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経済不安でブラッククエストに飛びつきました1
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――それから三日ほど。
「やべぇ、ジリ貧だ」
俺は深々とため息をつきながら独りごちる。
いやほんと、大袈裟でなくガチでやばいんだって。
「とにかく仕事するか」
生きていくには金がかかる、つまりそういうことだ。
「仕事!? するよっ、あたしなんでもする!」
ベルは嬉しそうに頬張った骨付き肉を頬張りながらうなずく。
「お、おう……」
俺は正直、この娘の食欲を侮っていた。
多分一般的な若い女性より多少? 食欲旺盛なだけ。筋力もある程度あるし、多少は仕方ないとは思ってたさ。
昨日まではな。
「食費だけですでに火の車だな」
「スチル、それだけは言うな」
真実を的確についてくるガキに睨みを効かせるも。
「んで、仕事みつけてきたのかよ」
とジト目を隠さない。
「そりゃあな」
渋々、聞いてきた仕事を報告することにした。すると案の定。
「はあ? あんたそれどこのギルド受付に行ってきたんだよ」
と思い切り嫌そうな顔で言い放たれた。まあ分かってたよ、そんでもって俺だって同じこと思ったけどさ。
「でもそんなこと言っても仕方ないだろ。俺たちはまだ新米冒険者パーティなんだぞ」
そう、実績がないんだ。
ある意味で実力主義なこの界隈は、本当に積んできたモノや経験が評価されるわけで。
最近よその町からやってきました、しかもほぼ冒険者としての経歴がないもんで紹介されるのは素人レベルのものしかない。
当然、対価だって子供の小遣いくらいだし数こなさないと相当苦しい。
「でもあんたはこの町でやってたんだろ」
「前のパーティでな」
それも俺が立ち上げたっていう記録は何故か抹消されていたらしい。というかそもそも。
「俺がいたあのパーティは存在ごと消されてた」
代表者が変わっていたとか、そういう事じゃないらしい。そもそも元仲間たちのどの名前を照会しても、出された返事はひとつ。
『そのような名前はこの町の自治団体リストにはございません』
って。そんなわけないだろうと少し食い下がったが、困った顔をされるだけだった。
「ねえねえ、ギルドってなに?」
食事が終わったらしいベルが口元を無邪気にぬぐいながら訊ねてくる。
「あ、ベルは冒険者じゃなかったもんな。ええっと。簡単にいうとそもそも冒険者ってのは、言わば何でも屋さんなんだ」
イメージこそ勇ましいものかもしれないが、その内情はかなり厳しい世界。
本来なら全ての冒険者がフリーランスで自分達から仕事をとってきてからの、報酬交渉やアフターフォローまですべてやらなきゃならない。
当然、トラブルも頻発するわな。だって依頼相手もこっちも曲者揃いだ。時には、喧嘩や殺し合いに発展したっておかしくない。
「そこで登場したのが自治団体だ」
これは冒険者界隈だけじゃなく、商人や武器防具を創る鍛冶屋など工業系のものもあるんだけどな。
「同職業を取りまとめる組織ってやつだ」
技術や価格、あとは仕事の品質などの安定や独占を目的としたもの。
まあ、荒くれ者たちの首根っこ掴まえて管理する存在がいないとダメだって話。
「ふうん。それってどこにあるの? 仕事はそこにもらいにいくの?」
「うん、いい質問だな」
俺はなるべくわかりやすいように説明した。
多くが町ごとにそれぞれ支部を持っている。とはいっても、別に情報を事細かに共有しているわけじゃなさそうだ。
あくまでそこで登録している奴の名前や実績をリスト保管しているに過ぎない。まあ、たまにあまりにも酷い問題を起こすトラブルメーカーだと、ブラックリストとして近隣に情報回されるってウワサだが。
「仕事するにはまず、その町のギルド支部に出向くわけだ」
あ、言っておくが別に立派な建物があったりするわけじゃないぞ。
ほとんどが酒場と併設された形だ。
「客は酒を頼むようにカウンターに座って、あとは店員の格好をした受付人に仕事を受けることを伝える。そして登録されている実績を元に斡旋してもらえる仕組みだ」
「へー、便利なもんだねえ!」
しきりと関心しながら何度もうなずく彼女。
対してスチルは鼻の頭にシワよせて一言。
「でもかなりピンハネされてるだろ、ギルドの仕事なんて」
「ピンハネなんていうなよ」
確かに直接客から依頼もらって仕事した方が、高い報酬をもらえるかもしれない。だがそれは中間業者としては当然の儲けだろうし、そもそも完全フリーで仕事とってこられるのは一部のランク上級者くらいだ。
安全と安定のために必要な機関ってことだな。
「だからってこれは酷すぎる」
俺がとってきた仕事に文句をつける。
「小型魔獣を百匹だと? しかもこっちの依頼にいたっては毒草採取って。子どものお使いかよ」
「だから言ったろ、冒険者は何でも屋さんなんだって」
夢見る前に現実を見ようぜ。と不貞腐れたスチルの肩を叩く。
「でも面白そうじゃん。あたしその仕事やりたいな」
「ゲッ、本気で言ってんのかよ」
ベルがわくわくした様子で頬を紅潮させるのを、彼が眉をひそめて見る。
「メイトがとってきてくれたお仕事、全部やってみよ! 大丈夫、三人で力合わせて頑張ればできるよ」
「おいおいなんで僕がそんなこと……」
「スチル君もベルおねえちゃんと頑張ろうね!」
「だからその薄ら寒い、それでいて暑苦しいキャラをやめろ。汗臭いゴリラはそのオッサンだけで充分なんだけど」
誰がゴリラで汗臭いオッサンだ。まだ若者だっつーの。
でも前向きに楽しそうなベルには心の底から安心した。
「そうだな。実績なんてこれからつくっていけばいい」
俺は大きくうなずいて奴らの肩をポンポンと叩く。
「我らがパーティの初仕事、やるか」
「うん!!!」
「はぁ……仕方ないな。背に腹はかえられない」
ノリノリなベルと、苦虫を噛み潰して飲み下したような表情のスチルと。
俺はというと、久しぶりの感覚に胸を震わせていた。
数年前、最初にこの町に来た時。そして貧相だが装備を整え、これから頑張ろうと不安と希望を抱いていた過去を思い出したんだ。
カツパを助けるためにも、タロ・メージを探し出さなきゃならない。
そっちも少し探ったがまるで情報が得られなかった。
だからそれなりに落胆していたが凹んでいるヒマなんてないと、こいつらのおかげで気づいたんだ。
「ベル、スチル、改めてこれからよろしくな」
二人の顔を覗き込んで言う。
やれることからしていく、それが最良の道と信じて。
「やべぇ、ジリ貧だ」
俺は深々とため息をつきながら独りごちる。
いやほんと、大袈裟でなくガチでやばいんだって。
「とにかく仕事するか」
生きていくには金がかかる、つまりそういうことだ。
「仕事!? するよっ、あたしなんでもする!」
ベルは嬉しそうに頬張った骨付き肉を頬張りながらうなずく。
「お、おう……」
俺は正直、この娘の食欲を侮っていた。
多分一般的な若い女性より多少? 食欲旺盛なだけ。筋力もある程度あるし、多少は仕方ないとは思ってたさ。
昨日まではな。
「食費だけですでに火の車だな」
「スチル、それだけは言うな」
真実を的確についてくるガキに睨みを効かせるも。
「んで、仕事みつけてきたのかよ」
とジト目を隠さない。
「そりゃあな」
渋々、聞いてきた仕事を報告することにした。すると案の定。
「はあ? あんたそれどこのギルド受付に行ってきたんだよ」
と思い切り嫌そうな顔で言い放たれた。まあ分かってたよ、そんでもって俺だって同じこと思ったけどさ。
「でもそんなこと言っても仕方ないだろ。俺たちはまだ新米冒険者パーティなんだぞ」
そう、実績がないんだ。
ある意味で実力主義なこの界隈は、本当に積んできたモノや経験が評価されるわけで。
最近よその町からやってきました、しかもほぼ冒険者としての経歴がないもんで紹介されるのは素人レベルのものしかない。
当然、対価だって子供の小遣いくらいだし数こなさないと相当苦しい。
「でもあんたはこの町でやってたんだろ」
「前のパーティでな」
それも俺が立ち上げたっていう記録は何故か抹消されていたらしい。というかそもそも。
「俺がいたあのパーティは存在ごと消されてた」
代表者が変わっていたとか、そういう事じゃないらしい。そもそも元仲間たちのどの名前を照会しても、出された返事はひとつ。
『そのような名前はこの町の自治団体リストにはございません』
って。そんなわけないだろうと少し食い下がったが、困った顔をされるだけだった。
「ねえねえ、ギルドってなに?」
食事が終わったらしいベルが口元を無邪気にぬぐいながら訊ねてくる。
「あ、ベルは冒険者じゃなかったもんな。ええっと。簡単にいうとそもそも冒険者ってのは、言わば何でも屋さんなんだ」
イメージこそ勇ましいものかもしれないが、その内情はかなり厳しい世界。
本来なら全ての冒険者がフリーランスで自分達から仕事をとってきてからの、報酬交渉やアフターフォローまですべてやらなきゃならない。
当然、トラブルも頻発するわな。だって依頼相手もこっちも曲者揃いだ。時には、喧嘩や殺し合いに発展したっておかしくない。
「そこで登場したのが自治団体だ」
これは冒険者界隈だけじゃなく、商人や武器防具を創る鍛冶屋など工業系のものもあるんだけどな。
「同職業を取りまとめる組織ってやつだ」
技術や価格、あとは仕事の品質などの安定や独占を目的としたもの。
まあ、荒くれ者たちの首根っこ掴まえて管理する存在がいないとダメだって話。
「ふうん。それってどこにあるの? 仕事はそこにもらいにいくの?」
「うん、いい質問だな」
俺はなるべくわかりやすいように説明した。
多くが町ごとにそれぞれ支部を持っている。とはいっても、別に情報を事細かに共有しているわけじゃなさそうだ。
あくまでそこで登録している奴の名前や実績をリスト保管しているに過ぎない。まあ、たまにあまりにも酷い問題を起こすトラブルメーカーだと、ブラックリストとして近隣に情報回されるってウワサだが。
「仕事するにはまず、その町のギルド支部に出向くわけだ」
あ、言っておくが別に立派な建物があったりするわけじゃないぞ。
ほとんどが酒場と併設された形だ。
「客は酒を頼むようにカウンターに座って、あとは店員の格好をした受付人に仕事を受けることを伝える。そして登録されている実績を元に斡旋してもらえる仕組みだ」
「へー、便利なもんだねえ!」
しきりと関心しながら何度もうなずく彼女。
対してスチルは鼻の頭にシワよせて一言。
「でもかなりピンハネされてるだろ、ギルドの仕事なんて」
「ピンハネなんていうなよ」
確かに直接客から依頼もらって仕事した方が、高い報酬をもらえるかもしれない。だがそれは中間業者としては当然の儲けだろうし、そもそも完全フリーで仕事とってこられるのは一部のランク上級者くらいだ。
安全と安定のために必要な機関ってことだな。
「だからってこれは酷すぎる」
俺がとってきた仕事に文句をつける。
「小型魔獣を百匹だと? しかもこっちの依頼にいたっては毒草採取って。子どものお使いかよ」
「だから言ったろ、冒険者は何でも屋さんなんだって」
夢見る前に現実を見ようぜ。と不貞腐れたスチルの肩を叩く。
「でも面白そうじゃん。あたしその仕事やりたいな」
「ゲッ、本気で言ってんのかよ」
ベルがわくわくした様子で頬を紅潮させるのを、彼が眉をひそめて見る。
「メイトがとってきてくれたお仕事、全部やってみよ! 大丈夫、三人で力合わせて頑張ればできるよ」
「おいおいなんで僕がそんなこと……」
「スチル君もベルおねえちゃんと頑張ろうね!」
「だからその薄ら寒い、それでいて暑苦しいキャラをやめろ。汗臭いゴリラはそのオッサンだけで充分なんだけど」
誰がゴリラで汗臭いオッサンだ。まだ若者だっつーの。
でも前向きに楽しそうなベルには心の底から安心した。
「そうだな。実績なんてこれからつくっていけばいい」
俺は大きくうなずいて奴らの肩をポンポンと叩く。
「我らがパーティの初仕事、やるか」
「うん!!!」
「はぁ……仕方ないな。背に腹はかえられない」
ノリノリなベルと、苦虫を噛み潰して飲み下したような表情のスチルと。
俺はというと、久しぶりの感覚に胸を震わせていた。
数年前、最初にこの町に来た時。そして貧相だが装備を整え、これから頑張ろうと不安と希望を抱いていた過去を思い出したんだ。
カツパを助けるためにも、タロ・メージを探し出さなきゃならない。
そっちも少し探ったがまるで情報が得られなかった。
だからそれなりに落胆していたが凹んでいるヒマなんてないと、こいつらのおかげで気づいたんだ。
「ベル、スチル、改めてこれからよろしくな」
二人の顔を覗き込んで言う。
やれることからしていく、それが最良の道と信じて。
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