召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第四章 聖都への帰還と決意

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3.

早朝、日が登りきる前に感じ取ったのは、殺気だった人の気配、しかも、かなりの人数。

ここ最近はそれが常となってしまっていた、トーコの部屋の前での睡眠。こちらを覚醒させるほどの殺気は店の外からで、複数で店を囲もうとしているのが感じられる。

―恐らく、これは、神殿の

再びトーコを奪いに来たのであろう連中に、だが二度と、彼女を渡すつもりはない。

トーコの部屋の扉を叩く。

「トーコ、起きろ」

「ヴォルフ?」

「神殿のやつらが来た。お前を連れていくつもりだろう」

「…」

沈黙したトーコに問いかける。

「どうする?逃げるか?」

「…ううん、ありがとう。大丈夫、逃げないよ。着替えるから、待ってて欲しい」

「…わかった」

返事を返したところで、どうやら、神殿騎士達の一部が店の中に入り込んだらしく、にわかに、下の階が慌ただしくなる。店の者と揉めている様子に、やつらがトーコの元へ上がってくるのを阻止するため、階段を下りた。

下りた先には、店の男達と対峙する予想通りの神殿騎士の姿。数は十人余り。騎士達の中には見覚えのある者も居て、あちらでも何人かがこちらに気づいた様子を見せる。その騎士達を割って、一人の男が進み出て来た。

「…なるほど、お前がここに居るということは、やはり巫女様はこちらにいらっしゃるのだな。どちらにおられる?直ぐにお連れしろ」

「…」

神殿の長である男の言葉、己が否定したはずの『巫女』を、再び捕らえに来たことは間違いなさそうだ。

「こんな、ごみ溜めのような場所に巫女様が…」

男が不快な眼差しで、周囲を一瞥した。

「お前は巫女様のお側にありながら、一体何をしていたのだ?」

「…彼女は、巫女ではない。神殿が、そう判断を下したはずだ」

「っ!」

己の言葉に苛立ちの表情を浮かべた男だったが、一瞬でその表情を消す。

「…彼女は『巫女様』だ。数日前、ここ周辺において、瘴気濃度の急激な低下が観測されている。その様な御業みわざをなせるのは、巫女様をおいて他にはない」

「…それで、また彼女を連れ去りに来たというわけか」

「お迎えにあがったのだ。お前のようなゴロツキ、ましてやこのような場所に巫女様を囲うような輩から、巫女様をお救いするためにな」

男の合図で、騎士達が動く。古代遺物アーティファクトで武装を固めた相手、それもこれだけの人数では、流石に無傷というわけにはいかないだろう。が、それでも、トーコの逃げ道を作ることは出来る。

背後、先ほど下りてきた階段の方から近づく気配がある。

もしも、トーコが望んだ、その時は―

血路を開く覚悟を決めて、背後を振り仰いだ。そこに、階段を下りてくるトーコの姿を認める。

―やはり、顔色が良くない

久方ぶり、陽射しの中でその姿を目にしたトーコは、ベールを外していた。




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