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そろそろ反撃のお時間です1
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湿った苔を踏むこと、どのくらい時間がたっただろう。
古く、今にも朽ち果てそうな門が俺たちを出迎える。ここが村の入り口らしい。
「おかしいな」
ヴィオレッタは訝しげにつぶやき、俺はうなずいた。
気配がまるきりしないのだ。
人だけじゃない、鳥や家畜などの生き物とおぼしきものがいる様子がない。シン、と不気味なほどに静まり返ったそこに嫌な予感がする。
「本当にここが村なのか?」
「ああ、そう聞いている」
持ってきた地図を睨みながら、彼女は眉間にしわをよせた。確かに見渡す限りはここの他に村や町がある感じでもない。だいたいそう広くない森なんだ。
オーガ族などの好戦的で警戒心の強い種族は近くに他の集落などがあれば、またたく間に争いが起こってどちらかが滅びてしまうだろう。
「ボク達に恐れをなして隠れたとか」
「ふん、馬鹿も休み休み言え」
「ひっどーい」
兄の戯言も軽くいなし、彼女は考え込むように。
「何者かに先を越された。いや、事態はもっと深刻なのかもしれない」
「どういうことだ?」
「それは――っ、危ない!!」
「!?」
突然、彼女が俺に飛びかかってきた。当然ながら勢いよく押し倒さるような形になって、俺は声もあげられず地面に叩きつけられた。
背負っていたスチルを反射的に守り体勢をかえて抱きかかえたせいか、背中に激しい痛みが走る。
「なっ、なにを」
「……」
「ヴィオレッタ!」
俺が叫んだのは、彼女の身体がまるで風にさらわれた落ち葉のように揺らいで地に伏せたからだ。
「アルワン、気をつけろ!」
攻撃された。まず俺が狙われて、それをいち早く気づいた彼女がかばって倒れたのだ。
どうやら弓らしい、深々と地面に刺さる矢。
「ぐっ」
「ヴィオレッタ、大丈夫か!?」
緩慢だが身体を起こそうともがく姿に、俺は駆け寄る。
「矢尻に、毒が」
「おい喋るな、どこをやられた。背中か?」
「う、腕をかすっただけだ。だがどうやら、神経毒が塗ってあるようだ。これは……」
「だから喋るなって!」
俺は慌てて彼女の装備を解こうとする。弓矢に毒、か。ふと追放されたパーティのことを思い出した。
弓を得意とするヤツがいた。そいつは確か毒薬を中心とした知識が豊富で。だが、秀でいたのは弓のスキル、しかも弓は矢を激しく消耗するから他のパーティから敬遠されたといういわくつきな人物。
もちろん当時の俺は、そんなことは皆でフォローとカバーすればいい。むしろその能力を生かすためのパーティだろうと力説して引き入れたもんだ。
確か彼はエルフと人間のハーフで。
「私に構うな、一時撤退だ」
「んなわけにいくか! いいから回復薬を飲め」
回復魔法には遠く及ばないが、もってきていた薬をとりだす。
薬草を調合したものでひどく苦いが、まあ効果の程は悪くないだろう。俺はそれを彼女が真っ青な顔で飲み下すのを見ながらも、辺りをうかがっていた。
「五人……いやその倍はいる」
気づけば姿は見えずとも、気配だけは感じられた。
しかもそれらはすべて敵意と殺気だ。中には今のよう武器で狙われているんだろう。
軽く息を整える。
「おいアルワン、こいつを頼む」
俺は呆然とたたずむ彼に声をかけた。
「えっ」
「ヴィオレッタを信用してやれ、そしてスチルも見ていてやってくれ」
「ちょっと、メイト」
「俺はやらなきゃならないことがあってな」
弓使いだけじゃない。この気配、すべて覚えがあった。
お世辞にも高名と言えないが、冒険者をなめてもらっちゃあ困る。一応、それなりに場数は踏んできたんだ。
かつての仲間である奴らの気配くらい、認識できなきゃやってられねえよな。
「おい、お前たち。いつまで息をひそめているつもりだ。出て来いよ」
その言葉を合図とするように、一人二人と周囲を取り囲む。
「ええっ!?」
アルワンは目を白黒させて慌てふためいているが、俺はなぜかひどく冷静だった。
「久しぶりだな、カツパ」
一番最後に出てくる、しかも俺の真正面に立たないなんてコイツらしい。そう、旧友にして幼なじみだった仲間。
俺をパーティから追放した男。
「……」
その懐かしい顔は強ばっていた。
「元気そうでなによりだ」
感慨などあっただろうか。でもそんな言葉を口にしたのだから、あったんだろう。
やつは微動だにしない。
「なんでこんなところにいるんだ、とか。王女はどうしたんだ、とか。そもそもここにオーガ族はいたのか?とか、聞きたいことは山のようにあるんだがな」
やつの唇が魔法詠唱に開いた瞬間、俺は動く。
「――俺、実は少しばかり才能開花したんだぜ」
そう言った瞬間、間合いを超えて数メートル先にいた弓使いの腹に蹴りを入れた。
そいつは声一つあげることなく吹っ飛ぶ。
悪いが手加減はできねえな。
とりあえず一人ずつ、効率重視で潰すしかない。
「死にたくないなら道を開けろ」
俺の言葉を皮切りに、元仲間達が一斉に飛びかかってきた。
――悲しいな。
独りごちたのも一瞬。まるで手に取るように、そしてスローモーションで彼らの攻撃を見切ることができた。
「手加減……しねえからな」
俺の言葉なんて、きっと奴らに届かない。
古く、今にも朽ち果てそうな門が俺たちを出迎える。ここが村の入り口らしい。
「おかしいな」
ヴィオレッタは訝しげにつぶやき、俺はうなずいた。
気配がまるきりしないのだ。
人だけじゃない、鳥や家畜などの生き物とおぼしきものがいる様子がない。シン、と不気味なほどに静まり返ったそこに嫌な予感がする。
「本当にここが村なのか?」
「ああ、そう聞いている」
持ってきた地図を睨みながら、彼女は眉間にしわをよせた。確かに見渡す限りはここの他に村や町がある感じでもない。だいたいそう広くない森なんだ。
オーガ族などの好戦的で警戒心の強い種族は近くに他の集落などがあれば、またたく間に争いが起こってどちらかが滅びてしまうだろう。
「ボク達に恐れをなして隠れたとか」
「ふん、馬鹿も休み休み言え」
「ひっどーい」
兄の戯言も軽くいなし、彼女は考え込むように。
「何者かに先を越された。いや、事態はもっと深刻なのかもしれない」
「どういうことだ?」
「それは――っ、危ない!!」
「!?」
突然、彼女が俺に飛びかかってきた。当然ながら勢いよく押し倒さるような形になって、俺は声もあげられず地面に叩きつけられた。
背負っていたスチルを反射的に守り体勢をかえて抱きかかえたせいか、背中に激しい痛みが走る。
「なっ、なにを」
「……」
「ヴィオレッタ!」
俺が叫んだのは、彼女の身体がまるで風にさらわれた落ち葉のように揺らいで地に伏せたからだ。
「アルワン、気をつけろ!」
攻撃された。まず俺が狙われて、それをいち早く気づいた彼女がかばって倒れたのだ。
どうやら弓らしい、深々と地面に刺さる矢。
「ぐっ」
「ヴィオレッタ、大丈夫か!?」
緩慢だが身体を起こそうともがく姿に、俺は駆け寄る。
「矢尻に、毒が」
「おい喋るな、どこをやられた。背中か?」
「う、腕をかすっただけだ。だがどうやら、神経毒が塗ってあるようだ。これは……」
「だから喋るなって!」
俺は慌てて彼女の装備を解こうとする。弓矢に毒、か。ふと追放されたパーティのことを思い出した。
弓を得意とするヤツがいた。そいつは確か毒薬を中心とした知識が豊富で。だが、秀でいたのは弓のスキル、しかも弓は矢を激しく消耗するから他のパーティから敬遠されたといういわくつきな人物。
もちろん当時の俺は、そんなことは皆でフォローとカバーすればいい。むしろその能力を生かすためのパーティだろうと力説して引き入れたもんだ。
確か彼はエルフと人間のハーフで。
「私に構うな、一時撤退だ」
「んなわけにいくか! いいから回復薬を飲め」
回復魔法には遠く及ばないが、もってきていた薬をとりだす。
薬草を調合したものでひどく苦いが、まあ効果の程は悪くないだろう。俺はそれを彼女が真っ青な顔で飲み下すのを見ながらも、辺りをうかがっていた。
「五人……いやその倍はいる」
気づけば姿は見えずとも、気配だけは感じられた。
しかもそれらはすべて敵意と殺気だ。中には今のよう武器で狙われているんだろう。
軽く息を整える。
「おいアルワン、こいつを頼む」
俺は呆然とたたずむ彼に声をかけた。
「えっ」
「ヴィオレッタを信用してやれ、そしてスチルも見ていてやってくれ」
「ちょっと、メイト」
「俺はやらなきゃならないことがあってな」
弓使いだけじゃない。この気配、すべて覚えがあった。
お世辞にも高名と言えないが、冒険者をなめてもらっちゃあ困る。一応、それなりに場数は踏んできたんだ。
かつての仲間である奴らの気配くらい、認識できなきゃやってられねえよな。
「おい、お前たち。いつまで息をひそめているつもりだ。出て来いよ」
その言葉を合図とするように、一人二人と周囲を取り囲む。
「ええっ!?」
アルワンは目を白黒させて慌てふためいているが、俺はなぜかひどく冷静だった。
「久しぶりだな、カツパ」
一番最後に出てくる、しかも俺の真正面に立たないなんてコイツらしい。そう、旧友にして幼なじみだった仲間。
俺をパーティから追放した男。
「……」
その懐かしい顔は強ばっていた。
「元気そうでなによりだ」
感慨などあっただろうか。でもそんな言葉を口にしたのだから、あったんだろう。
やつは微動だにしない。
「なんでこんなところにいるんだ、とか。王女はどうしたんだ、とか。そもそもここにオーガ族はいたのか?とか、聞きたいことは山のようにあるんだがな」
やつの唇が魔法詠唱に開いた瞬間、俺は動く。
「――俺、実は少しばかり才能開花したんだぜ」
そう言った瞬間、間合いを超えて数メートル先にいた弓使いの腹に蹴りを入れた。
そいつは声一つあげることなく吹っ飛ぶ。
悪いが手加減はできねえな。
とりあえず一人ずつ、効率重視で潰すしかない。
「死にたくないなら道を開けろ」
俺の言葉を皮切りに、元仲間達が一斉に飛びかかってきた。
――悲しいな。
独りごちたのも一瞬。まるで手に取るように、そしてスローモーションで彼らの攻撃を見切ることができた。
「手加減……しねえからな」
俺の言葉なんて、きっと奴らに届かない。
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