召喚巫女の憂鬱

リコピン

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第四章 聖都への帰還と決意

9.

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9.

ナハトと話をした後、直ぐに神殿へと戻った。彼が拒絶した以上、守護石の使い道は自ずと決まる。

巫女の間の奥に保管されている守護石は一つ。その一つを手にするために巫女の間へと向かい、勝手に中へ入ろうとしたところで警備の騎士に止められた。

巫女である私はともかく、ヴォルフの入室は認められないという彼らの言葉を―極力、ヴォルフの側に居たいから―無視して、強行突破を試みようとすれば、意外にも、彼らはあっさりと引いてしまった。

ヴォルフに力で敵わないと判断したのか、或いは、私の巫女としての力を既に知っていたか。

接触を、避けられたのかもしれない―

それが、守護石を持たない普通の人の反応だろうと分かってはいる。

「トーコ?どうした?」

「…ううん、何でもない」

巫女の間の奥、台座の上に置かれていた守護石を前に、つい考え込んでしまっていた。ヴォルフの声に改めて、目の前の石を眺める。

石と言っても、ガラスのように透明で、大きさも正にビー玉程度しかないこれが、世界を救うためのシステムの一部。

「…守護石って、元は巫女のために作られたものだったんだって」

「…」

「瘴気を取り込んだ巫女が、守護石を使って体内の瘴気を浄化する。元は巫女一人で浄化の全てを担ってたみたい」

けれど、それでは巫女の負担があまりにも大きすぎた。巫女が短命で亡くなることが続き、当時、辛うじて残っていた古代技術によって、巫女の外に出された浄化機能の一部。それが守護石、それを作動させるための守護者―

「守護石を他の人間が宿すとしても、元は巫女のために作られたものだから、巫女との相性が良くないと拒絶反応で命を落とすこともあって」

「…守護者となるのに、条件があるのか?」

「うん。ナハトに瘴気が移った時に、淀みなく流れて行ったのがわかった。彼は歴代巫女の誰かの血をひいているんじゃないかな。それで、巫女との相性が良かったんだと思う」

だからと言って、相性を確かめるために一々相手に触れていれば、多くの人が瘴気に侵されてしまう。下手をすれば、ナハトだってそのまま死んでしまう可能性もあったのだ。事実、過去には守護者選定のために少なくない命が失われている。

「…だから、守護者という役目は世襲制なんだと思う」

「ナハトを守護者にすることは、実際に可能だったのか?」

「うん。一応、儀式みたいなのはあるけど、巫女と守護者になる人、それに守護石があれば、新しく守護者を増やすことはできるよ」

ただ―

「…本当なら、守護石は体内に流れ込む瘴気の量を調整する役目もあるの。大量の瘴気を一度に浄化は出来ないから」

その安全弁の無かったナハトは、一度に多くの瘴気を取り込みすぎた。

「ナハトが守護者になれば、少しずつ体内の瘴気を浄化することは出来た。だけど、既に弱ってしまっていた体までは完全に治らなかったかもしれない」

それでも、命を落とすことは防げただろう―

その可能性も、今、私がこの場で潰すことになる。覚悟を決めて、台座に置かれた守護石に手を伸ばす。

「っ!?トーコ!?」

手にした守護石を口の中に放り込んだ。手にした時には確かに『石』の硬さを持っていたそれは、口の中に入れた途端、綿飴のように溶けて無くなる。

焦った様子のヴォルフに肩を掴まれ、不安げな表情で覗き込まれた。それに大丈夫だとうなずいてみせる。

「…体に負担は無いのか?」

「一つくらいなら、大した負担にはならないから、平気。これで少しは自分でも瘴気を浄化できるようになるから」

「…」

その視線は、私の『平気』という言葉を疑っているようにも、単に私の身を案じてくれているようにも見える。

「出来るだけ体内の瘴気を浄化してから、今回の発生源を祓おうと思ってる。ヴォルフには、一緒に来て、私を守って欲しい」

「…わかった」

瘴気の危険だけで言えば、私の側に居てもらうのが一番安全なことは確か。

―俺は、お前に頼って欲しい

後は、かつてヴォルフからもらった言葉。冒険者としてのヴォルフの強さを信じて、彼を頼ることにする。

そして―

瘴気を浄化するために。あと一つ、やらなければいけないこと。

「トーコ?」

「…何でもない」

ヴォルフだけを見る。彼のことだけを考えて、憂鬱になりそうな気持ちを無理矢理、立て直した。




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