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2.聖女(てした)襲来
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中々部屋が見つからないことに不機嫌になりながら、ユーリはいじめの間に割って入る。
すると、当然のように赤髪の少年が突っかかってくる。
「あぁ、なんだてめー。代わりにやるのか?」
ただ、孤児院でアランドールと対面した時に感じた恐怖に比べると、赤髪の少年の行為は児戯にも等しかった。
だからこそ、ユーリは腕を組みながら悪役らしいポーズをとる。
そして、不敵に笑いながら言う。
「……お前程度のやつがいきがるのか?」
すると、赤髪の少年は顔まで真っ赤にして怒り出す。
「てめー、喧嘩売ってるのか!!」
――よし、いい兆候だ。これであとは手下に押しつけて、勝手に解決させれば終わりだな。
ユーリは心の中でほくそ笑んでいた。
ただ、ここにユーリの手下たる人物はミーアしかいないことをすっかり抜け落ちていた。
もちろんミーアも助けに入る。
入るには入るが、それはユーリの思惑通りには進まなかった。
「ユーリ様に手を出すのは許しませんよ……、へぶっ」
悪役らしく格の違いを見せつけようとしたのだが、全てをミーアが壊してしまう。
途中で足が躓いて、ユーリたちの前に頭から突っ込んで倒れていた。
――せっかくの悪人らしさを見せつけるチャンスだったのだが、どうしてこうなるんだ。
ユーリは思わず額に手を当てる。
ただ、赤髪の少年はミーアの言葉を聞いて、戦々恐々たる態度を取っていた。
「ゆ、ユーリ……? ま、まさかユーリって、ユーリ・ライナ・ウルアースか!?」
「あぁ、そうだ……。それでどうするんだ? 俺の所有物をいじめて、どうなるかわかってるんだろうな?」
カッコ良く悪人らしさを出すことができなかったユーリは、鋭い視線を少年に向けたまま告げる。
すると、赤髪の少年は大慌てで言っていた。
「お、俺……、いえ、私は少し話していただけです。あ、あなた様に喧嘩を売るつもりは毛頭ありません。も、もう用も終わりましたので、失礼します」
軽く頭を下げると、少年は大急ぎで逃げ去っていった。
その様子を見て、最初から最後まで小悪党だったな、と苦笑を浮かべていた。
◇
金髪の少女――アミナ・ライゼンベルグはウルアース王国の弱小貴族の娘だった。
いや、貴族というのもおこがましいかもしれない。金で位を買ったと言われる商人上がり。
そのように言われて周りの貴族たちからは蔑まれていた。
本当ならアミナはこのセントミジュ学園には来たくなかったのだが、親がどうしても行って他の貴族と親しくしてこいと言うものだから、断り切れずにこうして学園へとやってきたのだ。
ただ、ここでも弱小貴族は軽蔑の対象だった。
指を突きつけられ、鼻で笑われ、冷たい視線を送られる。
そして、極めつけは他国の少年に詰め寄られてしまった。
そのきっかけはアミナにあって、急いで部屋を探していたときに、軽くぶつかってしまい、すぐに謝ったのだが、それでも許してもらえずに、怖い顔を向けられて、怯えから身動きが取れなくなってしまったのだ。
――とても、こんな学園で過ごしていけない。今すぐにでも帰りたい。
アミナがそう思ったときに、突然一縷の光が差し込んだ。
少し目つきの悪い少年が突如として間を割って入ってきたのだ。
その少年のことは弱小貴族の子女であるアミナですら知っている。
ユーリ・ライナ・ウルアース。
ウルアース王国第一王子にして、王国の危機を救った英雄であり、神算鬼謀の持ち主。
更には悪事を働く省庁の膿を取り壊すなど、悪を許さないその行動。ユーリこそが絶対の正義であるとまで言われている人物だった。
そんな人物が突然自分を助けに来てくれた。
いや、ユーリとしてはただ悪を見過ごせなかっただけかもしれない。
しかし、それでもいじめられていたアミナからしたら、本当に救世主にしか思えなかった。
白馬の王子様にすら見えていたのだ。
そんなユーリが自分に近づいてくる。
恐怖のあまり、腰が抜けて立てなくなっていたアミナに向かって。
――もしかして、手を差し出されて、ゆっくり体を起こされるのかな?
ここで物語ならそういう行動に出てくるはず。
特に自分は弱小貴族で相手は高嶺の花である王子。
こんなことがない限り、話すらできない相手なのだ。
しかも、じっと自分のことを見てる気がする。
アミナは目を輝かせていた。
そんな彼女にはユーリがすごく心配してくれている気がしていたからだ。
ただ、ユーリからしたらそんなことは全くなかった。
手なんて差し出すこともないし、むしろ腕を組んだまま当初の予定を果たそうとしていた。
「おいっ、少しいいか?」
「は、はひっ、な、なんでしょうか?」
アミナは驚き、声が裏返る。
しかし、それを気にすることなくユーリは聞く。
「俺の部屋はどこだ? 教えろ!」
「え、えっと……、その……」
アミナはユーリが言ったことを考える。
そもそも、部屋の番号は当人とその従者にしか教えられていない。
すでに挨拶を交わしたあとならともかく、何もヒントもない状態で、部屋がどこにあるかわかるはずもない。
でも、あの王国の英知たるユーリがそんな分かりきったことを聞いてくるはずがないことは、アミナにも分かっていた。
つまり、今の言葉には裏があるわけだ。
でも、その裏が一体何かまではアミナにはわからない。
もちろん裏なんてないので、わからないことが正解だったのだが、アミナはそれに気づかずに歯痒く思っていると、突然ユーリに声をかける人間が現れる。
「ユーリ様、ここにいらしたのですね。探しましたよ!」
「んっ? あぁ、ティーナか。……そういえばティーナも飛び級でこの学園に通うって言ってたもんな。早くから学園に通いたいなんて、物好きだな」
「ユーリ様が通ってるから、ですよ!」
キッパリと言い切ってくるフロレンティーナの表情は、恋する乙女のそれだった。
それに気付いていないのはこの場ではユーリただ一人。
もちろん、アミナもユーリの許嫁たる彼女のことは知っていた。
ギルムーン帝国の第二皇女、フロレンティーナ・ウル・ギルムーン。
自分のことより人のことを考えて、行動するその様と愛らしい容姿から帝国の聖女と称されている人物。
王子であるユーリの正妻にふさわしい人物だった。
ただ、将来ウルアース王国の王となるユーリには、数多くの妾がいてもおかしくない。
元々弱小貴族である自分は正妻の座はつけないとわかっていた。
それなら妾の座を狙って、少しでもユーリに気に入られる。
それもいいな……とアミナは思った。
今まで貶されることはあっても、自分の国の貴族だと認めてくれたのはユーリただ一人。
そのことの感動があまりにも高まり、結果としてその思いはほのかな恋心へと変わっていくことになるのだが、そのことにユーリたちはおろか、本人すらも気づいていなかった。
◇
アミナと別れたあと、ユーリはフロレンティーナに連れられてようやく自分の部屋へ入ることができた。
なぜか、彼女はユーリの部屋の場所を知っていたようだが、そのことについては深く聞かないことにしていた。
――多分、ティーナがこの学園の長に金でも渡して無理やり聞き出したんだろうな。これからは俺の部屋が悪の秘密基地的な役割を担うわけだから。
そんなことを考え、不敵な笑みを浮かべるユーリだった。
実際はフロレンティーナが教師に尋ねたら、普通に教えてくれたのだが、そのことをユーリが知る由もなかった。
「ここがユーリ様のお部屋なのですね。すごく豪華ですね」
部屋に置かれた大量の服を見て、フロレンティーナは感心した声を上げる。
ただ、服に関心のないユーリは彼女のその言葉が部屋のことを指しているのだと勘違いしてしまった。
「そんなことないだろう? どの部屋も同じなんだから」
「ふふふっ、部屋のことではなくて服装のことですよ。私はユーリ様の半分ほどしか持ってきてませんので」
フロレンティーナが笑みを浮かべる。
そのあまりにも可憐な表情に大抵の人は思わず頬が染まってしまう。
しかしユーリは「俺の半分でも多すぎるんだけどな……」と苦笑を浮かべるだけだった。
「それでこの部屋に来るほどの用があったのか?」
「それは……ユーリ様のお声が聞きたかったから……じゃダメでしょうか?」
ただの許婚ならそれも十分に考えられた。
しかし、同じ悪人を目指してる者同士。こうやって一堂に介することも危険なことだとは重々承知しているはずだ。
つまり、悪人を目指しておらず、ただの許婚たるフロレンティーナが言っていることは正しいことに他ならなかったが、ユーリは何もないところからその理由を考え、そしてある考えにたどり着く。
「そうか。あの神託のことだな……」
ここ、アルマーズ公国よりもたらされし神託。
それがウルアース王国にしか届いていないとは考えにくい。
当然ながらギルムーン帝国にも神託はもたらされていると考えるのが自然だった。
「神託? あのユーリ様のことが書かれたものですか?」
フロレンティーナを心配させないようにという皇帝の配慮で、彼女に影の悪人についての話は伏せられ、光の英雄についてだけ告げられていた。
だからこそ英雄はユーリである、という考えの元に今の言葉を告げていた。
そもそもユーリは悪人だ、なんて言っても今や彼女だと変な冗談だと笑い飛ばしてしまうだろう。
ただ、ユーリからしたら悪人だと褒められた気がして、少し気分を良くしていた。
◇
ユーリがアミナを助けるのを見ていたのは、バノンやフロレンティーナだけではなかった。
金髪の少年が別の建物からいじめの様子を見ていたのだった。
「なるほど、彼が噂の英雄……ですか」
「そのようですね、会長」
側にいた背筋をピンと張った少年も同様にユーリへと視線を向けながら言う。
「誰も助けに入らないなら僕が助けに入ろうとしたのですけど、必要なかったようですね」
「聞き伝いでは、不正や悪を絶対に許さない善人……とのことですもんね」
「えぇ、彼はぜひうちの生徒会のメンバーに欲しいですね。学園の悪を払う生徒会に――」
会長と呼ばれた少年は興味深そうにユーリの顔を見て、笑みをこぼしていた。
すると、当然のように赤髪の少年が突っかかってくる。
「あぁ、なんだてめー。代わりにやるのか?」
ただ、孤児院でアランドールと対面した時に感じた恐怖に比べると、赤髪の少年の行為は児戯にも等しかった。
だからこそ、ユーリは腕を組みながら悪役らしいポーズをとる。
そして、不敵に笑いながら言う。
「……お前程度のやつがいきがるのか?」
すると、赤髪の少年は顔まで真っ赤にして怒り出す。
「てめー、喧嘩売ってるのか!!」
――よし、いい兆候だ。これであとは手下に押しつけて、勝手に解決させれば終わりだな。
ユーリは心の中でほくそ笑んでいた。
ただ、ここにユーリの手下たる人物はミーアしかいないことをすっかり抜け落ちていた。
もちろんミーアも助けに入る。
入るには入るが、それはユーリの思惑通りには進まなかった。
「ユーリ様に手を出すのは許しませんよ……、へぶっ」
悪役らしく格の違いを見せつけようとしたのだが、全てをミーアが壊してしまう。
途中で足が躓いて、ユーリたちの前に頭から突っ込んで倒れていた。
――せっかくの悪人らしさを見せつけるチャンスだったのだが、どうしてこうなるんだ。
ユーリは思わず額に手を当てる。
ただ、赤髪の少年はミーアの言葉を聞いて、戦々恐々たる態度を取っていた。
「ゆ、ユーリ……? ま、まさかユーリって、ユーリ・ライナ・ウルアースか!?」
「あぁ、そうだ……。それでどうするんだ? 俺の所有物をいじめて、どうなるかわかってるんだろうな?」
カッコ良く悪人らしさを出すことができなかったユーリは、鋭い視線を少年に向けたまま告げる。
すると、赤髪の少年は大慌てで言っていた。
「お、俺……、いえ、私は少し話していただけです。あ、あなた様に喧嘩を売るつもりは毛頭ありません。も、もう用も終わりましたので、失礼します」
軽く頭を下げると、少年は大急ぎで逃げ去っていった。
その様子を見て、最初から最後まで小悪党だったな、と苦笑を浮かべていた。
◇
金髪の少女――アミナ・ライゼンベルグはウルアース王国の弱小貴族の娘だった。
いや、貴族というのもおこがましいかもしれない。金で位を買ったと言われる商人上がり。
そのように言われて周りの貴族たちからは蔑まれていた。
本当ならアミナはこのセントミジュ学園には来たくなかったのだが、親がどうしても行って他の貴族と親しくしてこいと言うものだから、断り切れずにこうして学園へとやってきたのだ。
ただ、ここでも弱小貴族は軽蔑の対象だった。
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そして、極めつけは他国の少年に詰め寄られてしまった。
そのきっかけはアミナにあって、急いで部屋を探していたときに、軽くぶつかってしまい、すぐに謝ったのだが、それでも許してもらえずに、怖い顔を向けられて、怯えから身動きが取れなくなってしまったのだ。
――とても、こんな学園で過ごしていけない。今すぐにでも帰りたい。
アミナがそう思ったときに、突然一縷の光が差し込んだ。
少し目つきの悪い少年が突如として間を割って入ってきたのだ。
その少年のことは弱小貴族の子女であるアミナですら知っている。
ユーリ・ライナ・ウルアース。
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更には悪事を働く省庁の膿を取り壊すなど、悪を許さないその行動。ユーリこそが絶対の正義であるとまで言われている人物だった。
そんな人物が突然自分を助けに来てくれた。
いや、ユーリとしてはただ悪を見過ごせなかっただけかもしれない。
しかし、それでもいじめられていたアミナからしたら、本当に救世主にしか思えなかった。
白馬の王子様にすら見えていたのだ。
そんなユーリが自分に近づいてくる。
恐怖のあまり、腰が抜けて立てなくなっていたアミナに向かって。
――もしかして、手を差し出されて、ゆっくり体を起こされるのかな?
ここで物語ならそういう行動に出てくるはず。
特に自分は弱小貴族で相手は高嶺の花である王子。
こんなことがない限り、話すらできない相手なのだ。
しかも、じっと自分のことを見てる気がする。
アミナは目を輝かせていた。
そんな彼女にはユーリがすごく心配してくれている気がしていたからだ。
ただ、ユーリからしたらそんなことは全くなかった。
手なんて差し出すこともないし、むしろ腕を組んだまま当初の予定を果たそうとしていた。
「おいっ、少しいいか?」
「は、はひっ、な、なんでしょうか?」
アミナは驚き、声が裏返る。
しかし、それを気にすることなくユーリは聞く。
「俺の部屋はどこだ? 教えろ!」
「え、えっと……、その……」
アミナはユーリが言ったことを考える。
そもそも、部屋の番号は当人とその従者にしか教えられていない。
すでに挨拶を交わしたあとならともかく、何もヒントもない状態で、部屋がどこにあるかわかるはずもない。
でも、あの王国の英知たるユーリがそんな分かりきったことを聞いてくるはずがないことは、アミナにも分かっていた。
つまり、今の言葉には裏があるわけだ。
でも、その裏が一体何かまではアミナにはわからない。
もちろん裏なんてないので、わからないことが正解だったのだが、アミナはそれに気づかずに歯痒く思っていると、突然ユーリに声をかける人間が現れる。
「ユーリ様、ここにいらしたのですね。探しましたよ!」
「んっ? あぁ、ティーナか。……そういえばティーナも飛び級でこの学園に通うって言ってたもんな。早くから学園に通いたいなんて、物好きだな」
「ユーリ様が通ってるから、ですよ!」
キッパリと言い切ってくるフロレンティーナの表情は、恋する乙女のそれだった。
それに気付いていないのはこの場ではユーリただ一人。
もちろん、アミナもユーリの許嫁たる彼女のことは知っていた。
ギルムーン帝国の第二皇女、フロレンティーナ・ウル・ギルムーン。
自分のことより人のことを考えて、行動するその様と愛らしい容姿から帝国の聖女と称されている人物。
王子であるユーリの正妻にふさわしい人物だった。
ただ、将来ウルアース王国の王となるユーリには、数多くの妾がいてもおかしくない。
元々弱小貴族である自分は正妻の座はつけないとわかっていた。
それなら妾の座を狙って、少しでもユーリに気に入られる。
それもいいな……とアミナは思った。
今まで貶されることはあっても、自分の国の貴族だと認めてくれたのはユーリただ一人。
そのことの感動があまりにも高まり、結果としてその思いはほのかな恋心へと変わっていくことになるのだが、そのことにユーリたちはおろか、本人すらも気づいていなかった。
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なぜか、彼女はユーリの部屋の場所を知っていたようだが、そのことについては深く聞かないことにしていた。
――多分、ティーナがこの学園の長に金でも渡して無理やり聞き出したんだろうな。これからは俺の部屋が悪の秘密基地的な役割を担うわけだから。
そんなことを考え、不敵な笑みを浮かべるユーリだった。
実際はフロレンティーナが教師に尋ねたら、普通に教えてくれたのだが、そのことをユーリが知る由もなかった。
「ここがユーリ様のお部屋なのですね。すごく豪華ですね」
部屋に置かれた大量の服を見て、フロレンティーナは感心した声を上げる。
ただ、服に関心のないユーリは彼女のその言葉が部屋のことを指しているのだと勘違いしてしまった。
「そんなことないだろう? どの部屋も同じなんだから」
「ふふふっ、部屋のことではなくて服装のことですよ。私はユーリ様の半分ほどしか持ってきてませんので」
フロレンティーナが笑みを浮かべる。
そのあまりにも可憐な表情に大抵の人は思わず頬が染まってしまう。
しかしユーリは「俺の半分でも多すぎるんだけどな……」と苦笑を浮かべるだけだった。
「それでこの部屋に来るほどの用があったのか?」
「それは……ユーリ様のお声が聞きたかったから……じゃダメでしょうか?」
ただの許婚ならそれも十分に考えられた。
しかし、同じ悪人を目指してる者同士。こうやって一堂に介することも危険なことだとは重々承知しているはずだ。
つまり、悪人を目指しておらず、ただの許婚たるフロレンティーナが言っていることは正しいことに他ならなかったが、ユーリは何もないところからその理由を考え、そしてある考えにたどり着く。
「そうか。あの神託のことだな……」
ここ、アルマーズ公国よりもたらされし神託。
それがウルアース王国にしか届いていないとは考えにくい。
当然ながらギルムーン帝国にも神託はもたらされていると考えるのが自然だった。
「神託? あのユーリ様のことが書かれたものですか?」
フロレンティーナを心配させないようにという皇帝の配慮で、彼女に影の悪人についての話は伏せられ、光の英雄についてだけ告げられていた。
だからこそ英雄はユーリである、という考えの元に今の言葉を告げていた。
そもそもユーリは悪人だ、なんて言っても今や彼女だと変な冗談だと笑い飛ばしてしまうだろう。
ただ、ユーリからしたら悪人だと褒められた気がして、少し気分を良くしていた。
◇
ユーリがアミナを助けるのを見ていたのは、バノンやフロレンティーナだけではなかった。
金髪の少年が別の建物からいじめの様子を見ていたのだった。
「なるほど、彼が噂の英雄……ですか」
「そのようですね、会長」
側にいた背筋をピンと張った少年も同様にユーリへと視線を向けながら言う。
「誰も助けに入らないなら僕が助けに入ろうとしたのですけど、必要なかったようですね」
「聞き伝いでは、不正や悪を絶対に許さない善人……とのことですもんね」
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