神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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スキル

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「……ふぅ、今日も綺麗になりましたね」

 東の森でシロトたちがブラッディオーガに遭遇するよりもほんの少しだけ前のことだ。シロトと人形たちが暮らす屋敷、そのシロトの自室でリーシャがそう呟いた。

 メイド服を着込んでいることから主に屋敷の管理を任されているリーシャだが、当然主人の部屋の掃除も任されている。

 本当なら外に向かうシロトに付き従いたかったのだが、抜け駆けされたことをミネットに言われてしまっては譲るしかない。
 でも、とリーシャはシロトがいつも寝起きしているベッドに目を向けた。

「……誰もいないはず」

 シロトとミネット、シアは居ないしサリアも部屋から出てこないはずだ。一応辺りをキョロキョロと見回し、万全を確認した上でリーシャはベッドに飛んだ。
 ボフッと包まれるような柔らかさを感じ、次にリーシャを包んだのはシロトの匂いだった。

「……すぅ……はぁああああ!!」

 思いっきり吸い込み、そして恍惚とした表情で息を吐き出した。先程までのリーシャの姿はそこに在らず、最早変態しかいなかった。

「マスタぁ……マスターマスターマスターマスタあああああああああ!!」

 ベッドの上で縦横無尽に動き回る変態……リーシャは狂ったようにシロトに向かって叫ぶ。聞こえはしない、それでもリーシャには良かった。ただただ彼の匂いに包まれていればそれだけで幸せだから。

「はぁはぁ……あ~、ダメ……ダメになっちゃいそうですぅ」

 こうやって日々暴走できるのも管理を任されているからこそ、シアよりも戦闘能力が高いとされるリーシャもこうなってはただの頭のおかしい従者でしかない。

 シーツを力強く掴み、匂いだけでは我慢できなかったのかパクっと口の中に入れた。そして舌でペロペロする。

「はむはむ……ふはぁ!」

 もうやばい、シロトが見たら思わずドン引きするような変態だ。
 リーシャは辛抱たまらず、胸と下半身に手を伸ばそうとしたその時……リーシャは突如として冷静になった。

「……あ」
「……………」

 扉から覗くようにサリアが顔を見せていたからだ。うわ何してんのこいつ、何も言ってないのにそう思わせる視線にリーシャはすぐに立ち上がった。

「さて、シーツを変えて洗濯をして……忙しいですけどこれもマスターの為です。頑張りますよ、おー!」

 シロトと自分の匂いが混ざったシーツを持って部屋を出る直前、サリアがボソッと呟いた。

「気持ちは分かるから何も言わないであげるわ」
「……ありがとうございます」

 サリアのそんな言葉にリーシャは心から感謝するのだった。まあサリアも似たようなことをしたことがあるからリーシャには強くは言えない、ただそれだけのことである。

「……………」

 シーツを持って去って行ったリーシャを見送ったサリアは、先程のリーシャのようにキョロキョロと辺りを見回して室内に入った。

「まずは深呼吸でしょ」

 吸ってー、吐いてー、それを繰り返したサリアは満足したように笑みを浮かべた。

「至福の瞬間だわぁ!」

 端正な顔立ちは見る影もなく、ただ欲望に忠実な変態だった。
 この屋敷において皆似たり寄ったりではあるが特にリーシャとサリアは頭一つ抜けてこんな感じである。

 ミネットもこんな風に思う存分欲望を解放させたいとは考えているが、いざ行動しようとすると恥ずかしがって二の足を踏む彼女はまだ可愛い方だった。

 シアに関しては素直に甘えるのでそもそもこんなことはしない。流石末っ子、このまま姉たちに似ないことを祈るばかりである。




「……なんだ? なんか寒気が」
「風邪ですか?」

 シャズにそう言われたがたぶんそんな感じではない。おそらく誰かが噂でもしているのだろう。

「えっと、今日は本当にありがとうございました! それで……その……お金に関しては必ず支払います! なので今は」

 困った様子のシャズに首を傾げていたが、そんなことかと俺は笑った。

「金は必要ないさ。というよりももらえないだろう」
「え?」
「俺たちは散歩をしただけだ。だから金なんて貰えないよ」

 な? そう背後に控える二人に問えば頷いてくれた。
 それでも納得してくれなさそうな様子だったので、俺はこう伝えることにした。

「それじゃあまた何かあった時にシャズの鑑定スキルをアテにさせてくれ」
「……はは、分かりました! いつでもお呼びください!」
「おう」

 そんなやり取りを終えてシャズは薬草を持って調合屋に走っていった。その後ろ姿は見るからに嬉しそうで、俺はシャズの母が無事に回復するのを祈るのだった。

「さてと、帰るか」
「はい」
「うん」

 シアのそれとないギルドへの報告も済ませたしもうやることはない。夕暮れだしどこにも寄らずに帰ることにしよう。
 ただ、まだ本日のイベントは終わっていなかったらしい。

「シアさん!!」
「うん?」

 俺たちの元は駆けてくる五人組がいた。装いを見るにパーティか、付けられている腕輪を見るにどうやらAランク冒険者みたいだ。
 戦闘に立つイケメンはシアを呼んだけど、生憎とシアのめんどくさそうな顔を見てある程度の想像は付いた。

「待ってくれシアさん! 昼間の戦いは……って誰だいその人たちは?」

 昼間の戦いという言葉は気になったが、彼らの視線が俺とミネットに向いた。しかしシアが俺を背にして前に立った。

「そう言えばなんでも一つ命令できるんだったね。私に無様に敗北したんだ……まさか、覚えてないとは言わないよね?」

 シアから冷たい空気が醸し出される。俺は特に何も感じないが、シアの正面に立つ彼らはダイレクトに影響を受けているらしい。

「……っ!」

 しかし、流石は歴戦のAランクというべきか。シアの殺気を正面から受けても腰を抜かしたりする者はいなかった。

「私は君たちのパーティには入らない。これからもソロで動く……まあ、今日に関しては四人パーティ? みたいなものだったけど」
「そんな感じだな言われてみれば。ていうかシャズがいた時に言ってやれよ。きっと喜んだぞ?」
「……あ、そっか」

 今度伝える、そう小さくシアは呟いた。

「それでもダメだ! 俺は本当に君が心配なんだ! どうして分かってくれない!?」
「あなたのことを分かる必要がないから」
「……っ!」

 必死な形相の彼と違い、シアはいたって無表情だ。この温度差に少し彼が可哀想に思えるが、俺としてはシアの意思を尊重している。……まあ一番は、俺の知らない男と組むなっていう独占欲もあるのかもしれない。

「シア、帰るぞ?」
「分かった」

 俺の言葉に従うようにシアが隣に来た。彼らに背を向けて足を動かそうとした直前、一人の女の声が響き渡った。

「シュバルツの気持ちを無碍にして何様のつもり!? そんなパッとしないやつの傍を選ぶなんてアンタはその程度なのね!!」

 そんな声が俺の鼓膜を震わせた。
 パッとしないはともかく、シアと並んで戦うことは俺には出来ない。あながち間違ってもいない指摘に苦笑してしまう。ただ、ミネットから異質な空気を感じ取ってしまったと思った。

 ミネットを止めようとした時にはもう遅かった。ミネットは瞳を金色に輝かせ、能力の発動対象を既に彼らへ定めてしまった。

「な、なにこれ……!」
「……くそ、なんだこいつは!」

 ……もう止められないか、とはいえ別に死ぬわけではない。彼の淡い想いは消え失せるだろうけど。

「シアさんに対する興味、全て捨てなさい。マスターへの暴言は許せませんが、私は寛容です。少し頭を作り替えるだけで許してあげましょう」

 それは言霊のように彼らを包み込み、まるで意識が作り替えられるように魔法が発動した。
 光が収まった時、彼らはまるで俺たちに興味を示さず、そのまま歩いて行った。

「……思わずカッとなっちゃいました。ごめんなさいマスター」
「いや、よく我慢したと思うよ」

 少し前なら問答無用で壊してたと思うからな……少し昔のことを思い出してしまったが俺はミネットの頭を撫でた。

「相変わらず凶悪だよね。単純な力ではないからこそ怖い……でも、ミネットだからとても心強い」
「シアのいう通りだ。ほら帰るぞー」
「はい!」
「うん」

 まあすぐに忘れるだろうさ。人としての心はないのか、そう言われそうだけど。

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