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(28)王女の初侵攻(3)
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漸く迎撃が終わり周囲を見ると、そこにスサリナの姿は無かった。
「チッ、あの眠りこけた聖女、攫われやがった」
今襲い掛かって来た魔物は、人型の魔物だった。
つまり、苗床にするために攫われた可能性が高いのだが、どちらの方向に攫われたのかも不明であり、助けに行こうにも手がかりすらない。
今回の依頼達成は全員の無事な帰還が絶対条件になっているので、いなくなって欲しいとは心底思っていたのだが慌てる四人。
そもそも<聖女>スサリナは王女であり、報酬を与えてくれる国王の娘である以上、その存在が行方不明では非常に宜しくない状況に陥るので、残された四人はどこまでも足手纏いな奴だと思いつつも周囲の探索を慎重に始める。
「どの道、苗床になっていようが助かっていれば問題ないはずだ」
「確かにグレイブの言う事に一理ありますね」
「とにかく見つける」
「同じ女として思う所はあるが、仕方がねーな」
もう苗床になるのは確定していると言う判断なのだが、逆に言えばすぐさま命の危険に晒される事は無いので、無駄に焦って行動する必要はないと判断している四人。
一方のスサリナは、流石に激しい振動……魔物に抱えられて高速で移動している状態であれば目を覚ますが、多少寝ぼけているので第一声が文句になる。
「何をしているのかしら?私を運ぶにしても、もう少し気を遣って運んでいただきたいもので……キャー!!!!」
言葉を発する事でより覚醒し、今自分がどのような状況に陥ってしまったのかを把握したスサリナは、とてつもない悲鳴と共に即座に魔道具を起動する。
その悲鳴を聞き付けたグレイブ達は、正に苗床にされ始めている時に出す声だと思い、魔物が餌に夢中になっている隙をついて一気に殲滅できるだろうと安堵している。
誰ともなく悲鳴の聞こえた方向に慎重に進み、やがて一カ所に群がっている魔物の集団を発見すると、自分達の推測が正しかった事を喜び、慎重に気配を消しながら攻撃が届く位置まで移動して、纏まっている一か所に向けてホルドの魔法が炸裂する。
襲われているはずのスサリナは見えないので、それだけの量の魔物と言う肉の盾があれば重症で済むだろうと思っており、その上で自分の力で回復させると共に多少なりともホルド自身の力も使って回復させれば十分だと思っている。
―――ドン―――
賢者に相応しい威力の炎が魔物の一団に着弾し、激しい音と共に周囲一帯の気温が一気に上昇する。
「おいおい、ホルド。あのお姫様、生きていられるのか?」
「大丈夫ですよ、多分」
ある程度炎を維持した後に魔法を維持する為に供給していた魔力を遮断すると、嘘のように炎はかき消え、残ったのは……モノ言わぬ魔物の群れ。
その群れを適当にかき分けて、最も地面に近い位置にいると想定しているスサリナを救助する為に嫌々魔物をどかしていくのだが……恐怖から魔道具を起動したスサリナはこの場にはいない。
「おいおい、いないぞ?消し炭になったのか?」
「消し炭になるほどの威力は出していませんよ。その証拠がこの周辺の魔物だった物体ですから。となると……この場所にはいなかったと言う事ですね。もっと奥の方にいる事になるのでしょう」
確かにスサリナを想像させる様な品も無ければ物体も無いので、声が聞こえてきた方向……つまりダンジョンの奥に向かって進むほかない四人は、重い腰を上げて再び進み始める。
「わ、私は……もう我慢が出来ません!」
有り得ない恐怖、そして雑魚寝などと言う屈辱的な扱い、更には一貴族が王族である自分に野営の見張りをしろなどと言って来る環境に心底嫌気がさしていたので、無意識で連続起動して全ての魔道具を使用したスサリナは、自らを抱えていた魔物もいつの間にか振り切った状態で見覚えのある階層に到達していた。
「こっちですわね」
彼女が向かっているのは、ダンジョン一階層の入り口……つまり、ダンジョンからの出口とも言う場所であり、この時点でグレイブパーティーは完全に分断されてしまい、称号持ちによる相乗効果も一気に失われるのだが、そんな事はお構いなしにスサリナは出口に向かい……
「あっ、日の光がこれほど眩しいとは思いませんでした」
地上に出られた事を喜び、自分達の帰りを待っている一行の元に一人で向かう。
「何と!わらわもだが、そなた達も全て予想を外したぞ。まさかあのスサリナが他の四人を捨てる事になるとはのう。大どんでん返しじゃが、誰もこのような結末に賭けておらぬから、全員の負けじゃの」
その様子をしっかりと観察しつつ、賭けとして成立しなかった話を持ち出して、誰一人としてこの状況を予想できなかった事を楽しそうに話している魔王モラルと眷属達。
「モラル様、まさかあの聖女が裏切られるのではなく裏切る側になるとは、コレは誰も予想できないのは仕方がありません」
「俺も、まさかの結末に驚くばかりだぜ。これは流石のモラル様から見ても想像の遥か上を言っていたのも頷ける」
結局魔族全員の予想を軽く超える程、自分勝手な行動をしていたスサリナだ、
「チッ、あの眠りこけた聖女、攫われやがった」
今襲い掛かって来た魔物は、人型の魔物だった。
つまり、苗床にするために攫われた可能性が高いのだが、どちらの方向に攫われたのかも不明であり、助けに行こうにも手がかりすらない。
今回の依頼達成は全員の無事な帰還が絶対条件になっているので、いなくなって欲しいとは心底思っていたのだが慌てる四人。
そもそも<聖女>スサリナは王女であり、報酬を与えてくれる国王の娘である以上、その存在が行方不明では非常に宜しくない状況に陥るので、残された四人はどこまでも足手纏いな奴だと思いつつも周囲の探索を慎重に始める。
「どの道、苗床になっていようが助かっていれば問題ないはずだ」
「確かにグレイブの言う事に一理ありますね」
「とにかく見つける」
「同じ女として思う所はあるが、仕方がねーな」
もう苗床になるのは確定していると言う判断なのだが、逆に言えばすぐさま命の危険に晒される事は無いので、無駄に焦って行動する必要はないと判断している四人。
一方のスサリナは、流石に激しい振動……魔物に抱えられて高速で移動している状態であれば目を覚ますが、多少寝ぼけているので第一声が文句になる。
「何をしているのかしら?私を運ぶにしても、もう少し気を遣って運んでいただきたいもので……キャー!!!!」
言葉を発する事でより覚醒し、今自分がどのような状況に陥ってしまったのかを把握したスサリナは、とてつもない悲鳴と共に即座に魔道具を起動する。
その悲鳴を聞き付けたグレイブ達は、正に苗床にされ始めている時に出す声だと思い、魔物が餌に夢中になっている隙をついて一気に殲滅できるだろうと安堵している。
誰ともなく悲鳴の聞こえた方向に慎重に進み、やがて一カ所に群がっている魔物の集団を発見すると、自分達の推測が正しかった事を喜び、慎重に気配を消しながら攻撃が届く位置まで移動して、纏まっている一か所に向けてホルドの魔法が炸裂する。
襲われているはずのスサリナは見えないので、それだけの量の魔物と言う肉の盾があれば重症で済むだろうと思っており、その上で自分の力で回復させると共に多少なりともホルド自身の力も使って回復させれば十分だと思っている。
―――ドン―――
賢者に相応しい威力の炎が魔物の一団に着弾し、激しい音と共に周囲一帯の気温が一気に上昇する。
「おいおい、ホルド。あのお姫様、生きていられるのか?」
「大丈夫ですよ、多分」
ある程度炎を維持した後に魔法を維持する為に供給していた魔力を遮断すると、嘘のように炎はかき消え、残ったのは……モノ言わぬ魔物の群れ。
その群れを適当にかき分けて、最も地面に近い位置にいると想定しているスサリナを救助する為に嫌々魔物をどかしていくのだが……恐怖から魔道具を起動したスサリナはこの場にはいない。
「おいおい、いないぞ?消し炭になったのか?」
「消し炭になるほどの威力は出していませんよ。その証拠がこの周辺の魔物だった物体ですから。となると……この場所にはいなかったと言う事ですね。もっと奥の方にいる事になるのでしょう」
確かにスサリナを想像させる様な品も無ければ物体も無いので、声が聞こえてきた方向……つまりダンジョンの奥に向かって進むほかない四人は、重い腰を上げて再び進み始める。
「わ、私は……もう我慢が出来ません!」
有り得ない恐怖、そして雑魚寝などと言う屈辱的な扱い、更には一貴族が王族である自分に野営の見張りをしろなどと言って来る環境に心底嫌気がさしていたので、無意識で連続起動して全ての魔道具を使用したスサリナは、自らを抱えていた魔物もいつの間にか振り切った状態で見覚えのある階層に到達していた。
「こっちですわね」
彼女が向かっているのは、ダンジョン一階層の入り口……つまり、ダンジョンからの出口とも言う場所であり、この時点でグレイブパーティーは完全に分断されてしまい、称号持ちによる相乗効果も一気に失われるのだが、そんな事はお構いなしにスサリナは出口に向かい……
「あっ、日の光がこれほど眩しいとは思いませんでした」
地上に出られた事を喜び、自分達の帰りを待っている一行の元に一人で向かう。
「何と!わらわもだが、そなた達も全て予想を外したぞ。まさかあのスサリナが他の四人を捨てる事になるとはのう。大どんでん返しじゃが、誰もこのような結末に賭けておらぬから、全員の負けじゃの」
その様子をしっかりと観察しつつ、賭けとして成立しなかった話を持ち出して、誰一人としてこの状況を予想できなかった事を楽しそうに話している魔王モラルと眷属達。
「モラル様、まさかあの聖女が裏切られるのではなく裏切る側になるとは、コレは誰も予想できないのは仕方がありません」
「俺も、まさかの結末に驚くばかりだぜ。これは流石のモラル様から見ても想像の遥か上を言っていたのも頷ける」
結局魔族全員の予想を軽く超える程、自分勝手な行動をしていたスサリナだ、
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