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1章:癒しを求めたはずが

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「これはそっちの世界でいうと、皮の色が違うがバナナだそうだ」

 そう言って、渡された。キルギスさんはもう一本だすと、バナナと同じように皮を剥いて食べて見せてくれた。

「嫌いでなければ食べていい。ここから詰所までまだかかるし」
「いただきます…」

 確かにすぐ食べられるバナナはありがたいかも。物凄く空腹ではないけど、キャンプ場で火を熾したらカップ麺を食べようと思ってたからね。
 赤い皮を剥いてみれば、中身は本当にバナナそっくりだし、香りも同じ。知らない食べ物を食べるのはどうかとは思ったけど…食べて見せてくれたし毒ではないと思う。
 口にしたらすこし苦みがあったけど、本当にバナナで美味しくいただきました。その間に私のリュックをマジックバックへと収納されました。手に触れていれば、どんな大きさの物も入るらしいけど…

「私のマジックバックは容量としては、この世界では大きい方だね。スキルを持ってない人もいるし、サイズは人によるが大体の人が持っているから珍しい物ではない。この仕事をするには必須なんだけどね」
「そうなんですか?」
「その異界から落ちて来る場所というのが予測つかなくてな。こういう山の中、海上なんかにも常駐しなければいけないんだ」

 物資の輸送が大変、とそういう事らしい。そこまで頻繁にある異世界転移ではないそうだけど、常に巡回して物だろうと人だろうと回収や保護をするのだとか。

「理由とか話してもいいんだが、長くなるし…そろそろ行こうか」

 ちなみにバナナの皮はそのまま山の中へぽい、だそうです。森の栄養になるらしい。誰かが踏んで滑って転ばなければいいなと思ったけど、言わないでおいた。
 …バナナそっくりだけど、その性質まで一緒かどうかわからないし、通じなかったら悲しいからね。



 そうしてたどり着いた場所は、木の柵で覆われたかなりの広さがある場所で。建物もあるけど…しっかりとした石造りだよ…

「キルギスさんおかえりなさーい。って、あれ。もしかして」
「ああ。日本という所からと言っていたからアイツと同郷だと思う」
「へぇ。あ、初めまして。門番その一です。よろしくー」
「え…と、よ、よろしくオネガイシマス…?」

 門番その一って何!?

「ほら、すぐに元の世界に戻る人もいる訳で。覚えるの面倒でしょ?どうせ俺ここにしかいないし」

 だから名前も聞かないでおく。と言って、けらけらと笑う。悪い人じゃないと思うんだけど、ドライというかなんというか。

「もう日も暮れるし、明日街に行こうと思うんだが…女性なのでな。今晩はカミルに任せようと思うんだが…」
「カミルっすか…うーん、調理場か…訓練所にいるんじゃないですかね」

 その門番さんは、ちら、と私をみてからそう言うけど…カミルさんって女性なのかな。日が暮れるって、もうそんな時間なんだ…そういえばこっちの世界は時間とかどうなってるんだろう。日本に戻ったら浦島太郎とかないよね…いや、その前に捜索されるかも。どうしよう。
 と、そんな心配をしつつ、キルギスさんについて来いと言われてついて行く。歩きながら、明日近くの街まで行く事を説明された。一先ず手続きをしたほうがいいという事らしい。日本に帰る場合は、王都へ行かないといけないらしいけど王都へ行くには多少日数が掛かるらしい。…いや、まって。会社とかどうしよう!?本当に浦島太郎状態になりかねないけど、キルギスさんにそんなこと言ってもしょうがないよね。召喚とかで強引に呼ばれた訳じゃないし。
 会社への言い訳を考えておこう。後は…もしクビになっていた場合の再就職先も。
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