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第2部 第1章 可憐な王女 -新素材繊維-
第94話 みんなと家族になるような
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「我が娘サフランに花を持たせてくれたこと、感謝するぞ」
セレスタン王は、演奏の合間に声をかけてきてくれた。
「花を持たせたなんてとんでもない。サフラン様の発想が無ければ、今回の新素材生地は本当に生まれませんでした。彼女は花そのものです。素晴らしい才能をお持ちですよ」
「しかし余も、余の家族も、その才能に気づけず、伸ばしてやれなかった。娘が世話になったこと、王ではなく父として改めて感謝する。懇意にしてやってくれ」
「もちろんです。不敬かもしれませんが、妹ができたようで嬉しく思っております」
「嬉しいことを言ってくれるものだが……。ときにショウよ、サフランからの求婚は断ったそうだな?」
「はい。サフラン様にはまだお早いと思いまして」
「余も同意見だが、お前を息子と呼ぶ未来もあったかと思うと少々残念だ」
「お戯れを」
「本気だ。ふふふっ、余もお前のような息子がいれば心強いことこの上ないと思っておるぞ。サフランが成長し、本人にまだその気があったなら、今度は余から縁談を申し込もう」
「それは勿体なきお言葉ですが……」
「気が進まぬか?」
おれが返答に詰まると、王は小さなため息を漏らした。
「ショウよ、一夫多妻は我が国の貴族の義務だ。最低でも三人は妻を持ってもらわねばならぬのに、お前は縁談を断ってばかりだとか。それではいずれ、余も領地没収を考えねばならぬぞ」
「それは、存じておりますが……」
「悩んでいるなら、ひとりくらいは余が世話しよう。サフランではないが」
「いえ、陛下。それには及びません」
「そう言うな。お前がはっきりした態度を取らぬから、数多くの縁談に苦労するのだ。三人の妻を娶った上でなら、断るのも容易かろう。それに余が推薦する者は、きっとお前も気に入る」
王に言われては無下にはできない。
おれは断る口実があるか考えつつも、話を聞くことにする。
「どんな女性なのでしょう?」
「見目麗しいことは言うに及ばず。少々真面目過ぎるきらいがあるが、内心は年頃の乙女でな。先ほどお前の手を取り踊っていたときなど、恋心が透けて見えるようであったぞ」
「おれと踊った?」
今日は何人もの初対面の女性とダンスを共にしたが、そんな相手がいた印象はない。
「うむ。苦労ばかりしてきたが、一切不平を漏らさず、ただ故郷を想って邁進してきたその心根はまさに騎士の中の騎士……。しかし早くに両親を亡くしていてな。不憫に思うゆえ、良き伴侶と幸せになって欲しいと願っている」
さすがにそこまで言われたら、ピンときてしまう。
「陛下……その女性というのは……」
「無論、アリシア・ガルベージのこと」
王は、ソフィアたちと談笑しているアリシアのもとへ歩を進めた。
「たった今、ショウの妻にアリシア、お前を推したぞ」
「!?!?」
アリシアは言葉にならない声を上げ、顔を真っ赤にした。
「どうだ、アリシア。余の推薦による縁談であるが」
「へ、陛下のご推薦ならば……断る理由はございませんが……」
ノエルが跳ねるような動きで、アリシアの後ろから肩に手を添える。
「口実ができて良かったじゃんアリシア~♪ 陛下、この子ね、アタシやソフィアに遠慮して素直になれずにいたの。推薦してくれて、本当にありがとうございます!」
「これでもう、本心を偽ることはありません。恋する乙女のアリシアさんでいいのです」
ソフィアもどこか楽しげに口にする。
おれが王の後ろから顔を出すと、アリシアは赤くした顔を伏せてしまう。
「ショウは、私などでいいのだろうか?」
「……もちろんだよ。君の魅力は、よく知ってるつもりだ」
「では……その……よ、よろしく頼む……」
顔を上げて言うと、アリシアはすぐ目を逸らしてしまう。
「うん、よろしく」
するとノエルが、すすすっ、とおれの隣に移動してきて肩を触れさせた。
「それで~、アタシは~? ずっと待ってるんだけど~?」
「そうだね。遅くなっちゃったけど……ノエル、君もおれと結婚して欲しい」
「もっちろん♪ えへへ~♪」
そのまま抱きつきてきた。おれは照れ隠しに笑みを浮かべる。
「でも、なんだか……いけないことをしてる気分だ……」
妻の目の前で愛人を作るような後ろめたさがある。
「気にしないでください。この国の貴族では当たり前のことですから。浮気とかではなく、みんなと家族になるような感覚で良いそうです」
ソフィアの言葉に、国王が補足を入れてくれる。
「うむ。それゆえ妻同士でも良好な関係が作れる者が望ましい。その点、お前たちなら問題なさそうだ」
「はい。これでわたしたちは家族……。また姉妹が増えたようで嬉しいです」
姉妹と聞いてノエルも笑う。
「姉妹……うん、アタシも嬉しい! ちなみにソフィア、アタシはどっち?」
「ノエルさんは、なんでも相談できる頼れるお姉ちゃんです」
「わぁ♪ お姉ちゃんっていい響き♪」
「私はどちらだろう?」
アリシアが聞くと、ソフィアとノエルは顔を見合わせて頷いた。
「妹よね?」
「はい、妹です」
「な、なぜ!? わ、私はふたりより歳上なのだが?」
「だってねぇ~?」
「はい。本当は甘えん坊さんなのに、背伸びして頑張っている様子がとても可愛いらしいものですから」
「あ、それはおれもわかる。あと、恋愛観が妙に少女っぽいっていうか……」
「や、やめろぉ。それを持ち出すなぁ」
おれたちは、陽だまりにいるような温かい気持ちで笑顔を咲かせた。
そうしてパーティを最後まで楽しんだ帰り際。
サフラン王女との挨拶も済ませたところ、セレスタン王が告げた。
「近々、お前たちに仕事を頼むことになる」
「仕事?」
「極秘裏に来訪される、重要人物との会談に同席してもらう」
「おれたちに頼むということは、つまり」
「うむ。物作りだ」
それを聞いて、おれたちに断る理由はなかった。
セレスタン王は、演奏の合間に声をかけてきてくれた。
「花を持たせたなんてとんでもない。サフラン様の発想が無ければ、今回の新素材生地は本当に生まれませんでした。彼女は花そのものです。素晴らしい才能をお持ちですよ」
「しかし余も、余の家族も、その才能に気づけず、伸ばしてやれなかった。娘が世話になったこと、王ではなく父として改めて感謝する。懇意にしてやってくれ」
「もちろんです。不敬かもしれませんが、妹ができたようで嬉しく思っております」
「嬉しいことを言ってくれるものだが……。ときにショウよ、サフランからの求婚は断ったそうだな?」
「はい。サフラン様にはまだお早いと思いまして」
「余も同意見だが、お前を息子と呼ぶ未来もあったかと思うと少々残念だ」
「お戯れを」
「本気だ。ふふふっ、余もお前のような息子がいれば心強いことこの上ないと思っておるぞ。サフランが成長し、本人にまだその気があったなら、今度は余から縁談を申し込もう」
「それは勿体なきお言葉ですが……」
「気が進まぬか?」
おれが返答に詰まると、王は小さなため息を漏らした。
「ショウよ、一夫多妻は我が国の貴族の義務だ。最低でも三人は妻を持ってもらわねばならぬのに、お前は縁談を断ってばかりだとか。それではいずれ、余も領地没収を考えねばならぬぞ」
「それは、存じておりますが……」
「悩んでいるなら、ひとりくらいは余が世話しよう。サフランではないが」
「いえ、陛下。それには及びません」
「そう言うな。お前がはっきりした態度を取らぬから、数多くの縁談に苦労するのだ。三人の妻を娶った上でなら、断るのも容易かろう。それに余が推薦する者は、きっとお前も気に入る」
王に言われては無下にはできない。
おれは断る口実があるか考えつつも、話を聞くことにする。
「どんな女性なのでしょう?」
「見目麗しいことは言うに及ばず。少々真面目過ぎるきらいがあるが、内心は年頃の乙女でな。先ほどお前の手を取り踊っていたときなど、恋心が透けて見えるようであったぞ」
「おれと踊った?」
今日は何人もの初対面の女性とダンスを共にしたが、そんな相手がいた印象はない。
「うむ。苦労ばかりしてきたが、一切不平を漏らさず、ただ故郷を想って邁進してきたその心根はまさに騎士の中の騎士……。しかし早くに両親を亡くしていてな。不憫に思うゆえ、良き伴侶と幸せになって欲しいと願っている」
さすがにそこまで言われたら、ピンときてしまう。
「陛下……その女性というのは……」
「無論、アリシア・ガルベージのこと」
王は、ソフィアたちと談笑しているアリシアのもとへ歩を進めた。
「たった今、ショウの妻にアリシア、お前を推したぞ」
「!?!?」
アリシアは言葉にならない声を上げ、顔を真っ赤にした。
「どうだ、アリシア。余の推薦による縁談であるが」
「へ、陛下のご推薦ならば……断る理由はございませんが……」
ノエルが跳ねるような動きで、アリシアの後ろから肩に手を添える。
「口実ができて良かったじゃんアリシア~♪ 陛下、この子ね、アタシやソフィアに遠慮して素直になれずにいたの。推薦してくれて、本当にありがとうございます!」
「これでもう、本心を偽ることはありません。恋する乙女のアリシアさんでいいのです」
ソフィアもどこか楽しげに口にする。
おれが王の後ろから顔を出すと、アリシアは赤くした顔を伏せてしまう。
「ショウは、私などでいいのだろうか?」
「……もちろんだよ。君の魅力は、よく知ってるつもりだ」
「では……その……よ、よろしく頼む……」
顔を上げて言うと、アリシアはすぐ目を逸らしてしまう。
「うん、よろしく」
するとノエルが、すすすっ、とおれの隣に移動してきて肩を触れさせた。
「それで~、アタシは~? ずっと待ってるんだけど~?」
「そうだね。遅くなっちゃったけど……ノエル、君もおれと結婚して欲しい」
「もっちろん♪ えへへ~♪」
そのまま抱きつきてきた。おれは照れ隠しに笑みを浮かべる。
「でも、なんだか……いけないことをしてる気分だ……」
妻の目の前で愛人を作るような後ろめたさがある。
「気にしないでください。この国の貴族では当たり前のことですから。浮気とかではなく、みんなと家族になるような感覚で良いそうです」
ソフィアの言葉に、国王が補足を入れてくれる。
「うむ。それゆえ妻同士でも良好な関係が作れる者が望ましい。その点、お前たちなら問題なさそうだ」
「はい。これでわたしたちは家族……。また姉妹が増えたようで嬉しいです」
姉妹と聞いてノエルも笑う。
「姉妹……うん、アタシも嬉しい! ちなみにソフィア、アタシはどっち?」
「ノエルさんは、なんでも相談できる頼れるお姉ちゃんです」
「わぁ♪ お姉ちゃんっていい響き♪」
「私はどちらだろう?」
アリシアが聞くと、ソフィアとノエルは顔を見合わせて頷いた。
「妹よね?」
「はい、妹です」
「な、なぜ!? わ、私はふたりより歳上なのだが?」
「だってねぇ~?」
「はい。本当は甘えん坊さんなのに、背伸びして頑張っている様子がとても可愛いらしいものですから」
「あ、それはおれもわかる。あと、恋愛観が妙に少女っぽいっていうか……」
「や、やめろぉ。それを持ち出すなぁ」
おれたちは、陽だまりにいるような温かい気持ちで笑顔を咲かせた。
そうしてパーティを最後まで楽しんだ帰り際。
サフラン王女との挨拶も済ませたところ、セレスタン王が告げた。
「近々、お前たちに仕事を頼むことになる」
「仕事?」
「極秘裏に来訪される、重要人物との会談に同席してもらう」
「おれたちに頼むということは、つまり」
「うむ。物作りだ」
それを聞いて、おれたちに断る理由はなかった。
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