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(29)王女の初侵攻(4)

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 侵攻中に無様に分断された挙句、勝手に一人だけダンジョンから脱出してしまうと言う離れ業を躊躇なく実行して見せた<聖女>スサリナ。

「ですが、これであの一行の戦力は大幅に減少しましたね。まぁ、誤差の範囲ですけれど」

 魔王直属三傑の一人であるシリアナのこの言葉が全てを表しており、イリヤのいないグレイブ率いる勇者パーティーは脅威とはなり得ないので、呑気に現状の感想を言いつつも、しっかりと教会にいるイリヤに対して情報が届くようにリリア達を通して連絡だけはしている所は、流石は魔王と直属の三傑だ。

 一人だけダンジョンの外に出てきたスサリナを発見した騎士達は、相当薄汚れている上に魔道具が無くなっている事から、ダンジョン内部で想定し得ない事が起きたと判断して駆け寄っているのだが、実際は勝手に一人で逃げて来ただけ。

 今尚残された四人は、嫌々ながらもスサリナを探しつつダンジョンを侵攻している。

「スサリナ様、ご無事で何よりですが……他の面々はどう言った状況なのでしょうか?」

 この場に待機している騎士は、王女の無事な帰還を喜びつつも最も重要な魔王討伐についてどうなっているのかを確認すべく少々遠回りの表現を使って確認する。

「どうもこうもありませんわ。何故私がこのような苦行を行わなくてはならないのか、全く理解できません。前回魔王を討伐したと自信満々のメンバーと同行しているのでもう少し楽に進めると思いきや、あの惨状。あの一行は未だに魔王の元にすら辿り着けずに侵攻している最中です」

 相当お冠の状態で思ったままを告げるスサリナだが、事実を聞いた騎士は呆れてしまう。

 この言葉を額面通りに受け取れば、侵攻中のグレイブ一行を見捨てるような形で一人だけ逃げてきたと言っているのだが、立場上咎める事も出来ずに不機嫌なスサリナの対応をしつつ、知り得た情報を同僚に伝えておく。

 即座に<聖女>離脱の情報は王城に上がるのだが、未だ他の面々は魔王討伐の為に侵攻中であるとの情報も共に上がっているので、逃走用の魔道具を与えている事もあり誰一人として子供の心配はしていないのだが、このままで魔王を始末できるのかと言う不安はある。

 状況がどう転ぶか不明確である為に、勝手に離脱したスサリナの父である国王を攻める事もせずに静観しているグレイブの父であるレッド公爵。

「暫し吉報を待つしか手はない……か」

 国王であるヤドリア・ユガルの一声で、この一室に集合していた貴族達は退室して行く。

 王城でこのような状況になっている時、モラルのダンジョンを未だにスサリナを救うために進んでいるグレイブ達の状況は悪化している。

「グレイブ、コレは……相当に厳しいですよ。これ以上の侵攻は非常に危険です」

「わかっちゃいるが、あの使えない<聖女>はどうする?」

 物量もそうだが、そもそも出現する個体の力が上昇しているので全力で防戦するだけの状態になっているグレイブ一行。

「前回はこんな状況じゃなかったはずだぜ?だけど、本当にどうする?<聖女>は諦めるにしても、魔王の生存……お前等は確認する必要があるんじゃねーのか?」

「確かに、ルナの言う通り」

 この魔物達の戦力が上がっているのは主である魔王が不在になっている場合の暴走時でも起こり得ると考える事が出来るので、実際に魔王と直接対峙したルナ以外の三人はその目で魔王を見ない限り、生存していると信じる事は難しいと考えている。

 逆に生存していないと言う証拠を見つけるのは非常に難しいのだが、前回と比べて異常に魔物が強くなっているのは制御が効かなくなっているので、これを魔王が死亡している根拠とし、これ以上侵攻せずに撤退すれば良いのではないかと思い始めている。

 直接魔王をその目にしているルナだけはそうは思っていないのだが、この現状で侵攻する事は不可能であり、一先ず安全な場所まで一気に撤退する事にした。

「くっそ、なんだあの強さは!」

 グレイブは<勇者>としての力を使っても手も足も出ない状況にいら立ちを隠せず、他の面々も<聖女>の離脱によって相乗効果が無くなって戦力が落ちている事もあり、疲労の色を隠せない。

「もう撤退しかないでしょうね。ルナが見たと言う魔王は……影武者だった。そう言う事だと僕は思います」

 突然<賢者>ホルドがこのような事を言い出したのだが、言いたい事はこの場の全員は理解しており、その内容は……魔王は討伐されており、唯一生存していると言っていたルナが見た存在は影武者だったとする事で、この魔境とも言えるダンジョン侵攻を行わずに帰還する方向に向かわせる。

 自らの発言を完全に否定されるのではなく、影武者だった事にすれば面目も保てるので異を唱えないルナだが、この一行を観察している魔王モラルとしては非常に面白くない。

「何と!わらわが影武者?まったく、賭けすら成立しないような腑抜けの一行が、言うに事欠いてわらわが影武者?」

「これは、モラル様。一度改めてあの一行に姿を見せる必要があるのではないでしょうか?」

「俺もそう思うぜ。そうすれば、あいつらがイリヤ嬢について詮索する時間や神父さんの教会に意識を向ける時間が減るんじゃねーかな?」

「あら?クロックとバケットは、珍しく良い事を言うわね。私も賛成よ」

 観察対象からふざけた言葉が出てしまったので満場一致でグレイブ一行の元に向かう事になったモラル一行だが、前回と違い絶対に油断しないように気を引き締める。

 前回も圧倒的な戦力差があるにもかかわらず致命傷を負ってしまったので、仮に次も同様の事態に陥れば、大きな恩を返しきれていない状態のイリヤを残して消えてしまう事になるのだから……

「では、行くかの?当然油断はするでないぞ?」
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