にする大バカ者。
 でもプライドのためにそうせざる得なかった。
 わかる、共感はするさ。でもな。

「あんまり騒ぎになりたくないんだよなぁ。でも」

 そうボヤく俺の顔面に迫る、こぶし。それを右にかわし、そのまま背中に回り込む。

「仲間は大事にした方がいい」
「っ、ぐ!?」

 首の後ろに手刀を叩き込む。男の喉が上がり、声にならない呻きを聞く。
 しかしなんと、崩れることなくその場に足を踏みしめていた。

「ん?」

 以前絡んできたチンピラにした時は一撃で床に沈んでくれたんだが、やはりS級ってのはダテじゃないらしい。
 両目をギラギラと光らせ、歯を剥いた獣じみた顔で俺を睨みつけてきている。

「……なかなか、やるじゃねぇか」

 まずいな。適当にあしらうつもりが、いっそう戦意を掻き立ててしまったようだ。
 内心に汗をかきつつ、俺は再び距離をとる。

「気に入ったぜ。あんたをぶっ殺す」
「え」

 気に入られて殺されてたまるか、と返す前に再び男が飛び込んできた。

「えっ!?」
「おもしれぇッ、もっとオレを楽しませてくれよぉッ!!!」

 そして打たれ続ける攻撃を必死でかわし、避けて逃げ続ける。
 いやヤル気スイッチ押しちまった。ってかこの状況でノリノリで戦意喪失しないって、メンタル最強かよ。
 俺のドン引きもお構い無しで、男は攻撃を次々と繰り出してくる。

「おもしれぇっ、久しぶりにこんな強い奴と出会ったぜ!」
「い、いやいや」

 そんな楽しまないでくれ。俺はちっとも面白くない。
 風を切ってうなるような攻撃は素手でありながらまるで鋭い剣のようであり、当たったら骨ごと粉砕される巨大な鈍器でもあった。

 そう、こいつの拳はバカみたいな破壊力なんだ。
 剣もたずさえているから多分剣も使えるのだろうが、体術こそがこの男の本領なんだな。
 そんな事を考えていると、後方からひときわ大きなざわめきが聞こえてくる。

「おいメイト。憲兵がくるぞ、さっさと終わらせろ、バカ!」
「うるせえよスチル……ってマジかよ」

 憲兵、つまりこの場をおさめに兵士達がくる。そりゃそうか、城門前で喧嘩騒ぎなんて。運が悪けりゃ関係者まとめて拘束されるかもしれん。
 そうなると非常にマズイ。

「でもこの状況どーすりゃいいんだ!」
「知るかバカ。だからやめろと」

 冷たく言われ、そっぽ向かれた。スチルのやつ、もしや他人のフリで俺を見捨てるつもりか!? くそっ、自業自得 (?)といえあんまりだ。

「おいッ、よそ見してんじゃねぇ!!!」
 
 怒号に気づけば、男のが顔面に迫っていた。
 これはこれでマズイ。でもそんなことより、俺はたいそうムカついていた。

「やかましいっ、あとにしろっつーの」

 苛立ち紛れに叫んだあとは、もう無意識で無我夢中。
 息を吸うかのように自然に身体の重心が下になり、しゃがんでからの足払い。それからスローモーション映像みたくよろける男の腹目掛けて打撃を数発叩き込んでいた。

「……っ、が……ぁ゙!!!」

 目を見開き口から赤い液体を吐きながら、男は綺麗に吹っ飛ぶ。
 そして地面に叩きつけられ小さくバウンドしたあと、ひくりひくりと動くのみ。

 その途端、ドッとその場に声があふれた。
 周囲には取り囲むような大勢の人々。あんなに派手なケンカだから仕方ないのだろうけど、いつの間こんなギャラリーがいたんだ。
 これは目立ちすぎている、やばい。

「スチル……」

 拍手喝采やら誉めそやす言葉がこれ程かってくらい降り注いでいる。
 ただのケンカの勝者にかけられるにしては、あまりにも規模がデカ過ぎないか。
 驚きと戸惑いで彼を見るも。

「もう知らない、バカ」

 またしてもプイっとそっぽ向かれてしまった。
 
「すごいねぇ、S級の彼をここまで完膚なきまでに叩き潰すなんて」
「アルワン。そんな叩き潰すなんて人聞き悪いぞ」

 ただ俺はしつこく絡まれて話しかけられて怒っただけだぞ。
 そもそも別に決闘を申し込んだ訳でもなく、あの男が女性に乱暴しようとしていたからであって……ああ、ちくしょう。

「逃げるか」
「もう遅いよ、バーカ」

 さっきからバカバカとこのガキ。いやバカだよ、バカなんだけど。でも俺だってここまでやっちまうなんて思ってもみなかったんだよ!

 逃げ出そうにも周りを群衆に囲まれてどうにもできないし、なんか胴上げでもされそうな雰囲気だし。
 人によっては喜ぶべき状況なんだろうが、どうも居心地がわるい。

 そうこうしていると、人の群れがサッと割れてイカつい装備の集団がこちらに駆け寄ってきた。

「貴様、なにをしている!」

 先頭にいた兵士が怒鳴る。

「え……いや……そ、その……」

 立派な甲冑を身につけていたが、その体格は後ろの者たちと比べ随分と小柄らしい。しかし気迫は充分で、俺は思わず口ごもり頭をかく。

「ふざけた格好に、この騒ぎ。王都の秩序を乱す不届き者め。おい、この馬男を捕獲しろ」
「ちょっ!?」

 いや捕獲って。人を魔獣みたいに――じゃなくて、誤解だ。俺はなんにも悪いことなんてしてないぞ。
 だからいっせいに兵士たちが飛びかかって来た時も必死で抵抗して叫んだ。

「ちがっ、違う! 俺はただっ、こいつが女性に乱暴を……」
「貴様ぁぁぁッ、婦女暴行犯かァァァっ!!!」
「ちがうぅぅぅっ!」

 それ俺じゃなくてあの男だ、と弁解しようがもう聞いちゃくれない。
  さすがにこれだけの人数の兵士 (しかも続々と増員されてるし)に取り押さえられたら為す術もない。
 あっという間にギチギチに縛りあげられて、抱えあげられた。

「いだだだっ、離せぇぇぇ!!!」
「神妙にしろレイプ犯」
「だから違うってぇぇぇぇ!」

 下着泥棒の次は暴漢かよ。まったく冤罪ばかり。これだからこの町は嫌いだ。

 俺は自らの不遇を嘆きながら、縛られてるから抱えることも出来ない頭をたれた。


 

 


 
 
 



 
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