神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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王都の噂

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「なるほど、これがそうなのか」
「うん。報告のために戻ったけど、やっぱり予想外のものだったね」
「……そうですね。これは」

 翌日、シアはギルドマスターと数名の職員、シアが居るとはいえ護衛として数人の冒険者と共にブラッディオーガと交戦した場所へと来ていた。一日経ったが死体は残っており、禍々しいオーラも僅かだが漂っていた。

 知っての通りブラッディオーガを仕留めたのはシアだが、一人で危険度Sランクを討伐したと知られては面倒なため、死体を目撃したとギルドに伝えこうして調査隊が派遣されたというわけだ。

 現状Sランクを討伐できるのはおそらく、王都に居る【剣聖】や【弓姫】、【聖女】と言った有名な人物たちが所属するパーティくらいだろう。ただ少しだけ嫌な噂もあり、実力は申し分ないのだが自らの立場を鼻にかけるクズという噂もある。中でも弓姫と聖女は共に過ごしていた幼馴染をこっぴどく振って剣聖に鞍替えした、なんて話も一般市民の中では本当か嘘か分からない噂として囁かれていた。

 さて、一旦彼らに関する話は置いておくとしよう。
 今回のこのことは謎が残るものの、スターリジアのギルドとしては詳しく調査しないわけにはいかない。

「面倒だが調べる必要はあるだろう。どうしてここにこいつが居たのか、そしてこいつを“討伐”したのは誰なのか……ったく、今から頭が痛くなるぜ」
「ギルドマスターが面倒くさいとか言わないでくださいよ」
「わあってるよ」

 スターリジアのギルドマスター、ダンという名の彼は元々冒険者だった。しかし大きな怪我をして引退し、この街のギルドマスターになったのだ。今言葉が出たように面倒くさがり屋ではあるが仲間想いなこともあって、ギルドに世話になっている冒険者からは慕われている存在だ。

「シア、もう一度聞くぞ。こいつを処理したのはお前じゃないんだな?」
「うん。流石の私もキツイと思うけど」
「……ふっ、まあそういうことにしておくさ」

 油断ならない、シアはそう何度目か分からない評価を下した。ただシアの直感ではあるものの、ダンは面倒くさいことをこの上なく嫌う性格だ。つまり、シアのことにも深くまで踏み込んではこないし、何ならシアの家のことにも口を出すことはない。

「あなたは私をとことん疑うよね」
「疑っているわけじゃないさ。ただ、藪を突けば蛇が出てくるとは思ってるぜ。長年冒険者として培われた危機察知みたいなものがビンビン働きやがる」
「ふ~ん?」
「安心しろ。俺には奥さんも居るし生まれたばかりの子供もいるからな。お前に対して滅多なことはしねえよ」

 付いてきていた受付の子たちはヒソヒソと話す二人に首を傾げていたが、パンパンとダンが手を叩いて指示を出す。

「とりあえず、念のため王都にも報告しておくか。大して動いちゃくれんだろうが、何かあってからだとうるせえからな」
「了解です」

 忙しそうに動き回る子を不憫に思いつつ、シアは空を見上げた。何か不穏なことが起こるかもしれないのに、雲一つない青空に鳥が呑気に飛んでいる。君たちは能天気で幸せだなとシアは苦笑するのだった。

「ねえねえシアさん」
「なんだい?」

 話しかけてきたのはBランク冒険者の女の子だ。シアとしては興味がないのはもちろんだが、よく話しかけてくる子でもあるので顔は覚えていた。彼女はシアの耳に顔を寄せこう口を開いた。

「今日のシュバルツさん変じゃない? いつもはシアさんに話しかけに行ってたのにさ」

 彼女が見つめる先に居るのは白銀の爪、そしてそれらを率いるシュバルツだ。シュバルツもそうだし他の彼らも、まるでシアに興味を示さずオーガの死体についての考察をしている。シアとしては理由が分かるので苦笑する他ないのだが、この子からすればかなり気になっているらしい。

「さあね。普段相手しなかったから諦めたんじゃない?」
「……そんなまさか。でも、シアさん本当に見向きもしなかったからなぁ」

 う~んと考え込む彼女から視線を外し、シアは改めてシュバルツたちを見た。まるで別人かのようにこちらに見向きもしない彼ら……本当に怖い力だと、ミネットの小悪魔のような笑顔を思い浮かべるのだった。





「ご丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、このようなことでお礼になるとは思えませんが……」

 翌日、今ちょうどシアが森に調査の付き添いに行っているくらいの時間、俺はというとシャズの家にお邪魔していた。別に予定していたわけではないが、食材の買い出しに向かうリーシャに付き添う形で外に出ていたのだ。その時にバッタリ出くわし、お礼がしたいからということでここに来たというわけだ。

「母さん母さん、昨日は本当に凄かったんだ! シアさんがオーガを……あ、えっと……魔物をバッサバッサって切り捨てたんだ!」

 うん、上手いこと誤魔化してくれて嬉しいぞ。お母さん――アケノさんは聞いてない風に笑っているけど、シャズの様子からあまり公にしない方がいいと察してくれたらしい。

 そうそう、リーシャとシャズは初対面だったが自己紹介は済ませた。シャズからしたら初めて見た顔ではあるものの、俺の身内ということで警戒心は全くと言っていいほどなかった。

「ふふ、この子ったら昨日からずっとこの話ばかりしているんです。楽しい時間……というとあれかもしれないですが、こんな風に興奮しているこの子を見たのは初めてです。シロト様、あなたとの出会いがあってこそなんでしょうね」

 そう言ってもらえると嬉しいけれど、確かにあれは偶然だった。俺がシャズを見かけなければ、或いはアケノさんが病気にならなければ出会うことはなかった。偶然か必然か、どちらにせよ俺もシャズを通して貴重な経験をさせてもらった。

「正直なことを言えば、森に連れて行ったことを糾弾される覚悟はしていました。そう言っていただけると嬉しい限りです。シャズ、もしまた機会があったら俺たちと一緒に冒険に行くか?」

 あえて外に出るではなく、冒険という言葉を使わせてもらった。シャズは目を輝かせて頷き……そうになったが、チラっとアケノさんに目を向けた。

「ふふ、いいわよ。シロト様たちが居るなら安心出来るわ」
「本当!? ってことだぜシロトさん! またお願いします!」
「はは、分かった」

 笑顔のシャズを見るのがアケノさんも嬉しいようだ。

「でも……シアさんもミネットさんもそうでしたけど、リーシャさんも凄い美人ですよね」

 そこでシャズの目が俺からリーシャに移った。アケノさんもそうよねと頷き、やはり彼女たちの美貌は相当なレベルらしい。
 リーシャは何も言わず、小さくお辞儀をするだけだった。

「そう言ってもらえるとリーシャも嬉しいはずだ。それに、俺も嬉しいよ」
「え?」
「この子たちの主としてだ。従者が褒められれば主人も嬉しくなるモノだからな」

 まあ一番は、自分の好みがやはり間違ってなかったという証明にもなる。とはいえこの子たちに勝る美しさの人間はそうそう居ないとも思っている。王都に居る弓姫と聖女が物凄い美貌の持ち主として有名だが、彼女たちでも敵わないだろうと俺は勝手に結論付けた。

「そうだわ。シャズの為にお菓子を作っていたの。是非食べてもらえないかしら?」
「ほう、ではいただきましょうか。リーシャ、お前も座るといい」
「よろしいのですか?」
「もちろんよ。是非ご馳走になってちょうだい」
「……ふふ、それではいただきますね」

 家で過ごすのもいいが、こうやって他人の家にお邪魔するのもまた良いモノだなと俺は感じるのだった。
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