社畜さん、ヒモになる〜助けた少女は大富豪の令嬢だった〜

空野進

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 有場君と莉愛が一緒に過ごすようになったのだが、距離感が近すぎるのかなかなか進展がないと使用人達から報告を受けた。

 どうにも有場君が一歩引いた対応をしているみたいだな。
 莉愛の方も異性の男性……との交流がほとんどなかったため距離感を図りかねているようだ。
 ただ、自分を助けてくれた有場君に好意を持っているというのは間違いないようだ。

 存分に甘えているとは報告を受けているので何かきっかけがあったらうまくくっついてくれるのではないだろうか?


「ただ、そのきっかけがなかなかないな……」


 莉愛が他人と付き合うというのは寂しいが、あの嬉しそうな莉愛の笑顔を見てしまったら手を貸すしかない……。
 それに色々と調べる限り有場君は悪い人物ではない。
 むしろ自分の命を差し出してまで莉愛を助けようとしてくれる見所のある人物だ。

 莉愛を任せるならこういう人物に限る。


「でも、そのきっかけか……」


 再びため息を吐いて頭を抱えていた。
 すると扉がノックされる。


「勇吾様、少しよろしいでしょうか?」
「遠山か、大丈夫だ。入るといい」


 背筋をピンと張って、遠山を出迎える。


「どうかした?」
「はっ、実は今度オープンします神楽坂オーシャンパークの件でご提案がありまして――。そこに莉愛様と有場様に視察に行ってもらうのはいかがでしょうか?」
「……それだ!!」


 突然大声を上げたことで遠山は驚きの表情を見せていた。


「すまん、ちょっと声を荒げてしまった。でも、遠山でかしたぞ!」


 莉愛がどこかに出かける……という考えがなかった。昔からあまりどこかに行きたがる子ではなかったからな。


「よし、では早速手配をしてくれたまえ! あとは……そうだな、有場君には仕事といえば引き受けてくれるだろうな」


 カップル向けのあの場所ならきっと良い進展があるはずだ。


「あとは、パークのスタッフに連絡を。莉愛達の行動はビデオで録画しておいてくれ。それでパークの問題点が見つかるはずだからな。できる限りリアルタイムで見ておきたい。段取りの方を頼む」
「かしこまりました。そのことは莉愛様達には?」
「もちろん言うな。できるだけ自然の様子を見て、問題の洗い出しも同時に行っておきたい」
「はっ、かしこまりました」


 ◇

 莉愛達が遊園地へと向かう日、私もまた館の自室でモニターを眺めていた。
 そこに移るのは莉愛達の行動の全て……だったのだが。


「ま、まさかここまで甘い関係だったとは……。これならすぐにでもカップルになってもおかしくないはずだ。おそらく最後に乗る観覧車の中で――」


 顔を赤くせずにはいられないほどに甘い関係だった。
 ここまで嬉しそうな莉愛を見るのは初めてなので嬉しく思うのだが、同時に寂しくもあった。ただ、それ以上にずっと画面を直視しているのが困難なほどだった。

 チラチラと画面を見ては目をそらして……を繰り返していた。

 そして、結局一日何もせずに莉愛達の動向を見守ってしまった。
 ただ、音声が入っていないのが残念だったな。
 でもこの雰囲気だ、きっと二人は付き合い始めてるんだろうな。


 特に最後、莉愛が微笑ましく頬にキスしていたところなんて私ですら赤面してしまった。


 うむ、とってもいいものを見させてもらった。やはり有場君に莉愛のことを任せて正解だったな。
 あとはこのパークの問題点を先ほどの映像から洗い出して、まとめ上げるだけか……。


 まぁ一週間ほどあればできるだろうな。
 そこからの問題解決に向けた動き……。かろうじて間に合うくらいか。
 またしばらくは家に帰ってこられなくなるか……。


 ため息は出てしまうものの、それでも家を有場君に任せられるのはとてもありがたい。

 まぁ、本人は何も仕事をしていないと思ってるようだから、思い悩むかもしれないな。
 それは何か対策の手段を考えるべきか……。

 あとは最近我がグループ内を探ってる怪しい人物……。それについても調べる必要があるな。

 ◇

 翌朝、出かける前に有場君が私の部屋を訪ねてきた。
 一応仕事の名目を使ったら、彼は本当に報告書をまとめてきてしまった。
 私が一週間以内に部下にやらせようとしてた仕事をわずか一晩で……。


 信じられない速度だ。
 かなり無茶をしたはずなのに、それをまるで顔に出した様子はない。


 まぁ、今更問題点もそこまでないだろうし、意外と書かれてることは少ないかもしれないな……。
 そんなことを思いながら報告書を見るとあろうことか、テーブルの位置やベンチの位置、アトラクションの直すべきポイント等事細かに書かれていた。


 大なり小なりの問題点をたった一晩で……。
 たまたまかもしれないが、莉愛の人を見る目は確かだった……ということか……。


 改めて有場君の潜在能力の高さとそれが表に出ていない恐怖を感じてしまう。

 今後彼の力を知ってしまうと他社からの引き抜きがあるかもしれない。
 もしそんなことになってしまったら莉愛が悲しむかもしれない。

 まぁ今の待遇以上出せるところはまずないし、うちを探ってるやつだけ気をつけたら大丈夫そうだな。


 あとは……まさかあれだけいい関係まで持って行きながらまだ付き合っていないとは……。
 何が不満なんだ……?
 もっとしっかりとしたシチュエーションを準備しないといけないか……。


 他の様々な問題よりもこちらの問題の方が解決が難しそうだ頭が痛くなってくる……
 何かもっと大きなきっかけがないとダメだな。
 それこそ有場君が急にいなくなってしまう……と思えるレベルの――。
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