神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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夜はまだ長い

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「魅了の魔眼……か」

 温泉から部屋に戻り、用意されていた料理を食べながら俺はリーシャの話を聞いていた。稀に人に宿るとされる魔眼だが、俺はそういった魔眼所持者は今のところ会ったことはない。もしかしたらすれ違ったりしているのかもしれないけれど、外見だけじゃ判断できないからな流石に。

「それでその彼は王都に向かうって?」
「はい。あの様子だと間違いなく剣聖を始末するつもりでしょうね」

 なるほど、王都の守りの要たる剣聖が居なくなりもすれば混乱は避けられないだろう。それこそ隣国に付け込まれる隙を与えかねないが、別に俺としては特に何も思うことはない。剣聖の自業自得でもあるし、何よりそんな奴を重宝している王族の問題でもあるからだ。

 しかし……魅了の魔眼か。女好きの男からしたら喉から手が出るほど欲しい能力だろうけれど、奪われる側からすればたまったものではない。俺としても、もし目の前に居るこの子たちが奪われたらと思うと心が張り裂けそうだ。

「大丈夫ですよマスター」
「え?」

 料理を口に運びながら、そんな不安を抱いていた俺に向かって優しい声が投げかけられた。その声は俺の正面に座るリーシャからで、彼女は俺を安心させるように笑顔で言葉を続けた。

「私は……私たちはマスターと繋がっています。その繋がりは決して何があっても途切れることなどありません。どんな脅威が目の前に現れたとしても、その悉くを滅してみせましょう」
「……はは、そうか」

 滅する、少し物騒な言葉ではあるけれどリーシャは……いや、他の子たちもそうだけど本当にそう出来るんだろうなっていう安心感があるんだ。彼女たちがそう思ってくれるのに、俺が勝手にありもしないことを怖がってメソメソするのはダメだな。

「……よし!」

 パンと、少しだけ強く俺は両の頬を叩いた。彼女たちの主として気を強く、そして堂々としていよう。

「ふふ、それでこそですマスター。それに、そんなもの恐れるに足らずですよ。何故なら私たちとマスターは不変の愛で結ばれているのです! マスターを愛する気持ちに敵う存在なんて居ないんですよ!!」
「お、おう……」

 テーブルの上から身を乗り出し、俺の手を握って鼻息荒くそういうリーシャに少し身を引いてしまいそうになった。

「ま、私たちは人ではないのでそもそも効かないんですけどね」
「うんうん」

 ボソッとミネットが呟き、シアがお魚を美味しそうに食べながら頷く。身も蓋もないことを言われリーシャはガクッと肩を落とすものの、それもそうですけどと苦笑して元の位置に戻った。
 それから談笑をしながら料理を食べるのだが、それにしても美味しい。郷土料理というものなんだろうけど、普段食べる物とはまた違った美味しさがある。特にこの魚の切り身が非常に好みだ。

「マスター、これも美味しいわよ?」
「お、鶏肉か」
「えぇ、ほら。あーん」
「あーん」

 隣に座るサリアから鶏肉を差し出され、少し行儀が悪いと思ったが頂いた。焼き加減もそうだし柔らかさもちょうど良い、是非ともまた食べたいと思わせる代物だ。サリアが満足そうに微笑み、リーシャがちょっと面白くなさそうに唇を尖らせる様子に苦笑していると、ふとサリアがこんなことを呟いた。

「ねえマスター、初めてこの浴衣? というものを着てみたけれど生地も柔らかくて着心地がいいわね。それに、中々見栄えも良いと思わない?」
「……そうだね」
「ふふ♪」

 サリアに言われて改めて意識してしまったが、俺は出来るだけ意識しないように振る舞っているつもりだった。風呂から上がる際に用意されていたこの浴衣という服装なんだが、男はまあ別に特筆することは何もない。ただ、女性の場合はちょっと妙に色気を感じるのは何故だろうか。

 隣に居るサリアもそうだが、正面に居るリーシャもそうだけど結構胸元が見えてしまっている。おそらく緩めているんだろうとは思うけれど、その豊満な谷間が見えてしまいちょっとだけ困る。ちゃんときっちり着ているシアを見習いなさい君たちは。

「っと、マスターを揶揄うのはこの辺にしておきましょうか。ねえリーシャ、魔力の流れを感じたけれどスキルを使ったのよね?」
「えぇ、軽くですが使いましたよ」

 話が変わってくれて助かったよ……。
 サリアが口にしたのはリーシャのスキルに関してだけど、俺もその発動は微弱ながら感じることが出来た。相手にとっては不運だろうけど、ミネットみたいに頭の中を作り変えられたりするよりは遥かにマシだろう。まあ碌な目に遭ってないっていうのは想像出来るのだが。

 リーシャのスキルに関して考えていると、俺はリーシャを生み出して少しした頃のことを思い出してしまう。

「……リーシャのスキルなぁ。一度だけ体験したことあるけど天国と地獄だったよ本当に」
「……え? そうなの?」

 リーシャのスキルを身を持って体験した、どうやらサリアにとっては寝耳に水らしく驚かれた。あぁでもそうか、そういえば誰にも話したことはなかったな。ミネットとシアも興味深そうに見つめる中、懐かしいですねとリーシャが笑う。

「でも、マスターも喜んでいたではないですか。いくら12歳の幼い時とはいえ、私には手に取るように分かっていましたよ?」
「……………」

 だから天国と地獄って言ったんだ。まあ何がされたかというと、リーシャのスキルは主に感覚を対象に発動するスキルだ。もちろん応用を利かせる使い方もあるけれど簡単に言えばそんなもので、ミネットほどではないが遥かに強力なスキルと言えるだろう。まあ、実を言えばリーシャに関してだけはデュアルスキル、つまりスキルを二つ所持しているというのも頼りになる部分だ。

「まあなんつうか、こう頭の中がグシャグシャになる感じは怖くてな。でもどこに動いても、何をしようとしてもリーシャの胸に行き着くのは天国だったというか」
「??」

 頭を傾げるサリアに俺は事細かに説明した。
 要するに、だ。感覚を狂わされることで得体の知れない恐怖は感じるんだけど、何をしようとしてもまだ小さかった俺はリーシャの胸に導かれたんだ。腕を伸ばしてもそうだし、体を動かしてもそう、とにかく何をしても俺はリーシャの胸から逃げられなかった。

 当時12歳の子供だった俺としてもそれはそれは恥ずかしかったものだが、これ幸いにと笑顔で突っ込んでいったような気がする……間違いないと断言できる辺り今思い出しても恥ずかしいなこれは。

「流石に凄い量の鼻血を出して気絶しそうになった時は焦りましたけど」
「殺人事件みたいな感じだったな」

 俺は鼻から血を出して、リーシャは胸元を俺の鼻血で真っ赤に染めてたし……一体何をやってたんだ俺たちは。

「何をやってたのよあなたたちは……」

 まあそんな反応になるよな。でも俺も若かったんだ……だから仕方がな――

「ちなみにリーシャ、それと同じことは私たちでも出来るの?」
「出来ますよ? ……あ、うふふ♪ 悪い人ですねサリアさんは」
「話は聞かせてもらいました。私も参加よろしいですか?」
「……偶には積極的になるのも致し方なし、だね」

 一体何をする気なのか怖くて聞けなかったけど、一つ言えることは明日の目覚めがかなり遅くなるということは確かだった。相変わらずの狂わされる感覚は怖さを感じたが……うん、やはり天国のようだった。
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