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第2章 王立ロンデルネス修道学園
正史編⑥ 嘘の友達
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――これは、本来の歴史の物語。
◇
アリアが病床にあるのは、ある生徒が原因だった。
その女生徒は、アリアと一緒に学期試験対策の特訓がしたいと言い出した。
学園生活に慣れてきたことや、エミリーが一般教養を教えてくれたことで、放浪生活とは違い、警戒心と猜疑心で身を守らなくてもいいのだと、アリアは認識を改めつつあった。
そんな折に、初めて学園で友達ができるかもしれなかった。
エミリーに距離を置かれていたアリアにとって、その申し出は本当に嬉しかった。以前のように感情を表に出すのはまだ怖かったが、それでも人と関わりたかった。
本来のアリア自身を、優しき日々を、取り戻していけるかもしれない。
そこにあるのが、善意や好意であったなら……。
特訓の初日、その女子生徒は馴れ馴れしく言ってきた。
「模擬戦の相手をお願いしたいの。私は魔法使うけど、いいよね?」
「うん。いいよ」
「あと、アリアさん、強すぎるから手加減して欲しいの。お願い」
「いいよ。手加減するね」
実力差は明らかだ。初めからそうするつもりだった。
アリアはすべての攻撃を寸止めで相手をしてやった。
一方、相手は水や冷気を操る魔法の使い手で、容赦なく連発してくる。動きも相手の実力に合わせていたので、何発か直撃を食らうこともあった。
ダメージなど無きに等しかったが、制服はびしょ濡れだった。そこに冷気の魔法で、体温をひどく奪われる。
「ちょっと待って。寒い。着替えさせて」
「まだまだ始まったばかりでしょ。もっと頑張ろうよ!」
継続を強く希望され、アリアは断れなくなった。
制服の一部が凍りつくほどの寒さの中、寮の門限まで付き合ったのである。
「ありがとう、アリアさん! また明日もお願いね!」
「う、うん……。また明日……」
アリアは寒さでぶるぶると震え、唇も紫色になっていた。
その様子を、訓練場にいた他の女生徒はくすくすと笑って見ていた。
なにがおかしいのだろう? アリアにはわからない。
けれど、以前の生活では、弟や友達との交流を見て、周りのみんなもよく笑ってくれていた。きっと、それと同じなのだと思う。
笑い方が違うのは、きっと貴族だからだ。ああいう笑い方が、上品なのかもしれない。
もっと仲良くできれば、きっと、もっと近くで、一緒に笑い合える。
エミリーだけは笑わず、つらそうな顔をしていたのが気になったけれど……。
アリアひとりだけが凍える特訓は、何日も続いた。次第にアリアの体調は悪くなっていった。
「試験はもうすぐなんだよ。休んでる時間なんてないよ!」
そう言われては、アリアも休むわけにはいかなかった。実力差がありすぎて、アリアにはまったく学ぶところのない特訓であったとしても。
向上心のある友達のためなら、少しくらい無理をしていい。
けれど、いよいよ試験の前日。
「きゃー、アリアさんが倒れちゃったあ~。誰かぁ、助けてくださぁーい」
そうしてアリアは、寮に運び込まれて今に至る。
悪夢の中でも、今このときも、ひとりぼっち。
つらくて、心細くて、不安で不安で、たまらない。
けれど、きっと治れば違う。
一緒にいてくれた友達がきっと待ってる。一緒に試験を受けるのだ。もう、ひとりぼっちではなくなるのだから。
アリアはそれを支えに回復に専念し、翌朝には復調した。
だが試験当日の朝、アリアの復帰を目の当たりにしたその女子生徒は、舌打ちをした。
「なに、もう治ったの。回復力まで化物並みなのね」
その声色に、今までの友好的な雰囲気はなかった。
そこにあったのは、これまで学園内で散々向けられてきた悪意だった。
「試験休めばよかったのに。そしたらあなた無しで気分よく挑めたのに」
アリアはすぐには信じられなかったが、本人の言葉もあって、やがて理解した。
その女子生徒は――いや、他のみんなも、自分が邪魔だったのだ。
喪失感に、アリアは声も出せなくなった。
試験は問題なく済んだが、アリアの気持ちが晴れるわけがない。
「……どうして?」
たったひとり。学舎裏で、星のない夜空に呟く。
「どうしてわたし、ひとりぼっちになっちゃったんだろう……?」
空から答えは降ってこない。
だからアリアは自分なりに答えを出す。
つらい日々の始まりを思えば、すぐに分かった。
「……そっか。わたしのそばにいたら、みんな死んじゃうからだ……」
きっと、みんなが言うように、わたしが化物だから。魔族を殺すための化物だから。
その戦いに誰かを巻き込んだら、また死なせてしまう。
だから、わたしはひとりぼっちでいなくちゃいけないんだ。
星の代わりに、涙が流れる。
願いを呟いたとしても、叶うことはない。
◇
アリアが病床にあるのは、ある生徒が原因だった。
その女生徒は、アリアと一緒に学期試験対策の特訓がしたいと言い出した。
学園生活に慣れてきたことや、エミリーが一般教養を教えてくれたことで、放浪生活とは違い、警戒心と猜疑心で身を守らなくてもいいのだと、アリアは認識を改めつつあった。
そんな折に、初めて学園で友達ができるかもしれなかった。
エミリーに距離を置かれていたアリアにとって、その申し出は本当に嬉しかった。以前のように感情を表に出すのはまだ怖かったが、それでも人と関わりたかった。
本来のアリア自身を、優しき日々を、取り戻していけるかもしれない。
そこにあるのが、善意や好意であったなら……。
特訓の初日、その女子生徒は馴れ馴れしく言ってきた。
「模擬戦の相手をお願いしたいの。私は魔法使うけど、いいよね?」
「うん。いいよ」
「あと、アリアさん、強すぎるから手加減して欲しいの。お願い」
「いいよ。手加減するね」
実力差は明らかだ。初めからそうするつもりだった。
アリアはすべての攻撃を寸止めで相手をしてやった。
一方、相手は水や冷気を操る魔法の使い手で、容赦なく連発してくる。動きも相手の実力に合わせていたので、何発か直撃を食らうこともあった。
ダメージなど無きに等しかったが、制服はびしょ濡れだった。そこに冷気の魔法で、体温をひどく奪われる。
「ちょっと待って。寒い。着替えさせて」
「まだまだ始まったばかりでしょ。もっと頑張ろうよ!」
継続を強く希望され、アリアは断れなくなった。
制服の一部が凍りつくほどの寒さの中、寮の門限まで付き合ったのである。
「ありがとう、アリアさん! また明日もお願いね!」
「う、うん……。また明日……」
アリアは寒さでぶるぶると震え、唇も紫色になっていた。
その様子を、訓練場にいた他の女生徒はくすくすと笑って見ていた。
なにがおかしいのだろう? アリアにはわからない。
けれど、以前の生活では、弟や友達との交流を見て、周りのみんなもよく笑ってくれていた。きっと、それと同じなのだと思う。
笑い方が違うのは、きっと貴族だからだ。ああいう笑い方が、上品なのかもしれない。
もっと仲良くできれば、きっと、もっと近くで、一緒に笑い合える。
エミリーだけは笑わず、つらそうな顔をしていたのが気になったけれど……。
アリアひとりだけが凍える特訓は、何日も続いた。次第にアリアの体調は悪くなっていった。
「試験はもうすぐなんだよ。休んでる時間なんてないよ!」
そう言われては、アリアも休むわけにはいかなかった。実力差がありすぎて、アリアにはまったく学ぶところのない特訓であったとしても。
向上心のある友達のためなら、少しくらい無理をしていい。
けれど、いよいよ試験の前日。
「きゃー、アリアさんが倒れちゃったあ~。誰かぁ、助けてくださぁーい」
そうしてアリアは、寮に運び込まれて今に至る。
悪夢の中でも、今このときも、ひとりぼっち。
つらくて、心細くて、不安で不安で、たまらない。
けれど、きっと治れば違う。
一緒にいてくれた友達がきっと待ってる。一緒に試験を受けるのだ。もう、ひとりぼっちではなくなるのだから。
アリアはそれを支えに回復に専念し、翌朝には復調した。
だが試験当日の朝、アリアの復帰を目の当たりにしたその女子生徒は、舌打ちをした。
「なに、もう治ったの。回復力まで化物並みなのね」
その声色に、今までの友好的な雰囲気はなかった。
そこにあったのは、これまで学園内で散々向けられてきた悪意だった。
「試験休めばよかったのに。そしたらあなた無しで気分よく挑めたのに」
アリアはすぐには信じられなかったが、本人の言葉もあって、やがて理解した。
その女子生徒は――いや、他のみんなも、自分が邪魔だったのだ。
喪失感に、アリアは声も出せなくなった。
試験は問題なく済んだが、アリアの気持ちが晴れるわけがない。
「……どうして?」
たったひとり。学舎裏で、星のない夜空に呟く。
「どうしてわたし、ひとりぼっちになっちゃったんだろう……?」
空から答えは降ってこない。
だからアリアは自分なりに答えを出す。
つらい日々の始まりを思えば、すぐに分かった。
「……そっか。わたしのそばにいたら、みんな死んじゃうからだ……」
きっと、みんなが言うように、わたしが化物だから。魔族を殺すための化物だから。
その戦いに誰かを巻き込んだら、また死なせてしまう。
だから、わたしはひとりぼっちでいなくちゃいけないんだ。
星の代わりに、涙が流れる。
願いを呟いたとしても、叶うことはない。
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