神から与えられたスキルは“ドールマスター”

みょん

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二日目

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 ホーローに来ての二日目、各々好きに過ごすということで方針は決まった。朝目を覚ました時にリーシャがみんなに土下座をしていたのは分からなかったけど、何となくその理由を察することが出来たので聞かないでおいた。

「ふふ、本当に空気が美味しいところねここは」

 俺の隣、腕を抱くように身を寄せているサリアがそう呟いた。各々好きに過ごすとはいったが、流石に俺一人で出歩くのは心配ということで今回はサリアが傍に付くことになった。もちろん時間でローテーションのように交代する手筈だが、今はサリアに独占されているという状況だ。

「空気も美味い、温泉も素晴らしい、料理も最高……本当に良いところだよここは」

 周りを山に囲まれているからか新鮮な空気を吸うことが出来るし、朝風呂ということで温泉にまた入ったが本当に気持ちがいい。それに用意された朝飯も魚をメインに添えた料理だったが本当に美味しかった。

 この辺りだとダントツで行きたい旅行先一位に選ばれるだけはあるなと、俺たちは身を持って知ることが出来た。さて、そんな風に今サリアは傍に居るけど他のみんなはそれぞれ好きに過ごしている。
 リーシャは女将さんに料理のことを聞きに行き、ミネットとシアは二人で色んな効能のある温泉巡りに向かった。温泉巡りに関しては俺としても興味があるので時間的にはリーシャと周ることになりそうだ。

「さあマスター、色々と見て回りましょう」
「あぁ」

 楽しそうに腕を引くサリアを見ていると、普段見ることのできない幼さが見えるようで微笑ましくなる。リーシャに次ぐ二番目に生まれたサリアだけど、四人の中では一番お姉さんみたいな感じだ。喋り方もそうだし雰囲気もそう、サリア自身もその自負があるらしくしっかり者という印象が目立つ子なのだ。

「サリア」
「なあに……あ」

 サリアの手を離し、俺は彼女の肩を抱くような体勢になった。長い間一緒に居たからこそ、サリアはこうすると喜ぶことを知っている。彼女に引っ張られるのも好きだけど、主として彼女をエスコートするのもたまにはいいだろうさ。

「……ふふ」

 美しい横顔から見えるのは綺麗な笑顔、そこに照れるような表情も入ることでサリアの可憐さは更に出てくる。行き交う人々もサリアの笑顔に魅了されるように足を止めては見つめてきていた。

「私、やっぱりマスターが好きだわ。リーシャたちにだって負けないくらい」

 そう言って見つめられ、ダイレクトにその笑顔を見ると俺の方が顔を赤くして視線を逸らしそうになってしまう。しかしサリアの目は逸らさないで、見つめてほしいと言っていた。

「……本当に綺麗に笑うよなサリアは」
「えぇ、あなたが望む最高の笑顔でしょ?」
「あぁ」

 そうあれと、望んだからな俺は。
 さて、そんな風にサリアと一緒に歩いているとこの温泉郷に似つかわしくない集団を見つけた。彼らを見て俺は館から出る時に言われたことを思い出す。

『実は休憩のために冒険者が立ち寄っているんですが、素行が悪くて困っているんですよ。リスカム様も気を付けてください』

 昨日俺たちを案内してくれた笑顔のいいあんちゃん、そのあんちゃんが物凄く嫌そうに話していた一団はおそらくあいつらのことだろう。確かに見た目と雰囲気から関わりたくないオーラが伝わってくるようだ。

 このまま歩いていくと彼らの傍を通ることになる。出来れば絡んでくるなよと俺は祈る心地だった。これは自分たちの心配をしているわけではなく、あの集団のことを考えてのことだ。

「……サリア」
「分かってるわ。大丈夫よマスター、もし近づいてきそうになっても殺しなんてしないわ」
「そうか」

 俺の考えていることを察してくれたのは嬉しいが、たぶん俺が殺してもいいって冗談でも頷いたらその通りにするんだろうなと少し戦慄する。愛を育む恋人のように二人で連れ立って歩いて行く中、俺のお祈りはどうやら聞き届けられなかったようだ。

「……お、随分と別嬪さんじゃねえか。おいそこの女、こっちに来い」

 チラっと見たが、やはりその言葉はサリアを指していたようだ。でっぷりと太った男がそう口にしたが、当然サリアは一切の反応を見せない。本当に聞こえてないのではと思ってしまうほどに、サリアは俺の事しか見ていなかった。

「マスター、心臓の音が聞こえるけれど……ふふ、まだドキドキしてくれるの?」
「それはそうだろ。サリアみたいな美人が傍に居ればそうなるよ」
「リーシャたちにも言っていると思うけど、その言葉で嬉しくなる私も単純だわ」

 サリアが強く身を寄せることで、リーシャに次ぐ大きな胸がその形を歪める。サリアの温もりと、髪の毛から伝わる花のような匂いを感じながら、俺は頬を赤くして嬉しそうにする彼女と笑い合った。
 さて、そんな風に全く男の呼びかけに応えないサリアを抱いて道を歩く。呼びかけた男だけではなく、周りに居た仲間も気に入らなそうに俺たちの道を塞ごうとしたその時だった。

「……出でよ」

 小さくサリアが囁いた。その瞬間、前に移動しようとしてきていた男たちはその動きを強制的に止められた。驚いたような雰囲気はすぐに怯えたモノに変化し、俺はチラッと彼らを見た。

 彼ら一人一人に武器を向けている人影がある。剣、槍、斧、ハンマーなど多種多様の武器を持ったその集団はサリアの召喚魔法によって生み出された存在だ。サリア自身ミネットのように魔法を扱う戦いを得意とする他、このように会得した召喚魔法も使うことが出来る。

「相変わらず発動が早いな」
「ふふ、その分耐久は脆いけどね」

 耐久は脆い、確かにその通りだがその脆さをカバーするのがサリアのスキルだ。こういった軍団を生み出す魔法と限りなく相性がいい……いや、良すぎるといってもいいスキルをまだサリアは隠している。

「な、なんだてめえらは!」
「離しやがれ!」
「はな……ひっ!?」

 そして更に凄いのが生み出された彼らにはちゃんと意思がある。だからこそ彼らの主人はサリアになるが、そんなサリアの時間を邪魔しようとする男たちがもし何かをしようとしたらどんなことになるか、想像するだけでも恐ろしい。

「大丈夫よ。この美しい場所を血で汚すようなことはしないわ。ま、その必要はなさそうだしね」

 そのサリアの言葉が示すように、男たちは急いで荷物を纏めるようにホーローの外へ走って行った。召喚された軍団は男たちがちゃんと去るのかを確かめるように付いていく……うん、やられる側が本当に怖いぞこれ。
 サリアが手を翻すとまた一体召喚された。その姿は愛らしい少女のような姿をしており、サリアの前で膝を突いていた。

「ある程度奴らが離れたら召喚を解除なさい」
「了解しました」

 幼い外見に似合わない冷徹とした声を発したその子は立ち上がった。そして俺たちに頭を下げ、そのまま歩こうとした彼女に俺は礼を口にする。

「ありがとうな」
「……いえ」

 一瞬俺を見てすぐに下を向いた彼女はそのまま急いで走って行った。そんな後姿を見つめたサリアが一言こんなことを言った。

「……私の魔力で召喚したからそりゃそうなるわよね」
「どうしたんだ?」
「いいえ、何でもないわ。マスターはタラシだと思ったのよ」
「えぇ……」

 そうして俺たちは昨日の足湯の場所まで来たので、せっかくだからと二人並んで足を浸けた。やっぱり何度体験しても飽きることがない気持ちよさがあるなぁ。

「ねえマスター、あの男たちが絡んでくるなって凄く祈ってたわよね?」
「分かったか。あいつらの心配の方が大きかったよ」

 昔にサリアがナンパしてきた男をかなり酷い目に遭わせたことがあるからな……肩を揺らせてクスクスと笑っているけど、気が気でなかったんだぞこっちは。

「だから大丈夫だってば。確かにマスター以外の男に見られるのは気持ち悪くてその眼球潰してやろうって思うけど、昔とは違うんだから」
「……サリアさん、少し声を抑えようか」
「……あら失礼。おほほほほほ」

 サリアは普通に口にしたみたいだけど、雰囲気と目が本当に殺すって雰囲気だった。だから今向かいで足湯を堪能してた男性二人がサッと目を逸らしたぞ。そのままさっさと足を拭いて歩いて行ってしまった……彼らには悪いことをしたかもしれん。

「祈ったのは誰に? 神様?」
「冗談。神に祈るわけないだろ……仮に祈っても奴らが聞き届けてくれるものか」
「それもそうね……それが神だものね」
「あぁ」

 神を信仰する教会の連中、奴らからすれば今の言葉を聞かれたら武器を持って襲われかねない。信じがたいことに、神を崇拝する奴らはそんな風に狂った連中の集まりだ。神からのお告げを絶対とし、そこに殺害があっても平気でするような頭のおかしい連中……それが教会で生きて来た者たち。

「神は人を助けることなんてない、そもそも人の心が分かるわけないだろうしな」

 故に神なんて言われているんだろう。
 実際に出会ったことはないから存在しているのかすらも分からない。でももし会えたらその時は……少しは人を守ってみせろよカスとでも言ってやりたいな。
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