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(53)第二王子シシハルド
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非常に冷静で冷酷な第二王子のシシハルドは、各陣営が動いている状態を静観する立ち位置を保ちつつも、しっかりと情報収取だけに力を削いでいる。
「シシハルド様、ネルハリ王女はダンジョンから戻ってまいりました。やはりシシハルド様が予想した通りに、下見だったようです」
「それはそうですよ。あの程度の騎士だけしか引き連れていないのですから。あれだけ苦労して<勇者>パーティーと共闘の契約を結んでいるのに単独で侵攻するわけはないじゃないですか?それに、教会の癒し手の一人も同行する所、騎士だけを帯同させていたと言う事は、本格侵攻ではないと見るのが当然ですよ」
冷静に話しているシシハルドだが、一旦敵と認識すると相当冷酷であると知っている目の前の騎士は、普通であれば温厚に見えるこの態度も相当冷酷だと言う印象しか持つ事ができない。
「それで、不思議な動きをしているハミュレットと良く分からないキャスカはどうですかね?」
ここに第一王子であるミハイルが出てこないのは、あれだけ直情型の男なので今迄得た情報通りに自ら抱えた戦力だけでダンジョンを侵攻する事は間違いないと判断したためで、これ以上新しい有益な情報を得られる事は無いと確信したからだ。
「はっ。ハミュレット王女が派遣した騎士達はユガル王国に向かいましたが、王城には行かずに教会に向かいました」
「……そうですか。キャスカと交渉しに行きましたね。まぁ、何も考えていないあの女らしいと言えばらしいですが、自ら暗殺者を派遣した対象と交渉するとは、厚顔無恥も極まれり……と言った所でしょうか。そうなると、その交渉の結果が少しだけ気になりますね。ないとは思いますが、ネルハリと同様に異国の手助け、今回で言えば癒し手の勧誘に行っていると言う可能性も残されていますし」
冷静なシシハルドは、侍女のサリハしかいないキャスカが堂々と王位継承の争いに参加すると公言した事に違和感を覚えており、その理由は誰がどう見ても二人だけ、それも全く戦闘能力のないキャスカを含めて二人しかいない状態では魔王モラルを討伐するどころか、ダンジョンに侵入する事すら危険だからだ。
結果、自分が得ていない何らかの情報によってハミュレットが交渉しに行ったのか、はたまた今迄のハミュレットの行動、キャスカを始末しようとしていた事も含めて作戦の内であり、実際には早い段階で二人の王女は手を組んでいたのか……頭の回転が速いだけあって通常では思い至らない余計な事まで選択肢として浮かび上がってしまう。
「冷静に考えれば、あれだけ苛烈な攻撃を受けて未だに生存しているキャスカ……裏でハミュレットが助けていたと考えるのが普通ですかね?」
元から手を組んでいたのであれば、キャスカと共闘する為に自らの騎士を派遣した事に対して納得できてしまう。
「何れにしても、交渉……いいえ、キャスカをシナバラス王国に戻すための護衛かもしれませんが、もう少し情報が必要ですね。今の所ダンジョンに潜るのは猪突猛進のバカだけですから、まだまだ時間はたっぷりあります。焦らずに慎重に情報を集めてください」
「承知しました」
その数日後には、どの陣営よりも早く第一王子ミハイルの部隊が総出でダンジョンに正式に侵攻したとの情報を得ていたのだが、この情報を聞いても一切焦る事無く冷静でいるシシハルド。
「残念ですね。少しでも戦力を分けていればそこを叩いたのですが……ネルハリの所はネルエを城に残すのは間違いありませんね?」
「はっ。その情報については未だ否定する新たな情報を得ておりませんので、間違いないと思われます。旗を守る為に王城に残すとの事です」
「わかりましたよ。ですが……流石に騎士達が王城内部でネルエと対峙するのも得策ではありませんし、まともにかち合ってはこちらの戦力が無駄に無くなるだけ。どうしますか……」
少しずつ動き始める各陣営だが、直情的であまり裏から小細工する事は得意ではなく、またそのような事をする必要すらないと思っている第一王子ミハイルだけがダンジョンに侵攻している状況となっている。
どの陣営でもこの情報は得ており、当然他の兄弟姉妹から離れた場所にいるキャスカでさえ、イリヤのサブマスターとしての力や同じく教会にいるルビー達からもミハイルの侵入については教えられている。
「いよいよ始まってしまいました」
「そうですね。ですが、どう考えてもイリヤが気に病む事ではありませんよ。それよりも、私はキャスカ様の事が気になります」
未だ王都に旗を取りに行ける状況ではないと判断されており、予定では競合する相手がダンジョンに潜った事を確認する事で安全を担保する事になっていたのだが、今の所ダンジョンに正式に潜り始めたのは第一王子のミハイルのみ。
侵攻されているダンジョン側からの情報である為に疑う余地はなく、全てを知っているキャスカ王女に対してもこの情報を開示しているので、未だにこの教会を出立する事が出来ていない。
「神父様の仰る通りです。キャスカ様は私達の、モラル様の援助も頑なに断られておりますし、余計な事ではあるのですが少し心配になってしまいますね」
キャスカとしては未だに手法は決定していないのだが、他の王族達とは異なって確実に、安全に魔王討伐証明と言う成果を上げる事が出来るので、せめて旗を取りに行くと言う作戦は自らの力、慕ってこの場所まで来てくれたドリンカー達と共に達成したいと考えている。
これ以上の助力を貰うのも申し訳ないと言う気持ちがあるのは確かなのだが、自らの手で何もせずに王位を手に入れても、そこに経験や重みは発生しないと王族ならではの固い決心があり、その心がブレる事は無かった。
方向性は別だが、その強い心を持っているのは第二王子のシシハルドも同じであり、最終的には自らが全ての競合を完全に排除した上で自国だけではなくユガル王国をも支配下に置いて見せると言う確固たる決意を持っている。
「シシハルド様、ネルハリ王女はダンジョンから戻ってまいりました。やはりシシハルド様が予想した通りに、下見だったようです」
「それはそうですよ。あの程度の騎士だけしか引き連れていないのですから。あれだけ苦労して<勇者>パーティーと共闘の契約を結んでいるのに単独で侵攻するわけはないじゃないですか?それに、教会の癒し手の一人も同行する所、騎士だけを帯同させていたと言う事は、本格侵攻ではないと見るのが当然ですよ」
冷静に話しているシシハルドだが、一旦敵と認識すると相当冷酷であると知っている目の前の騎士は、普通であれば温厚に見えるこの態度も相当冷酷だと言う印象しか持つ事ができない。
「それで、不思議な動きをしているハミュレットと良く分からないキャスカはどうですかね?」
ここに第一王子であるミハイルが出てこないのは、あれだけ直情型の男なので今迄得た情報通りに自ら抱えた戦力だけでダンジョンを侵攻する事は間違いないと判断したためで、これ以上新しい有益な情報を得られる事は無いと確信したからだ。
「はっ。ハミュレット王女が派遣した騎士達はユガル王国に向かいましたが、王城には行かずに教会に向かいました」
「……そうですか。キャスカと交渉しに行きましたね。まぁ、何も考えていないあの女らしいと言えばらしいですが、自ら暗殺者を派遣した対象と交渉するとは、厚顔無恥も極まれり……と言った所でしょうか。そうなると、その交渉の結果が少しだけ気になりますね。ないとは思いますが、ネルハリと同様に異国の手助け、今回で言えば癒し手の勧誘に行っていると言う可能性も残されていますし」
冷静なシシハルドは、侍女のサリハしかいないキャスカが堂々と王位継承の争いに参加すると公言した事に違和感を覚えており、その理由は誰がどう見ても二人だけ、それも全く戦闘能力のないキャスカを含めて二人しかいない状態では魔王モラルを討伐するどころか、ダンジョンに侵入する事すら危険だからだ。
結果、自分が得ていない何らかの情報によってハミュレットが交渉しに行ったのか、はたまた今迄のハミュレットの行動、キャスカを始末しようとしていた事も含めて作戦の内であり、実際には早い段階で二人の王女は手を組んでいたのか……頭の回転が速いだけあって通常では思い至らない余計な事まで選択肢として浮かび上がってしまう。
「冷静に考えれば、あれだけ苛烈な攻撃を受けて未だに生存しているキャスカ……裏でハミュレットが助けていたと考えるのが普通ですかね?」
元から手を組んでいたのであれば、キャスカと共闘する為に自らの騎士を派遣した事に対して納得できてしまう。
「何れにしても、交渉……いいえ、キャスカをシナバラス王国に戻すための護衛かもしれませんが、もう少し情報が必要ですね。今の所ダンジョンに潜るのは猪突猛進のバカだけですから、まだまだ時間はたっぷりあります。焦らずに慎重に情報を集めてください」
「承知しました」
その数日後には、どの陣営よりも早く第一王子ミハイルの部隊が総出でダンジョンに正式に侵攻したとの情報を得ていたのだが、この情報を聞いても一切焦る事無く冷静でいるシシハルド。
「残念ですね。少しでも戦力を分けていればそこを叩いたのですが……ネルハリの所はネルエを城に残すのは間違いありませんね?」
「はっ。その情報については未だ否定する新たな情報を得ておりませんので、間違いないと思われます。旗を守る為に王城に残すとの事です」
「わかりましたよ。ですが……流石に騎士達が王城内部でネルエと対峙するのも得策ではありませんし、まともにかち合ってはこちらの戦力が無駄に無くなるだけ。どうしますか……」
少しずつ動き始める各陣営だが、直情的であまり裏から小細工する事は得意ではなく、またそのような事をする必要すらないと思っている第一王子ミハイルだけがダンジョンに侵攻している状況となっている。
どの陣営でもこの情報は得ており、当然他の兄弟姉妹から離れた場所にいるキャスカでさえ、イリヤのサブマスターとしての力や同じく教会にいるルビー達からもミハイルの侵入については教えられている。
「いよいよ始まってしまいました」
「そうですね。ですが、どう考えてもイリヤが気に病む事ではありませんよ。それよりも、私はキャスカ様の事が気になります」
未だ王都に旗を取りに行ける状況ではないと判断されており、予定では競合する相手がダンジョンに潜った事を確認する事で安全を担保する事になっていたのだが、今の所ダンジョンに正式に潜り始めたのは第一王子のミハイルのみ。
侵攻されているダンジョン側からの情報である為に疑う余地はなく、全てを知っているキャスカ王女に対してもこの情報を開示しているので、未だにこの教会を出立する事が出来ていない。
「神父様の仰る通りです。キャスカ様は私達の、モラル様の援助も頑なに断られておりますし、余計な事ではあるのですが少し心配になってしまいますね」
キャスカとしては未だに手法は決定していないのだが、他の王族達とは異なって確実に、安全に魔王討伐証明と言う成果を上げる事が出来るので、せめて旗を取りに行くと言う作戦は自らの力、慕ってこの場所まで来てくれたドリンカー達と共に達成したいと考えている。
これ以上の助力を貰うのも申し訳ないと言う気持ちがあるのは確かなのだが、自らの手で何もせずに王位を手に入れても、そこに経験や重みは発生しないと王族ならではの固い決心があり、その心がブレる事は無かった。
方向性は別だが、その強い心を持っているのは第二王子のシシハルドも同じであり、最終的には自らが全ての競合を完全に排除した上で自国だけではなくユガル王国をも支配下に置いて見せると言う確固たる決意を持っている。
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