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第一章
5-5.
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5-5
「クッソ!」
最後まで、その冷徹で傲慢な態度を崩すことなく退出していった罪人の少女。「どうしても彼女と話がしたいのだ」と訴える彼らの愛し子は、その想い人とともに少女の背を追った。
室内には、やりきれなさと怒りを隠しきれない顔が残される。
「ヴィアンカ・ラスタード、か。聞いていた以上にとんでもない」
年かさの男の嘆息混じりの言葉に、窓際に立つ男がヤレヤレと首をふり、金糸を揺らす。
少女に突き返された書類を確認していた男は、眼鏡のブリッジの位置を直して同意を示す。
「これだけの証拠を突きつけられても全く動揺しない。ある程度は予測していましたが、まさかこれほど手強いとは」
「…これらの証拠の存在を把握していたということはないのか?」
「うーん、それはないと思いますよ。こっちにとっても棚ぼた的な幸運。情報くれた子が機転きかしてくれたおかげですから。手紙の存在は完全に予想外だったはずですよ」
「具体性はなくとも、『ある程度の物証が残っている危険性』は想定して動いていたという可能性はありますね」
「まあ、多分そんなとこ?」
肩をすくめて考えることを放棄した男の声に、壁際で難しい顔をしていた男が呟く。
「…動揺、してなかったか?」
「どういうこと?」
「…手紙読んでただろ。そん時一瞬、表情が動いて…」
「…本当に?」
確かめる言葉に、言った本人も確信は持てない様子で首を振る。
「あー。…いや。アレが動揺だったのかはわかんねえけど。一瞬顔色変えたってか、表情が変わっただろ?その後も、ディノールの顔見て何か考えこんでるみてえだったし」
「えー!本当に?全然わかんなかったんだけど!」
「私も気づきませんでした。ラギアスの目だから気づけたのかもしれません」
単純な戦闘能力では群を抜く男の目は、他者のとらえられない動きをも見る。
「えー?いつもと変わらぬ鉄面皮ぶりだったよ?てか、あれから表情読み取るとか、怖っ!何その執念!どんだけ見てんの!」
「ウッセェよ、バカ」
赤髪の青年が、おどける男に苛立たしげに蹴りを放つ。じゃれあうだけの蹴りに痛みはないが、蹴られた男は大袈裟に飛びのいて逃げる。
「何にせよさ、こんだけ頭数揃えて、おまけにちょこっと魔力もこめて威圧してやったってのに。顔色一つ変えないのは、やっぱり化け物」
その言葉に、場を取り仕切る男が嘆息し、決定をくだす。
「…何もなかったと主張しても、サリアリア嬢の誘拐は彼女の女性としての名誉を地に落とす。絶対に表沙汰にはできん。言葉は悪いが、脅してでもラスタードの自白は必要だった。残念だが、これで手打ちにするしかない」
「これ以上は下手に刺激して噂にでもなったらまずいからね。落とせなかった僕らの負け」
「…『負け』と言うなら、サリアリアを連れてかれた時点で俺らの負けだろ…」
男たちの顔に苦々しさが浮かぶ。
「次の手を考えましょう。サリアリアに、犯罪行為にまで手を出す女を近づけたくありません。最速で排除したい」
「…ホントに目障りだぜ、クソ女」
張り巡らしたはずの糸を、容易く食い破り抜け出していった少女。その背を追ったまま、未だ戻らぬ少女を思う。傷ついて欲しくない、守りたいと願う彼女は、そんな彼らの思惑も飛び越えて、いつでも強く、誇り高くあろうとする。
まるで、彼らが憧れ続ける、かつての英雄のように―
「クッソ!」
最後まで、その冷徹で傲慢な態度を崩すことなく退出していった罪人の少女。「どうしても彼女と話がしたいのだ」と訴える彼らの愛し子は、その想い人とともに少女の背を追った。
室内には、やりきれなさと怒りを隠しきれない顔が残される。
「ヴィアンカ・ラスタード、か。聞いていた以上にとんでもない」
年かさの男の嘆息混じりの言葉に、窓際に立つ男がヤレヤレと首をふり、金糸を揺らす。
少女に突き返された書類を確認していた男は、眼鏡のブリッジの位置を直して同意を示す。
「これだけの証拠を突きつけられても全く動揺しない。ある程度は予測していましたが、まさかこれほど手強いとは」
「…これらの証拠の存在を把握していたということはないのか?」
「うーん、それはないと思いますよ。こっちにとっても棚ぼた的な幸運。情報くれた子が機転きかしてくれたおかげですから。手紙の存在は完全に予想外だったはずですよ」
「具体性はなくとも、『ある程度の物証が残っている危険性』は想定して動いていたという可能性はありますね」
「まあ、多分そんなとこ?」
肩をすくめて考えることを放棄した男の声に、壁際で難しい顔をしていた男が呟く。
「…動揺、してなかったか?」
「どういうこと?」
「…手紙読んでただろ。そん時一瞬、表情が動いて…」
「…本当に?」
確かめる言葉に、言った本人も確信は持てない様子で首を振る。
「あー。…いや。アレが動揺だったのかはわかんねえけど。一瞬顔色変えたってか、表情が変わっただろ?その後も、ディノールの顔見て何か考えこんでるみてえだったし」
「えー!本当に?全然わかんなかったんだけど!」
「私も気づきませんでした。ラギアスの目だから気づけたのかもしれません」
単純な戦闘能力では群を抜く男の目は、他者のとらえられない動きをも見る。
「えー?いつもと変わらぬ鉄面皮ぶりだったよ?てか、あれから表情読み取るとか、怖っ!何その執念!どんだけ見てんの!」
「ウッセェよ、バカ」
赤髪の青年が、おどける男に苛立たしげに蹴りを放つ。じゃれあうだけの蹴りに痛みはないが、蹴られた男は大袈裟に飛びのいて逃げる。
「何にせよさ、こんだけ頭数揃えて、おまけにちょこっと魔力もこめて威圧してやったってのに。顔色一つ変えないのは、やっぱり化け物」
その言葉に、場を取り仕切る男が嘆息し、決定をくだす。
「…何もなかったと主張しても、サリアリア嬢の誘拐は彼女の女性としての名誉を地に落とす。絶対に表沙汰にはできん。言葉は悪いが、脅してでもラスタードの自白は必要だった。残念だが、これで手打ちにするしかない」
「これ以上は下手に刺激して噂にでもなったらまずいからね。落とせなかった僕らの負け」
「…『負け』と言うなら、サリアリアを連れてかれた時点で俺らの負けだろ…」
男たちの顔に苦々しさが浮かぶ。
「次の手を考えましょう。サリアリアに、犯罪行為にまで手を出す女を近づけたくありません。最速で排除したい」
「…ホントに目障りだぜ、クソ女」
張り巡らしたはずの糸を、容易く食い破り抜け出していった少女。その背を追ったまま、未だ戻らぬ少女を思う。傷ついて欲しくない、守りたいと願う彼女は、そんな彼らの思惑も飛び越えて、いつでも強く、誇り高くあろうとする。
まるで、彼らが憧れ続ける、かつての英雄のように―
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