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ブックカフェと、新しい選択肢
しおりを挟むシロさんと乗り込んだ観覧車は、大人が四人座ったらギチギチになってしまうくらいの広さだった。
ゆっくりと頂上に登っていく観覧車が風に煽られて少し揺れる。
ひいっと声が出かけて、握りしめた手をただ見つめた。
揺れが大きくなったかと思えば、ポンっと柔らかい手が私の手を包み込む。
隣に座ったシロさんが、太ももがくっつくくらい近寄ってきた。
怖くて震えていた私を見兼ねての行動だろう。
「やっぱ怖かったかぁ」
「シロさん……」
震える声でシロさんの名前を呼べば、ぎゅっと抱きしめられて体温が私に移っていく。
心の奥からポカポカと温まり、少しだけ怖さが薄れる。
少しだけ外を見つめてみれば、青空が近づいていた。
「下見ると怖いから上みな、上、あ、横?」
シロさんの手は相変わらず強く私の手を握りしめてくれている。
そして、安心させるように反対の手は背中を撫でてくれていた。
山の方を見つめれば、立ち並ぶビルが遠ざかっていく。
空の青さが目に染みて、心がぞわりと揺れた。
私こんな遠いとこに来たんだ。
怖かった気持ちが少しだけ落ち着いた。
だから、ちょっとずつ景色を眺めてみる。
ビルの間に、空白地帯を見つけた。
あれが多分、大通公園。
見慣れない街並みは、異物なはずの私にも優しく映る。
体が宙に浮く感覚に慣れ始めた頃、観覧車は頂点にたどり着いたらしく下がり始めていく。
純粋に景色がキレイだなと思った。
キラキラと光を反射するビルに、ところどころに積もった真っ白な雪。
いい街な気がする。
たった二日しかまだ過ごしていないし、観光らしい観光なんて、この観覧車が初めてだけど。
なぜだか、北海道が急に近いものに感じられた。
「キレイ、ですね」
「見れるくらい余裕出てきた?」
「はい、すごく、キレイですね!」
「夜景も良いんだけどね」
シロさんの言葉に脳内で夜景に変換してみる。
確かにすごく、キレイだろうなぁ。
人々の生活してる明かりがビルの窓を彩って、暗闇の中を照らす。
私のこれからの人生が暗闇の中な気がしていたのに、たかだかそんな想像くらいで救われるだなんて我ながら子供っぽい。
でも、それくらいキレイで素敵な風景だった。
観覧車が回り終えて私たちを、ビルの屋上へと下ろす。
ゆっくりと地面を踏みしめれば、まだ宙に浮いてるかのように体がふわふわとした。
「ちょっとカフェとかで、休んでく?」
シロさんの言葉にこくこくと頷いて、お姉ちゃんからの来ていたメッセージの内容を思い出す。
「締めパフェ!」
「締めパフェ……? いやぁ、まだやってない、よ?」
シロさんの反応に何か間違えたのはわかる。
パフェというからには、ちょうどいい時間だと思ったのだけど。
どこかお店の名前なのだろうか。
「締めパフェのお店って基本的に夜だからさ。まぁ締めって言うくらいだしさ?」
「そういうお店なんですか?」
「あ、もしかして締めパフェが何かわかってない感じ?」
シロさんが私の返答に手をポンっと叩いて顔を上げる。
もこもこの毛がどんな行動をしてても可愛く見せるのが正直ずるい。
ちょっとバカにしたような物言いだったのに、あまりイラっとは来なかった。
「知らないです」
「お酒飲んだ後に行く締めの締めだよ。締めラーメンみたいな」
「あぁ、あーなるほど!」
それは確かに、今の時間やってないだろう。
まだお昼もお昼。
夕方にも程遠いような時間だ。
高校を卒業してるとは言え、私が一人で歩いていたら怒られそうだ。
「締めパフェは、夜食べるよ」
「いいんですか」
「いいも何も食べたいんでしょ?」
お姉ちゃんのリストにあったから気になっただけで、心の底から食べたいか、と言われればわからない。
でも気になるのは本当。
だから、答えずに頷く。
シロさんは相変わらずニコニコと私を見つめて手を引いて歩いてくれる。
お姉ちゃんみたいだな、とふと浮かんだ。
そんなことはないのだけど。
「じゃあ、一回休憩挟むよ!」
「はーい」
間延びした返事をすれば、何も言わずにシロさんはノルベサを降っていく。
どこに行くのかは、もうお任せでいいと思った。
私に意思はない。
今はその事実に気づけたから、あまり胸も痛まないし。
選べるお姉ちゃんが羨ましかったくせに、
私に選べるだけの心も好きも今はない。
だから、親に選んでもらったのが正解だったんだ。
そう思い込んで札幌の街並みに溶け込む。
これが最初から正解だったみたい。
お姉ちゃんに会えたら、素直に家に帰ろう。
お母さんの言うことが正しかった、ごめんなさいって。
来ていたメッセージに返せばいいのに、後回しにしてしまうのは、お母さんと向き合うのは過去のことを思い出して怖いからだ。
そして、少しだけチリチリとするこの痛みは、きっと気のせい。
ノルベサを出れば、細い道をシロさんはぐんぐんと曲がりながら進んでいく。
知らなかったけど、札幌の道はまっすぐだ。
札幌も京都のように碁盤の目の形になっているから、住所がわかりやすいとシロさんが言っていた。
ビル一つ一つにも特徴があって、本当にお店が入ってるの? と疑いたくなるような細い形だったり、御伽話に出て来そうなおしゃれなレンガ調だったりさまざまだ。
アーケードの中を通り抜けて、シロさんが一つのビルの前で立ち止まる。
「ここ!」
シロさんが両手を広げて見せつける場所は、ホテルの一階?
本屋さんらしきところだ。
「本屋さん?」
「カフェも併設してるから、はい、入るよ」
私の後ろに回って、シロさんが立ち止まっていた私の背中をぐいぐいと押す。
思いの外強い力で抵抗できずに、入店してしまう。
本の匂いが鼻にふわりと広がって、迎え入れてくれる。
歓迎されてるな、とありえない想像をしてしまった。
まるで、私を待っていたみたいな感じがする。
「旅するんでしょ」
お姉ちゃんに会えたら帰るつもりだった私に、予想外のことをシロさんが言うから。
振り返ってまじまじと見つめてしまう。
「えっ、違うの?」
帰るつもり、とは言葉にしたくなくて飲み込んだ。
ふふっと微笑みだけシロさんに返して、本棚を眺める。
色々な本が並んでいて、詩的に言えば私を呼んでるみたいだ。
「何飲む?」
カフェのメニューを眺めながら、シロさんが指さす。
コーヒーは苦手。
だから、メニューの中に、オレンジジュースを見つけて嬉しくなった。
「オレンジジュース」
「コーヒーは飲めないのね」
「シロさんは?」
「コーヒーにする」
「おっとな~!」
茶化すように返せば、当たり前でしょという表情が返ってくる。
飲み物を受け取って席に座れば、シロさんがホットコーヒーを飲んで一息ついていた。
「本、見てきたら?」
「あんまり最近読んでないんですよね、本」
言葉にしてから、いつからだったけ? と脳内検索。
お姉ちゃんが家を出てった頃くらいだから、
四.五年位前からか。
中学生の頃だからゲームにハマったのもあるかもしれないけど、お姉ちゃんがいなくなったからだと思う。
お姉ちゃんが読書家だったから、お姉ちゃんが読んでいた本を私は読んでた。
それに、お姉ちゃんが「これ面白かったよ」っておすすめしてくれるから、読むようにしていただけで……
自分で読みたいと思って読んだ本はあんまりないかもしれない。
お姉ちゃんは、本だけじゃなくたくさんの経験を私にくれた。
選べない私に、何個も選び取っては「これは?」「これは?」「この人形可愛いと思わない?」と私の意見を聞いていたっけ?
あの頃の私は気づいていなかったけど、あれもお姉ちゃんなりの思いやりだったんだ。
「好きじゃない?」
「どうでしょう」
素直な気持ちだった。
本を読むのは楽しかったし、すごくワクワクもした。
でも、あれが望んでの体験だったかと言えば疑問はつきまとうし、好きと言えるだけの熱量を持ってるわけでもない。
「とりあえず気になるの読んでみたら?」
誰かに選んでもらうわけでもなく、本を手に取るのは初めてだ。
シロさんの提案に頷いて、席から立ち上がって本棚を眺めていく。
北海道出身の作家の特集。
旅人の話。
おすすめの旅。
エッセイ。
色々並んでいるけど、やっぱり何を選べばいいのかわからない。
背表紙を眺めてタイトルを見ても、内容なんてちっとも想像が湧いてこない。
本を読まないうちに、想像が苦手になっているのかもしれないけど。
色とりどりの本が並ぶ本棚を、指でなぞるように通り過ぎていく。
ぴたっと吸い付くように視線が止まった。
まるで私のことみたいなタイトルだと、手に取ってしまう。
表紙は女の子とシロクマが手を繋いで、笑顔で笑っているイラストだった。
私とシロさんみたいだと思って気になった。
それだけだけど、今、この本を読みたい。
自分でそれを選び取れた。
その事実に、満足感が心に広がっていく。
シロさんの元に戻れば、私が選んでるうちにサッと選んだのだろう。
「旅のコピー百選」という本を捲っていた。
「私もゆっくりするから、恵も好きにしていいよ」
シロさんの言葉に甘えてオレンジジュースを飲んでから、ペラペラと本を捲る。
親友も、恋人も、家族も一度に失い絶望の淵でシロクマと出会う女の子。
シロクマと一緒に過ごしていくうちに新しい家族になっていって……というお話だった。
シロさんが私の家族だったらいいのに。
そんな考えが浮かんで、見なかったふりをする。
他人だから、私を尊重して選ばせてくれる。
他人だから、優しくしてくれた。
オレンジジュースをストローで吸い込めば、甘さと酸っぱさに顔を顰める。
今まで飲んできたオレンジジュースよりも味が濃い。
よくよく見てみれば、色も普通のオレンジジュースより濃い気がする。
シロさんはペラペラと本を捲りながらキラキラとした目で、写真を見つめていた。
シロクマだから寒い地域が好きなんだろうか。
こっそり覗き込めば、今開いているページの写真には、雪が降り積もってる。
私の視線に気づいたのか、シロさんが顔を上げて「なに?」と小声で問いかけてきた。
首を横に振って何もないと伝えれば、また真剣な目で写真を見つめる。
好きなことなんだろうな、っていうのがヒシヒシ伝わってきて羨ましい。
落ちた大学だって彼が行くから選んだだけだ。
私が行きたかった、わけじゃないと今更気づいてしまった。
お母さんのあの言葉が頭の中で、私を痛めつける。
ズキンと痛んだ胸を押さえても、脳内のお母さんは言葉を繰り返す。
「だから、あなたは他の大学にしなさいって言ったのに!」
お母さんが選んだ大学も、彼が選んだ大学も、私にとっては変わりない誰かが選んだ大学だ。
お姉ちゃんは自分でやりたいことを見つけて選んだのだろうか。
家から出たいと言う理由だけで、選んだと思っていたけど。
私はお姉ちゃんと、そう言う話をしたことがなかった。
だから、お姉ちゃんは私を置いて逃げたと思い込んでいた。
でも、お姉ちゃんはもしかしてやりたいことがあってここに来たのかな。
だから、帰ってこないの?
だから、私が北海道に来ても知らん顔でどこかに出かけてるの?
……お姉ちゃんと話してみないと答えはわからないけど。
会ってもくれないお姉ちゃんに、冷たい人と一言文句を言ってやりたい気持ちになってしまう。
私への思いやりに気づいた今では感謝の気持ちもあるけども。
一人でぐるぐると、家族のことを考えていれば本から顔を上げたシロさんが小声で話しかけてくる。
手元のコーヒーを一口、ゆっくりと飲み干してから。
「読み終わったの?」
「あ、ちょっと考え事」
「違うのにしてきたら? いっぱい選択肢はあるんだし」
シロさんの言葉に、すーっと爽やかな風が体を通り抜けていく。
この一冊に執着する必要は確かにない。
他にもたくさんの本が並んでいる。
この本が気になったと思っていたけど、内容を読めば読むほど余計なところに頭が行ってしまう。
だったら、本を変えればいいのか。
当たり前のことな気がするのに、私は気づかなかった。
私が自分で選べないと思い込んでるのも、失敗が怖いからもあるかもしれない。
でも、失敗しても他のことを選び直せばいいんだよ、と言われたみたいに感じた。
「うん、変えてきます」
本棚の前に戻って、じっくりと背表紙を眺める。
私は今何を読みたい?
どんな本が好き?
どんな本が好きだったけ?
お姉ちゃんに勧められて読んだミステリーは、面白かったな。
建築を利用したトリックに、心がワクワクした。
建築に関連するお話、あったりしないかな。
本棚をぐるぐると見回してるうちに、お姉ちゃんに勧められたその本を見つけた。
懐かしくなって手に取る。
そのまま席に戻れば、シロさんが私の手元の本を見てちょっとだけ驚いた顔をする。
「それ面白いわよね」
「シロさんも読んだの? 私も読んだけど面白いですよね」
「二回目ってことね、新しい発見があるかもよ」
知ってる話だけど、数年経って読めば感覚も変わるだろうか。
ぺらっと本を捲れば、世界に吸い込まれていく。
「恵?」
シロさんの声に現実に戻れば、どれくらい時間が経ったのだろうか。
窓からはうっすらと夕陽が差し込んでいる。
「集中しすぎてましたね……」
「そんなに面白かったならよかったわね」
ストーリーは意外に覚えていたようで、誰が犯人かも、どんなトリックかも読んでいくうちに思い出した。
二週目だからだろうか、どうしてそんなことをこの登場人物は言ったのか。
あの時はわからなかったのに、今はわかった気がして、読み進めてしまった。
「買って帰る?」
「悩むので、とりあえずやめておきます」
「まぁ、旅先で買うのは重くもなるし」
本を本棚に戻して、シロさんと外に出れば、吹き荒ぶ風はますます冷たさを増していて頬を赤く染め上げていく。
肺の奥に冷えた空気が入り込むのが気持ちいいのは、知らなかった。
深呼吸を何回も繰り返して、私の中の古い空気を、北海道の新しい空気に取り替える。
「ご飯どうしよっか」
「本読んでたら空いちゃいました……ラーメン、とか?」
「よしっ、ラーメンにしよう! みそラーメン?」
「まぁ、せっかく札幌に来たので」
「塩と味噌と醤油ならどれが好きなの。あと豚骨」
豚骨?
札幌なのに? と思って固まる。
シロさんは当たり前のことのように何が好きで、どれがいいのか私に選ばせる。
私は好きも、意思もないのに。
うーんっと唸りながら考えて、よく家族で食べる塩ラーメンを思い出した。
「塩で」
「ちょっと歩くけど歩ける?」
「はい」
「あーでも締めパフェも行きたいんだよね……」
シロさんがぶつぶつと呟きながら、スマホで道順を確かめてる。
帰宅部だけど体力には自信があった。
習い事で体は動かしているし。
「私は大丈夫ですけど、シロさんは大丈夫ですか?」
「慣れてるから大丈夫! じゃあ塩豚骨食べに行こうか」
スタスタと歩き始めたシロさんの鞄のストラップをまた掴んで、はぐれないように進む。
お昼頃にはいなかったスーツ姿の人が増えてきていて、混雑しているように見えた。
すれ違う人たちに、もう嫉妬の念はなぜか湧かない。
私には想像もつかないストーリーがあるのかもしれないと思えたからだろうか。
あのミステリーは私には、ない考え方だった。
昔読んだ時は、全く思わなかったけど。
自分自身を守るためじゃなく、誰かを守りたいがために人を殺す。
それほどの思いはどこから来るのだろう。
「シロさんもあれを読んだんですよね?」
「うん。あれほど思われるってどれだけ幸せなんだろうなぁってちょっと思っちゃったわ」
シロさんは、主人公側ではなく、守られたヒロイン側に感情移入していたらしい。
私とは違う視点で読んでいたことに驚きつつも、シロさんの言葉に喉が詰まる。
私も、それくらい思われていたら、幸せかもしれない。
シロさんも、もしかしたら私と同じで何か、抱えていることがあるのかもしれない。
一度読んだ本だったけど、主人公には尊敬の念を抱いたし、シロさんの視点を聞いて、ますます、他の人への羨ましい気持ちが落ち着いた。
今は、もしかしたらこの人たちも、私の知らない何かを抱えてるのかも、という興味の方が沸いている。
「よそ見してたら迷子なるよ」
「ストラップ掴んでるから」
「喉閉まるのよね、それ」
「嫌でした?」
「別にいいわよ、はぐれないなら」
シロさんはやっぱり優しい。
この優しさは、シロさんが欲しかったものなのか。
それとも、私のことを可愛いと思ってくれてるのか。
両方な気がする。
たった二日一緒に過ごしてるだけなのに。
親友や家族よりも、心が近づいてる気がしてる。
大体十分くらい歩いたところで、少し古めの外観のラーメン屋さんに辿り着いた。
古めかしい外観で、壁には割れ目が残っている。
それでも、店の前には、すでに三名ほど並んでいた。
「少し待つみたいね、メニュー見てましょ」
スマホでシロさんがメニューを表示して私に見せてくれる。
おすすめと書かれたものは特にない。
周りの人たちの選んでるメニューもわからないし……
「塩ラーメンとあと、おにぎり食べる?」
「どうしましょう」
「お腹空いてるなら食べる。空いてないなら食べないでいいじゃない」
あっさりと答えられて、自分のお腹に問いかけてみる。
どれくらい空いてる?
ちょうど答えるようなタイミングで、お腹が動いてぐぅうと鳴った。
空いてるみたいな気がするから、おにぎりも食べよう。
「こってりとあっさりはどっちが好き?」
どっちがと言われれば、わからない。
こってりとあっさりの違いはわからないし、家族で食べるラーメンにはそんな選択肢ない。
「こってりとあっさりって」
「そのまんまよ、こってりが好きならこってり」
脂物を食べた時を想像してみる。
どちらかといえば赤み肉より、カルビや豚トロなどの脂身の方が好きだ。
お父さんはいつも「若いからな」って、世間一般的な人たちに当てはめて私のことを知ったかぶったけど。
若いからというより、私の好みがこってりなのかもしれない。
シロさんもいると自分の知らない自分を知ることが多いな。
回転は早いらしく、前に並んでいた三人がすぐにお店に入っていく。
店員さんに案内されて、私たちの番もすぐに来た。
「で、どっちにするの?」
「こってりで」
「はいはい、じゃあそれで頼みましょ」
店内に入れば、カウンターが十席程度の狭さだった。
入り口付近にある券売機でチケットを購入して店員さんに渡す。
空いた席に座れば、すぐにチャーシューを混ぜ込んだおにぎりが出てくる。
想定していたおにぎりの二倍くらいのサイズに、少しだけ後悔した。
このあとパフェも食べるのに、食べ過ぎかも。
「食べきれなかったら私が食べるわ」
「シロさん食べられるんですか?」
「見た目よりはね」
ぺちぺちとお腹を叩く仕草をして私を笑わせてくる。
後悔が伝わってしまったのかとしれない。
ぱちんっとウィンクまで付けてくれたのは、心配してくれている証だろうか。
それほど待たずに、目の前に塩ラーメンこってりと、シロさんのみそラーメンも並べられる。
塩ラーメンといってこの店に来たのに、シロさんはみそラーメンを頼んでいた。
塩ラーメンのはずなのに、見た目はみそっぽい色をしてる。
違いを挙げるとすれば、シロさんのラーメンの方がちょっと色が濃い?
「みそラーメンも、おいしいの。このお店」
「ふぅーん?」
いただきます、と二人で両手を合わせてあいさつしてからスープを一口。
浮いていた脂がガツンと口の中で暴れて、ちょっぴりの辛さとスープの旨みが溶けていく。
最後に塩味が口の中に残った。
「おいしい、です」
「でしょ、おにぎりもおいしいわよ」
チャーシューのおにぎりにかぶりつけば、ごろっとしたお肉が口の中でほぐれていく。
あまじょっぱく味つけられたチャーシューの脂と味をご飯が包み込んでいて、おいしい。
ラーメンはいつも食べてるものより縮れていて、スープの味を絡めてる気がする。
気がするくらいだけど。
胃の中からポカポカと温まっていって、外の寒さも忘れられる気がした。
麺もおにぎりも、多いかなと思ったのにペロリと食べきれてしまう。
お水を飲み干して、一息つけばシロさんが嬉しそうな顔をする。
「おいしかった?」
「おいしかったです」
私がおいしいと答えるたびに、シロさんが満面の笑みになるのは自分のおすすめが受け入れられたのが嬉しいから、かな。
そんな笑顔に釣られて、私も嬉しい気持ちになってしまった。
「よし、じゃあ締めパフェ行くよ!」
「まだ入るんですか」
「食べたいんでしょ」
お姉ちゃんのおすすめにあったから、たしかに食べたいは食べたい。
でも今日一日だけで、カロリーの摂取量がとんでもない気がする。
「もうむり?」
「食べれます、食べれますけど」
「歩いて消費すればいいのよ!」
「そうですけど」
「せっかく来たんだから、おいしいのいっぱい食べなさい!」
自信満々に言い放って、店員さんに「ごちそうさま~!」と言いながらお店を出ていく。
シロさんのバイタリティについていくだけで、カロリーは消費できる気もしてきた。
せっかくの北海道だもん。
食べちゃえばいいか。
応援ありがとうございます!
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