神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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その後の夜

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 ブラッディオーガとの遭遇、その後のひと騒動と忙しかった一日だったが、風呂に入って飯を食えば疲れも取れるというものだ。今日はミネットとシアの二人と風呂に入り、いつも通り五人で夕飯を済ませて今は雑談に花を咲かせていた。

「なるほど、ブラッディオーガがですか」
「えぇ、帝国が一枚噛んでいるのは確かですが今は何も分かりません」

 話題は自然と今日森に行ったことに移る。突如出現したブラッディオーガについては詳しいことは当然分からない。シアが帰りにギルドに寄ってそれとなく話をしたので明日にでも何か調査がされるはずだ。

「シア、それとなく話しは聞いておいてくれ。直接関わるつもりはないけど、みんなに何かありそうなら考えないといけないからな」
「分かったよ」

 何事もなければ一番いいんだけどね。
 リーシャが淹れてくれた紅茶の匂いを楽しみ、そして喉に通すと甘さが口の中に広がる。俺の好みを完全に熟知しているこの味が本当に大好きだ。
 このままみんなと話をして一日が終わる、そのつもりだったのだが……次に放たれたリーシャの一言が少しだけ空気を変えた。

「そういえば帰ってくる前にミネットさんの魔力を感じましたけど、スキルを使ったんですか?」
「……あ~」

 傍に居たシアはともかく、事情を知らないリーシャとサリアは気になったのだろう。まあミネットがスキルを使ったのは俺が原因……というわけではないが、発端は俺に対する発言だったからな。さて、どう説明したものか。

 俺への言葉を聞いてミネットが怒ったから、そう素直に言えればいいんだけどサリはともかく、リーシャは俺のことになると沸点がかなり低くなる。俺の制止を聞かずにそのまま飛び出していってもおかしくはないからなぁ。

 まあしかし、いくら弱い出力とはいえ本格的な使用を控えてもらっているミネットに関することは伝えておいた方がいいだろう。

「マスター、リーシャさんを捕まえておいた方がいいのでは?」
「そうだな。おいで、リーシャ」
「それはどういう……でも、はい!!」

 俺とミネットのやり取りに首を傾げていたリーシャだが、俺が腕を広げて呼んだことで嬉しそうに胸元に飛び込んで来た。

「……羨ましいわね」
「まあ、サリアはある程度自制出来るからね」
「その言い方で何があったか把握したわ」

 胸元にスリスリと頬を擦りつけてくるリーシャの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めて俺の手の感触を感じている。頃合いか、リーシャの様子を見て頷いたミネットが口を開いた。

「マスターが馬鹿にされたんですよ。それでカッとなりました」
「……は?」

 蕩けたような笑顔を浮かべていたリーシャの様子が一変した。纏っていた柔らかな空気は鋭利なものに変化し、こうして体を抱きしめていなければ今すぐにでも飛び出していってしまいそうだった。

「それで彼らを少し書き換えました」

 書き換えた、本当に言葉通りだから末恐ろしいモノだ。
 ミネットの所持している固有能力は【掌握】というものだ。ミネットの意思によって発動範囲を決定し、その範囲内全てのモノに作用する。自分の好きなように人間でも魔物でも弄り回すことができ、そして生き物を含めその土地に刻まれた記憶も読み取ることが出来る。困っていたシャズの内心、オーガに残されていた記憶を読み取ったのもこのスキルだ。

 優れた回復スキルを持つサリア、戦闘に特化したリーシャとシアも確かに強力だけど、潜在的なスキルの強力さは間違いなくミネットが頭一つ……いや、二つ分は抜けているかもしれない。しかもスキル云々に関係なく、頭脳が飛び抜けているミネットだからこそその能力が更に凶悪に思えるというものだ。

 とはいえ、ミネットに関してはこの辺にしておこう。プルプルと体を震わせ、今にも家から飛び出してしまいそうなリーシャをまずは落ち着けないとな。

「リーシャ、もう済んだことだからいいんだ。それに、俺自身そこまで気にしちゃいない」
「……でも」

 納得できない、そんな様子だけど一々気にしても仕方ないだろう。俺はみんなを見回しながら口を開いた。

「リーシャ、サリア、ミネット、シア、四人とも凄く魅力的な子たちだ。何も知らない連中からはさぞ手元に置きたいほど欲しいと思わせるだろう。そしてそんな君たちの傍に俺という存在が居るのを気に入らない連中が現れるのも必然と言える」

 悔しいけど本当にその通りだと思っている。
 何度も言うが俺のスキルは彼女たちを生み出すことだけ、なまじ強力な力を持って彼女たちが生まれて来たからか分からないが、俺の身体的能力は昔から全くの向上を見せない。だからこそ、この物騒な世界を生きるには彼女たちが俺には必要なのだ。

「何度も言っているけど、俺は君たちが傍に居てくれればそれだけでいいんだ。俺が望むのはただそれだけ……だからこれからも、変わらず傍に居てくれると俺は嬉しいよ」

 腕の中に居るリーシャの髪に顔を埋める。サラサラとした気持ちの良い感触と花のような匂いに幸せな気持ちになれる。すると、ピトッと後ろからサリアが抱き着いて来た。突然のことでビックリしたけど、どうやらリーシャを除いた三人ともが傍に来ていたようだ。

「当然よ。私たちはずっとマスターと共にある。それは約束するわ」
「はい。というか、マスターの傍から離れたら私たちは生きていけないですもの。なら傍に居るしかないですね♪」
「うん。絶対に離れないよ。確かに気に入らないことはあると思うけど、マスターのことを思えばどうだっていいからね」

 サリアだけでなく、ミネットとシアもそれぞれ俺の腕を抱きしめるように引っ付いて来た。
 完全に動けなくなってしまったが、そこでリーシャがこう口を開いた。

「それで、結局誰に馬鹿にされたんですか?」
「……え、この状況で聞くの?」

 俺の言葉にリーシャは冗談ですと笑った。

「ムカつきます……それこそ腸が煮えくり返りそうですけど、マスターにそこまで言われて言う事を聞かないほど頑固なつもりはありません」

 そうして顔を上げたリーシャはチュっと小さくリップ音を立てて俺の唇にキスを落した。

「私たちも同じ気持ちです。ずっとマスターの傍に居られれば、それだけでいいんですよ。ですからマスター、どうかこれからも私たちを傍に置いてくださいね?」

 そのリーシャの問いかけに、俺が力強く頷くのは当然だった。
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