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7.お猪口ほどの
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―――急に世界が色褪せて見える、なんて事があるらしい。
無論、僕の眼球がどうこうなってしまった訳ではない。
単なる精神的な。いやもっと平たくいえばただの感傷だ。失恋ですらない。
こんなの失恋なんて誰が認めるかよ。
辛い辛いと嘆いていても皆久しく朝は来るし、僕には仕事がある。
……ま。映像とか撮られて脅されたり、ヤバい薬とか盛られるよりは良かったのかな。
そう考えれば、村瀬 恭介という男はそこまでタチの悪い奴じゃあ無かったと言うことだ。
しかし、セフレって言葉に怒ったのは『お前はそれ以下』だってことか?
するとなにか。性奴隷的な感じか? それこそ屈辱だな。対等ですらなかったのだから。
しかもそんなクズ男に僕は惚れて……惚れ……いやいやいやいや。
「絶対違う」
「えっ、何が?」
「!」
すぐ隣から声がして、声にならない悲鳴を上げた。
「なんか違う箇所あった?」
「せ、先輩」
茶九先輩が不思議そうな顔でこちらを見上げている。
今日の彼女はなかなか顔色良さそうだ。雰囲気も表情もいつも通り。いやそれ以上に明るいかも。
「この前はありがとね。お陰で思い切る事が出来たわ」
「決めたんですね」
安らかさすら感じる表情から、こちらまで安堵の気持ちが湧いてくる。
「うん。あたし……会社辞めることにしたの」
その顔には自信と希望が宿っていた。
茶九先輩からの相談は、とても重くて何故僕なんかに話したんだろうと心底不思議になる程のプライベートでデリケートな事柄だった。
『長年付き合っている恋人がいて、この度海外に行くことになった。付いてきてくれって……どうしよう?』
と一言で言えばこんな感じ。
重ねて言うが、僕なんかに訊ねても有力な意見も知恵も出てこないんだけどなぁと正直思った。でも。
『こんな話、瀬上君にしか出来ないよ』
と返されて何も言えなくなる。
さらに驚くことを打ち明けられた。
『あたしの恋人ね……女の子なんだ』
同性愛者というわけか。そりゃあ誰彼構わず相談出来事じゃあない。
親兄弟にも相談しにくいな。
でもなんで僕に……。
『え。瀬上君、彼氏いるよね? 』
……この瞬間、色々とキャパオーバーになった僕の心中を察して欲しい。
男がいるのがバレた。確かに割と堂々と連れ立ってホテル街歩いたりしてたしな。そっち系の人達御用達のホテルの前歩いてるだけで一目瞭然だろう。
むしろ今までバレ無かったのが不思議だったか。
都会だから人が多いしとタカをくくっていた。
でも、その後とりあえずキャパオーバーなりに真摯に相談にのった。
アドバイスとかそういうのは分からなかったけど、まずは彼女を話を聞いて共感出来るところは共感してきたつもりだ。
だいたい相談っていうのは結局、背中を押してほしいとか単に愚痴を聞いて欲しいとか。
要するに聞くことが大事なんだろうとおもっている。
それは女だからとかではなく、誰だって共通だ。
何を求めているか。なんてモノに性差はない。
「瀬上君、色々話聞いてくれてありがとね?」
「あ、いえ。お役に立てたなら嬉しいです」
僕は本当に話を『聞いただけ』なんだけど。彼女が喜んでくれるなら良かった。
しかも話の中で、本当に恋人の事を大切にしているんだな。と深く感じる部分が沢山あった。
僕が言うのもなんだけど、素敵な関係ってこういう事を言うんだろうな。
そりゃもう眩しすぎるくらい。
……片やセフレどころか娼婦扱いの男とはえらい違いだ。
愛して愛される関係。恋って難しいな。
「瀬上君の彼氏さん、大学生なのね」
「え?」
「うちの妹がこの前、近くの大学の子達との飲み会に行ってね……あたしが瀬上君に相談持ちかけた日よ」
確か先輩の妹さんって短大生だったよな。
違う大学の男友達と合コンというか飲み会があったらしい。
「彼氏さん、嫌々来たのね。凄いモテてたのに、これ以上ないってほど嫌そうで不機嫌な顔してたって」
ま、まぁ。恭介は確かに顔やスタイルは、良いけどさ。
それで不機嫌なんて、全く罰当たりな男だ。
っていうかアイツ大学生だったのかよ。
つまり大学生のガキに僕は良いように弄ばれてたってわけか。
……違うな。弄んでたのはお互い様だ。被害者ヅラするのは違う。
ともあれ、衝撃の事実だ。
「……で、あの後大丈夫だった?」
「え、何がですか?」
色々と処理不良起こしてる頭に、さらに意味不明なワードが。
先輩がふっ、と声を落として僅かに周りを伺いながら言った。
「酔っ払ったあたしといる所、彼氏さんに見られてたみたいだから」
「なっ!?」
「すごく怖い顔してたって、妹が言ってたよ」
確かに、少しばかり酔った先輩に肩を貸した場面もあったかもしれない。
でもそんなことで、嫉妬? するかなぁ。
……所詮セフレ以下だし。
自虐して胸がズキズキ痛むなんて、むしろ笑えてくる。顔には出さないけど僕はもう散々だな、色々と。
分かってる。どうせ気まぐれか単なる執着というか、きっとそこに僕の期待する感情は存在しない。
「ほんと。なんか人殺しそうな顔だって……瀬上君、もう少し安全な人と付き合いなよね!」
「あ、安全な……ね」
僕はため息を殺しつつ、曖昧に微笑んだ。
無論、僕の眼球がどうこうなってしまった訳ではない。
単なる精神的な。いやもっと平たくいえばただの感傷だ。失恋ですらない。
こんなの失恋なんて誰が認めるかよ。
辛い辛いと嘆いていても皆久しく朝は来るし、僕には仕事がある。
……ま。映像とか撮られて脅されたり、ヤバい薬とか盛られるよりは良かったのかな。
そう考えれば、村瀬 恭介という男はそこまでタチの悪い奴じゃあ無かったと言うことだ。
しかし、セフレって言葉に怒ったのは『お前はそれ以下』だってことか?
するとなにか。性奴隷的な感じか? それこそ屈辱だな。対等ですらなかったのだから。
しかもそんなクズ男に僕は惚れて……惚れ……いやいやいやいや。
「絶対違う」
「えっ、何が?」
「!」
すぐ隣から声がして、声にならない悲鳴を上げた。
「なんか違う箇所あった?」
「せ、先輩」
茶九先輩が不思議そうな顔でこちらを見上げている。
今日の彼女はなかなか顔色良さそうだ。雰囲気も表情もいつも通り。いやそれ以上に明るいかも。
「この前はありがとね。お陰で思い切る事が出来たわ」
「決めたんですね」
安らかさすら感じる表情から、こちらまで安堵の気持ちが湧いてくる。
「うん。あたし……会社辞めることにしたの」
その顔には自信と希望が宿っていた。
茶九先輩からの相談は、とても重くて何故僕なんかに話したんだろうと心底不思議になる程のプライベートでデリケートな事柄だった。
『長年付き合っている恋人がいて、この度海外に行くことになった。付いてきてくれって……どうしよう?』
と一言で言えばこんな感じ。
重ねて言うが、僕なんかに訊ねても有力な意見も知恵も出てこないんだけどなぁと正直思った。でも。
『こんな話、瀬上君にしか出来ないよ』
と返されて何も言えなくなる。
さらに驚くことを打ち明けられた。
『あたしの恋人ね……女の子なんだ』
同性愛者というわけか。そりゃあ誰彼構わず相談出来事じゃあない。
親兄弟にも相談しにくいな。
でもなんで僕に……。
『え。瀬上君、彼氏いるよね? 』
……この瞬間、色々とキャパオーバーになった僕の心中を察して欲しい。
男がいるのがバレた。確かに割と堂々と連れ立ってホテル街歩いたりしてたしな。そっち系の人達御用達のホテルの前歩いてるだけで一目瞭然だろう。
むしろ今までバレ無かったのが不思議だったか。
都会だから人が多いしとタカをくくっていた。
でも、その後とりあえずキャパオーバーなりに真摯に相談にのった。
アドバイスとかそういうのは分からなかったけど、まずは彼女を話を聞いて共感出来るところは共感してきたつもりだ。
だいたい相談っていうのは結局、背中を押してほしいとか単に愚痴を聞いて欲しいとか。
要するに聞くことが大事なんだろうとおもっている。
それは女だからとかではなく、誰だって共通だ。
何を求めているか。なんてモノに性差はない。
「瀬上君、色々話聞いてくれてありがとね?」
「あ、いえ。お役に立てたなら嬉しいです」
僕は本当に話を『聞いただけ』なんだけど。彼女が喜んでくれるなら良かった。
しかも話の中で、本当に恋人の事を大切にしているんだな。と深く感じる部分が沢山あった。
僕が言うのもなんだけど、素敵な関係ってこういう事を言うんだろうな。
そりゃもう眩しすぎるくらい。
……片やセフレどころか娼婦扱いの男とはえらい違いだ。
愛して愛される関係。恋って難しいな。
「瀬上君の彼氏さん、大学生なのね」
「え?」
「うちの妹がこの前、近くの大学の子達との飲み会に行ってね……あたしが瀬上君に相談持ちかけた日よ」
確か先輩の妹さんって短大生だったよな。
違う大学の男友達と合コンというか飲み会があったらしい。
「彼氏さん、嫌々来たのね。凄いモテてたのに、これ以上ないってほど嫌そうで不機嫌な顔してたって」
ま、まぁ。恭介は確かに顔やスタイルは、良いけどさ。
それで不機嫌なんて、全く罰当たりな男だ。
っていうかアイツ大学生だったのかよ。
つまり大学生のガキに僕は良いように弄ばれてたってわけか。
……違うな。弄んでたのはお互い様だ。被害者ヅラするのは違う。
ともあれ、衝撃の事実だ。
「……で、あの後大丈夫だった?」
「え、何がですか?」
色々と処理不良起こしてる頭に、さらに意味不明なワードが。
先輩がふっ、と声を落として僅かに周りを伺いながら言った。
「酔っ払ったあたしといる所、彼氏さんに見られてたみたいだから」
「なっ!?」
「すごく怖い顔してたって、妹が言ってたよ」
確かに、少しばかり酔った先輩に肩を貸した場面もあったかもしれない。
でもそんなことで、嫉妬? するかなぁ。
……所詮セフレ以下だし。
自虐して胸がズキズキ痛むなんて、むしろ笑えてくる。顔には出さないけど僕はもう散々だな、色々と。
分かってる。どうせ気まぐれか単なる執着というか、きっとそこに僕の期待する感情は存在しない。
「ほんと。なんか人殺しそうな顔だって……瀬上君、もう少し安全な人と付き合いなよね!」
「あ、安全な……ね」
僕はため息を殺しつつ、曖昧に微笑んだ。
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