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第1部 第2章 情熱の美少女追放職人 -古剣修復-

第11話 やるんだ、最後まで

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「賊め。我が愛剣を返さねば、屍となって世をさまようことになるぞ」

「もちろん返すとも。今はダメなだけだ」

「黙れ、今すぐ返せ!」

 おれは再び吹き飛ばされた。

 霊気による衝撃波だ。目にも見えないから、回避しようがない。

 鎧の亀裂が広がる。口の中で血の味がする。

 構わず立ち上がる。

「そうはいかない。あなたには、新品同様の剣を受け取って帰ってもらう」

「なんだと、なにを言っている」

「ボロボロの剣を見て自分のじゃないと言ったそうじゃないか。でも剣は気配を辿った先にあっただろう? あれは間違いなくあなたの剣だ」

「バカな、そんなはずがない」

「信じられないのも無理はないさ。だから信じられるように、修復作業をしてるんだ」

「修復だと……貴様、私の愛剣に手を加えているのか!」

「そうとも! ぴかぴかにして返してやる!」

「やめろ! やめさせろ! 私の愛剣に触るな!」

 再び衝撃波が飛んでくる。

 回避はできないが、今度は両手を交差し、足を踏ん張って防御した。

 手甲の装甲片が数枚吹き飛ばされる。

 おれはゴーストを睨みつける。

「黙って待っててくれないか。もう少しで作業が終わるんだ」

「邪魔だ、どけ!」

 ひときわ強力な衝撃波。

 防御姿勢の甲斐なく、おれはまたも地面に転がされる。

 両手の手甲は完全に破壊され、鎧も亀裂が広がる。留め金も外れかけている。

 こちらが倒されるたびに、ゴーストは鍛冶屋に接近してきている。

 このままでは鍛冶屋に突入される。ソフィアたちの命も危ない。

 作業中断を伝えて、今晩のところは逃げに徹するべきか?

 判断を下す前に、ゴーストはおれの体を持ち上げ、放り投げた。

 数秒の浮遊感のあと、背中から鍛冶屋の玄関に突っ込む。

 木の扉が砕け、おれは木片とともに店内へ投げ出された。

 背中を強く打ち付けられ、痛みと痺れに全身の自由が奪われる。呼吸も上手くできない。

「うわあ、旦那ぁ!」

 驚いて声を上げたのは鍛冶屋の店主だ。

 もはや考える暇はない。

「早く、逃げ――」

 作業場へ叫ぼうとしたとき、ソフィアの様子が目に入った。

 おれを気にしつつも、決して逃げずに作業を続けている。

 真剣な眼差しで、冷たい金属に、繊細な技と、熱い情熱を注いでいる。

 綺麗だ。

 素直にそう思った。

 そんな場合ではないのはわかっていたけれど、ソフィアのひたむきな姿がとても美しくて、おれは視線を逸らせなくなった。

「旦那! やつが、ゴーストが、来る! 来てる!」

 鍛冶屋の怯えた声がなければ、ゴーストが迫っているのにすら気づかなかった。

「ソフィア」

「……はい」

「やるんだ、最後まで」

「はい!」

 冒険者として、おれは「逃げろ」と言うべきだった。

 でももういい。どうせ冒険者シオンは死んでいる。

 この上、職人の魂まで死なせるわけにはいかない。

 おれはもう一度立ち上がり、鍛冶屋の前の路地でゴーストと対峙する。

「しつこいやつだ」

「――がっ!?」

 ゴーストは凄まじい速度で接近すると、おれの首を掴んで体を持ち上げた。

 苦しい。息ができない。

 引き剥がそうとするが、こちらは触れることができない。いくら暴れても、振りほどけない。

 せめて、睨みつける。

「……なぜだ?」

 やがてゴーストは静かに問いかけてきた。

「なぜ逃げようとしなかった? 修復したとて、私が認めなければ貴様らは皆殺しだ。不確かなものに、なぜ命まで懸けられる?」

 返事をさせるためか、首の拘束が緩む。

「あなたと、同じはずだ」

「なに?」

「あなただって生前は、その鎧に――ひいては作った職人の腕に、命を預けていたはずだ。職人を信頼していた。そうだろう? おれと同じだ」

「……そうか。貴様も、信じているのか。ならば待ってやろう。ただし!」

 ゴーストの腕が、おれの左手首を薙いだ。

 鋭い痛みが走り、傷口から血が滴り落ちていく。

「貴様が失血死するまでの間だけだ。夜明けまでは持つまいが、それでいいな」

「いいとも」

 おれは一言了承して、全身の力を抜いた。ゴーストの腕に身を委ねる。

 そのうちおれは、疲労からか、出血からか、それとも空中に留められている不思議な心地よさからか、微睡んでしまう。

「この状況でうたた寝するとは、なんてやつだ……」

 そんなぼやきを聞いてから、どれくらい経ったか。

「――お待たせしました」

 落ち着きのある声に目を開けると、ソフィアが歩み寄ってきていた。

 完成した剣を、両手で抱えて。
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